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ゲヒュール  作者: ルイ
20/69

躾と作戦会議

何だ、この光景は。


黒崎迅は、思考が一瞬止まるのを自覚した。


目の前で起きていることが、理解と噛み合わない。


「フクス、伏せ。」


軽い調子の声。


それだけで、フクスは迷いなく従った。


躊躇も抵抗もない。


ただ嬉しそうに、地面に伏せる。


「いい子だね、撫でてあげるよ。伏せはそのままね。」


朱音の手が、自然な動作で頭を撫でる。


フクスはそのまま尻尾を振り、よだれを垂らしながらそれを受け入れる。


満足そうに。


心底嬉しそうに。


「可愛いなぁ。」


その声は、完全に“飼い主”のものだった。


黒崎は額を押さえる。


「……そろそろ突っ込んでいいか?」


間を置いて、ようやく声が出る。


「かれこれ30分見せられてるんだが。」


朱音はちらりと視線を向ける。


「文句ある?」


軽い。


だが、妙に逆らいづらい。


黒崎は小さく息を吐いた。


「フクス、お前にプライドは無いのか?」


問いかけるが、返ってくるのは間の抜けた声だった。


「えへへ、最初は離れようと抵抗してたんだけど躾けたんだー。」


朱音が楽しそうに続ける。


「抵抗しようとしてるのも可愛かったしー、落ちちゃったのも可愛いなぁ。」


黒崎は言葉を失う。


目の前の光景と、記憶の中のフクスが一致しない。


「……。」


声が出ない。


「んー、人前でやらされて恥ずかしさの欠片も無く命令聞いちゃうの可愛いなぁ本当に。」


朱音は満足そうに頷く。


「抱きしめてあげる。」


その一言で。


フクスの体が弾かれたように動く。


嬉しそうに飛び込もうとする。


だが。


「待て」


一言。


それだけで。


動きが止まる。


空中で、止められたかのように。


「……。」


黒崎の眉がわずかに動く。


朱音はくすくすと笑う。


「意地悪したくなっちゃったなぁ……。」


軽く、楽しむように言う。


「私がいいよって言うまで、そのまま伏せてて。」


フクスは一瞬だけ動きを迷わせる。


だがすぐに。


静かに、伏せの体勢へ戻る。


表情は、どこか寂しそうだった。


それでも従う。


「どう?可愛くない!」


朱音が振り返る。


「今の見た!?」


黒崎は、しばらく言葉を選ぶ。


「……どうしたんだお前。」


それが精一杯だった。


朱音は気にした様子もない。


「まぁ……フクスは放置……フフッ」


ちらりと視線を向ける。


「しといて。話の本題よ。」


黒崎は即座に返す。


「放置を楽しむのが目的の会話だろ。」


朱音はあっさりと流す。


「フクスから聞いた話によれば、ヴェーラー9体の能力は分かってるし」


指を軽く立てる。


「過半数はフクスが仕留めるけど、取りこぼしがあるのよね。」


黒崎の顔が引きつる。


「おいおいおい……いやまさか」


嫌な予感がそのまま言葉になる。


「取りこぼしを俺らに仕留めろと?」


「そうだけど……。」


あまりにも軽い肯定。


黒崎は即座に首を振る。


「無理無理無理」


ため息混じりに吐き捨てる。


「正直あの二人の敵討ちだけで、生きて帰れる保証は無いんだぞ。」


朱音は少しだけ考える素振りを見せる。


「能力は割れてるし、全員瀕死までは持ち込むから」


あっさりと言う。


「回復される前に探して仕留めて」


黒崎は空を見上げる。


「なるほどな……」


一拍。


「瀕死なら勝ち目がようやく出てきたってなるかよ」


即座に否定する。


朱音は軽く首を傾げる。


「いや、頑張ってよ。」


その無責任さに、黒崎は黙る。


数秒の沈黙。


そして。


「……やるしか無いか。」


小さく、諦めたように呟く。


朱音は満足そうに頷いた。


「それじゃぁー」


わざとらしく間を伸ばす。


「ゆっっっくり分かりやすく」


にやりと笑う。


「今から分かりやすく9体の能力言うから、良く聞いてね。」


黒崎は即座に突っ込む。


「会話引き伸ばして放置時間伸ばしたいだけだろ……」


視線の先。


伏せたままのフクスが、まだ待っている。


微動だにせず。


ただ、許可を待っている。

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