覚悟
「あー、昨日は可愛かったなぁ、フクス」
くすっと笑いながら、朱音はスマホを操作する。
「いいこと思いついた。首輪、ポチろ」
鼻歌まじりに通販サイトを眺めていると、足音が近づいてきた。
顔を上げる。
「ん? 雨宮さんじゃん。仕事終わり?」
「はい」
短く頷く。
「最近活躍してるって聞くよ。そこらのゲヒュール相手なら敵なしでしょ?」
「……そうですけど」
歯切れが悪い。
朱音は少しだけ首を傾げた。
「ん? なんか暗いね」
雨宮は視線を落とす。
「今でも……正直、敵討ちはしてほしくありません」
小さく続ける。
「蓮が生きていてくれれば、それでいいんです」
その言葉に、朱音は一瞬だけ黙った。
「……まぁね」
軽く肩をすくめる。
「神代くんが無事に帰れる保証なんて、どこにも無いし」
雨宮の手が、わずかに震える。
「昨日、黒崎さんが戦ったって聞きました」
「うん」
「……あの時、私たち……すぐ近くにいたんです」
朱音の目が細くなる。
「……なるほどね。だから、あの時現れたのか」
「黒崎さんがいなかったら、私たち……」
言葉が途切れる。
朱音が、代わりに続けた。
「殺されてただろうね」
淡々とした事実。
空気が重く沈む。
「……向こうから来ますよね」
雨宮が顔を上げる。
「もう、目をつけられてます」
「まぁ、それはそうだね」
軽く答えるが、その声に甘さはない。
「私も……もっと強くなれれば……」
その呟きに、朱音は首を振る。
「強くなってもね、雨宮さん一人じゃ意味ないよ」
「……え?」
「ヴェーラー相手に二人じゃ足りない」
はっきりと言い切る。
沈黙。
「……じゃあ、どうしたら……」
迷いの声。
朱音は、少しだけ笑った。
「殺すしかないね」
あまりにもあっさりと。
「大丈夫。今回でそこそこ傷は入ってる」
軽く空を見上げる。
「しばらくは出てこないよ」
そして、何でもないことのように続けた。
「それに、多分あいつが回復したら狙うのは――私とフクス」
雨宮が小さく息を呑む。
「白崎さんにはフクスがいますし……安心ですね」
その言葉に、朱音は一瞬きょとんとしたあと、笑った。
「ん? なにそれ」
軽い調子で言う。
「普通に全面戦争だから、九割は死ぬよ。私たち」
さらっと、とんでもないことを口にする。
雨宮が固まる。
「……怖くないんですか」
少しの間。
朱音は視線を逸らして、ぽつりと答えた。
「フクスと一緒なら、いいかな」
それだけだった。
「……フクスだけ死ぬのが、一番嫌だし」
雨宮は何も言えない。
ただ、その言葉の重さを受け止める。
「覚悟、決まってるんですね」
小さく呟く。
朱音は肩をすくめて笑った。
「まぁねぇ」




