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ゲヒュール  作者: ルイ
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交渉の戦い

「……それで?」


黒崎迅は気の抜けた声で言った。


「敵討ちの手助けをしてくれ、と」


言葉をなぞるだけで、意味を突きつける。


神代蓮は一歩踏み出す。


「お願いします」


迷いはない。


その隣で、澪も静かに頭を下げる。


「……私からも」


黒崎は小さく息を吐いた。


「白崎から聞いたよ」


視線が、ほんのわずかに細くなる。


「無茶して強くなったってな」


一拍。


「……で?」


空気が冷える。


「ヴェーラーをさ、舐めすぎじゃないか」


軽い調子のまま、言葉だけが重い。


「諦めさせてやるよ」


その瞬間、足元の影が揺れた。


「二人がかりで――レヒツの相手しろ」


逃げ道は無い。


「倒したら協力してやる」


条件だけを置く。


「死にそうになっても安心しな」


興味なさそうに続ける。


「リンクスが治す」


澪と視線が交わる。


一瞬。


それだけで、十分だった。


「……やります」


声が重なる。


直後。


黒崎の影が盛り上がり、そこから這い出るように現れる。


――人狼。


レヒツ。


影は“通路”。


現れたそれは、完全な実体だった。


空気が沈む。


立っているだけで、圧が違う。


神代は視線を逸らさない。


レヒツもまた、動かない。


距離を詰めない。


ただ、見ている。


澪の足元。


神代の手。


その両方を、正確に。


澪が、わずかに足を動かす。


影が遅れてついてくる。


光と無関係に、形を保ったまま。


一定の長さを維持して、滑るように伸びる。


黒崎の声が落ちる。


「……影、安定させたのか」


澪は答えない。


呼吸を整える。


影は揺れない。


神代は理解する。


こちらから動けば、終わる。


かといって、待てば何も起きない。


――詰み。


それでも。


神代は息を吐く。


弱点は、黒崎迅本体。


そこに触れれば終わる。


読みは、合っている。


一歩、踏み出す。


同時に、澪が動く。


影が走る。


レヒツと黒崎の“間”を塞ぐ。


――これでいい。


神代は踏み込む。


手を伸ばす。


黒崎へ。


その瞬間。


レヒツが消える。


踏み越えた。


影を、一瞬だけ踏み台にして。


横から衝撃。


身体が浮く。


呼吸が潰れる。


叩きつけられる。


だが。


澪の影が絡む。


レヒツの脚を捉える。


崩れる。


――止めた。


「いける……!」


神代は再び立ち上がる。


今度こそ届く。


そう思った瞬間。


黒崎の姿が、消えた。


「……は?」


視界の外から、風が来る。


次の瞬間。


蹴り。


まともに入る。


意識が揺れる。


地面に叩きつけられる。


呼吸が完全に止まる。


思考が追いつかない。


レヒツは、まだ影に捕まっている。


なのに。


なんで。


黒崎が、立っている。


そのまま、こちらを見下ろしている。


「……ああ」


黒崎が、軽く言う。


「そこ、勘違いしてるな」


一歩、近づく。


「レヒツ止めたから安全、って思った?」


視線が落ちる。


「違うだろ」


淡々と。


「俺が動ける時点で、終わってる」


神代は動けない。


「硬度無視は使えないけどさ」


肩をすくめる。


「身体能力は、借りられるんだよ」


一拍。


「“あいつの”な」


澪の影の中で、レヒツが崩れている。


動かない。


「だからさ」


黒崎が軽く笑う。


「武器止めても意味ないだろ」


間。


「使ってる側が残ってるんだから」


神代の視線が揺れる。


「あと」


黒崎の目が、わずかに鋭くなる。


「配置、逆だね」


澪の影と、空いた空間を見る。


「守るなら」


言い切る。


「“俺とお前の間”だろ」


完全に詰み。


黒崎はため息を一つつく。


「まぁでも」


少しだけ柔らぐ。


「よくやったよ」


素直に言う。


「レヒツも博打で影に突っ込んでるしな」


一拍。


「ちゃんと一手は通してる」


神代を見下ろす。


「……倒したら協力するって言ったし」


反応はない。


「あー、本気で蹴りすぎたか」


少しだけ考える。


「悪いことしたな」


澪の声が落ちる。


「……ありがとうございます」


黒崎はあっさり頷いた。


「いいよ」


興味なさそうに。


「約束だしね」

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