澪の本心
「蓮、出かけるよ」
呼ばれて、神代蓮はゆっくり顔を上げた。
「……どこに」
「いつも、休日に行ってたとこ」
一瞬だけ、言葉に詰まる。
それでも澪は続けた。
「映画、見て。クレープ食べて。ちょっと買い物して」
淡々としている。
思い出をなぞるように。
「……分かった」
短く返す。
それだけで、二人は外に出た。
映画を見た。
クレープを食べた。
店を回った。
どれも、昔と同じはずなのに。
決定的に違うものがある。
――澪は、笑わない。
「……ごめん」
ぽつりと落ちる。
蓮が足を止める。
「何が」
「前みたいに、笑えなくて」
少しだけ、言葉を探す。
「優しくも、できなくて」
蓮の視線が揺れる。
「……違う」
低く、押し殺すように。
「それは俺のせいだ」
言い切る。
「俺のせいで、澪の両親は――」
「違う!!」
強く、遮る。
その声だけが、不自然に大きい。
「何も違わない」
蓮は目を逸らさない。
澪の指が、わずかに震える。
「……白崎さんに聞いたから」
小さく、でも確かに。
「無茶したんでしょ」
一歩、近づく。
「ねぇ……やめようよ」
視線を上げる。
「敵討ちなんて」
間。
「蓮まで、いなくならないで」
その言葉だけが、やけに重い。
蓮は、少しだけ目を伏せる。
「……悪い」
短い。
「それは出来ない」
はっきりと。
「無茶したから、今がある」
淡々と続ける。
「だから澪は――」
「それが嫌なの!」
また、遮る。
今度は震えている。
「頑張るから」
言葉が追いつかない。
「笑えるようにするから」
「優しく、できるようにするから」
必死に、並べる。
「だから……お願い」
少しだけ、間が空く。
「やめてよ」
蓮は何も言えない。
ただ、見ている。
「……澪」
やっと出た声は、かすれていた。
「なんで、悲しみなんて消した」
澪は、少しだけ考える。
答えはすぐに出る。
「蓮と、前に進みたかったから」
迷いはない。
それだけだった。
蓮は目を閉じる。
「……そうか」
短く。
それ以上は言わない。
沈黙が落ちる。
澪が、もう一歩だけ踏み出す。
「……じゃあ」
静かに。
「せめて、一緒に戦わせて」
蓮は少しだけ考えて、
それから、頷いた。
「ああ」
そのやり取りを、少し離れた場所から見ている影があった。
「フクス……どう思う?」
朱音が小さく呟く。
フクスは答えない。
視線だけを二人に向けたまま、
ほんの少しだけ、笑う。
「無償の愛か」
静かな声。
「欲望が無いのに、ここまで形になるとはね」
朱音は首をかしげる。
「私たちにも、あるんじゃないの?」
少しだけ不満そうに。
フクスは、今度ははっきりと笑った。
「……さあね」
軽く濁す。
「少なくとも、私の知っているそれとは違う」
視線はまだ外さない。
「だから面白いんだよ」
小さく、付け足す。




