フクスの母
「残念だったね、フクス」
軽い調子で言う。
フクスは視線を外したまま、淡々と答えた。
「仕方がない。私が来ることを察知して、逃げられた」
「まぁ、気にしても仕方ないよ」
少しの間。
ふと、朱音が思い出したように口を開く。
「ねぇ、フクス」
「なんだ」
「付いてるよね」
一拍。
「……は?」
「だってさ、いつもお風呂一緒に入るじゃん」
「ああ……そうだが」
わずかに間を置いて、朱音が続ける。
「子供、作れるの?」
フクスはほんの一瞬だけ言葉に詰まり、
「……一応は」
とだけ返した。
「私の母も、突然変異体と恋をして私を産んだ」
視線が少し遠くなる。
「だが本来、ゲヒュールは自然発生する存在だ。出産には耐えられない」
静かに続ける。
「母は――それで死んだ」
感情の起伏はほとんどない。
「まぁ……結果的には良かったのかもしれない」
「一度、人類から“希望”を奪い去った存在だったからな」
わずかに目を細める。
「未来視も遠視も、あれの残滓だ」
沈黙が落ちる。
その空気を、朱音が軽く崩した。
「……する?」
「……は?」
「子供」
さらっと言う。
フクスは少しだけ眉を寄せた。
「……何故だ」
「私たちの子供が出来たらさ」
朱音は当然のように言う。
「私が死んだ後も、フクスはずっと一人じゃなくなるでしょ」
わずかに、言葉が詰まる。
「いや……」
その否定を遮るように、
朱音が一歩、踏み込んだ。
「口答え?」
にやりと笑う。
「フクスは、誰のもの?」
ほんの一瞬の沈黙。
「……朱音のものだ」
小さく答える。
満足げに頷く。
「よろしい」




