滅亡の原因??
フクスは、考えていた。
数百年。
欲望を奪ってから、それだけの時間が過ぎた。
世界は静かだった。
争いは減り、技術は停滞し、人は穏やかに生きている。
少なくとも――滅びには向かっていない。
それは事実だ。
自分の選択は、間違っていなかったはずだ。
……はずなのに。
胸の奥に、微かな違和感が残り続けている。
「……平和、か」
小さく呟く。
その言葉には、どこか空虚な響きが混じっていた。
確かに世界は壊れていない。
だが、進んでもいない。
流れているだけだ。
停滞したまま、ただ続いている。
それを“守った”と言っていいのか。
それとも。
“止めただけ”なのか。
フクスは目を細める。
未来は、見た。
人類が滅びる光景を。
いくつもの分岐を辿っても、そこに行き着く未来を。
だからこそ、選んだ。
すべての欲望を奪うという手段を。
それだけが、唯一“続く”未来だった。
だが――
「……何故、滅びる?」
その問いには、答えがなかった。
未来は“結果”しか見せない。
原因までは、教えてくれない。
欲望が、引き金だったのは間違いない。
だが、それは本当に“原因”なのか。
引き金があるということは、弾がある。
構造がある。
仕組みがある。
「欲望は……きっかけに過ぎないのではないか」
静かに思考が沈んでいく。
もしそうだとしたら。
自分がやったことは――
「……遅らせただけか」
ぽつりと、言葉が落ちる。
世界を救ったのではない。
ただ、滅びの時間を引き延ばしただけ。
そんな可能性が、頭をよぎる。
そして、もう一つ。
さらに厄介な疑問が浮かぶ。
「……なら、戻したらどうなる」
欲望が戻れば。
人はまた動き出す。
作り、競い、奪い、求める。
世界は確実に変わる。
だが同時に――
あの未来に、再び近づくのではないか。
フクスは、目を閉じた。
思い出すのは、あの静かな滅びの光景。
音もなく、ただ終わっていく世界。
「……分からないな」
珍しく、そう零した。
理解しているつもりだった。
欲望というものを。
人間というものを。
だが今、初めて。
自分は“分かっていないのかもしれない”と感じている。
数百年の間、守り続けてきたものが。
本当に正しかったのか。
それすら、揺らぎ始めていた。
「……それでも」
ゆっくりと、目を開く。
視線は遠くを見ている。
「選ばなければならないか」
戻すのか。
維持するのか。
あるいは――別の道を探すのか。
まだ、答えは出ない。
だが。
確実に一つだけ、分かっていることがある。
「……これは、終わっていない」
静かに、確信する。
欲望を奪った時点で終わった話ではない。
むしろ。
そこから、すべてが始まっているのだと。
フクスは、小さく息を吐いた。
その吐息には、わずかな迷いと――
ほんの少しだけの、期待が混じっていた。




