人格契約者と突然変異体
黒崎迅は壁にもたれながら、つまらなそうに口を開いた。
「新入り二人に仕事押しつけたってマジ?」
白崎朱音は椅子の背にもたれ、足を組みながら軽く肩をすくめる。
「うーん……フクスがやりたがらないから。食べるにしても、もう少しマシなのがいいんだって。」
迅は小さく鼻で笑った。
「お前に溺愛してるんだろ。言えば聞くんじゃないのか?」
朱音は少しだけ目を細める。
けれど怒っているというより、呆れているような表情だった。
「んー……私もフクスのこと好きだし、あんまり物みたいに扱いたくないかな。」
迅は腕を組んで、面白そうに朱音を見る。
「ふーん……お前も好きなんだな、あの狐のこと。
流石は“ゲヒュールに愛される突然変異体”。」
朱音の眉がぴくりと動く。
「ゲヒュールに二つも人格を喰わせた物好きに言われてもね。
リンクスとレヒツが可哀想。勝手に人格作ったクセに、嫌われて物みたいに扱われるなんて。」
迅は肩をすくめた。
「そのおかげで今は安定した生活送れてますので。」
一拍置いて、さらりと言う。
「人と恋できないそっちの方が可哀想だな。」
朱音の視線が鋭くなる。
「……喧嘩売ってる?」
迅は一瞬だけ沈黙し、苦笑した。
「悪かった。フクスには勝てないから勘弁してくれ。」
朱音はふっと息を吐き、視線を窓の外へ向ける。
「フクスと出会えて良かったから。
私は不幸じゃないわ。」
迅はその横顔を少しだけ見てから、ぽつりと呟いた。
「……大昔から存在する、ゲヒュールを食べるゲヒュールか。」




