表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲヒュール  作者: ルイ
17/47

連鎖する感情

「あーあー、協力しないとじゃん」


黒崎迅がわざとらしく肩を落とす。


その軽さに、ため息が重なる。


「いや、自分でふっかけたんでしょ」


呆れた声で朱音が返す。


「諦めさせるために無理難題出して、それでこの結果なんだから」


黒崎は顔をしかめた。


「負けてないから。勝ったから」


即答だった。


朱音は間髪入れずに切り返す。


「レヒツ倒されたんでしょ?それ負けじゃん」


一瞬だけ、言葉に詰まる。


だがすぐに、口を開いた。


「俺を餌にして釣られただけだよ、あいつは」


視線を逸らすことなく言う。


「レヒツ単体なら勝ってた」


朱音は肩をすくめた。


「はいはい、言い訳お疲れ様」


その一言で、話を切る。


黒崎は舌打ちを飲み込む。


「んでさ」


空気を変えるように、軽く続ける。


「触れたら崩壊って、あれ強すぎない?」


思い出すように視線を落とす。


「レヒツの硬度無視で良くない?」


朱音は少しだけ考える素振りを見せてから、あっさりと言った。


「いや、無理でしょ」


淡々と。


「フクスの前足すら崩壊させてたんだから」


一拍。


「貴方なら全身いってたわよ、ワンタッチで」


軽く言う。


「レヒツも同じ」


黒崎の眉がわずかに動く。


「だから仕掛けなかったんでしょ?」


指摘は、正確だった。


黒崎は小さく笑う。


「……見てたん?」


朱音は悪びれもせずに頷く。


「情けなく負けたところ、ちゃんとね」


わざとらしく続ける。


「てか、最後の蹴りいらなかったでしょ」


黒崎は言葉に詰まった。


「いや……あれは」


うまく説明できない。


「なんかこう……」


言葉を探す。


「示しがつかないっていうか」


口に出してから、自分でも曖昧さに気付く。


朱音が首をかしげる。


「何それ」


軽く、しかし的確に刺す。


「プライド?」


黒崎は一瞬、黙った。


「……なんだそれ」


聞き返す声が、少しだけ鈍る。


朱音はあっさり答える。


「自分の格を下げたくない感情、らしいよ」


その言葉が、妙に残る。


黒崎は黙り込む。


胸の奥に、違和感が引っかかる。


――なんで、あそこで蹴った。


勝敗は決していたはずだ。


それでも。


わざわざ、自分で示そうとした。


“勝っている”ことを。


「……」


答えが出ない。


その沈黙を、軽く裂くように。


フクスが笑った。


くつくつと。


楽しそうに。


「感染したんだよ、感情が」


黒崎が顔を上げる。


「無くなったはずのものがね」


フクスは目を細める。


「神代蓮が出した“プライド”」


一拍。


「それを見て、お前も引っ張られた」


静かに言う。


「連鎖だよ」


朱音が小さく首をかしげる。


「……フクス?」


フクスは構わず続ける。


「戦う時のあいつの感情、綺麗だったからね」


くすりと笑う。


「久々に見たよ」


黒崎は、しばらく何も言わなかった。


胸の奥の違和感を、ゆっくりと飲み込む。


そして、小さく息を吐く。


「……そうかもな」


短く、それだけ言った。


否定は、しなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ