最悪の未来
「フクス、やけに上機嫌だね」
朱音が覗き込む。
フクスはわずかに目を細めた。
「プライドに、また出会えたんだ」
静かな声。
「……嬉しいよ」
「そういえば」
朱音は首をかしげる。
「あの時言ってた“プライド”って何?」
フクスは少しだけ考える。
言葉を選ぶというより、距離を測るように。
「自分を、自分で認めるための感情だ」
一拍。
「他人がどう思うかじゃない」
「自分が、自分を“下げない”ためのもの」
朱音は考える。
すぐに、諦める。
「……よく分かんない」
あっさりと。
「別に、下でも上でもいいじゃん」
フクスは、ほんの少しだけ目を細めた。
否定もしない。
「でも、それがあったから」
視線が、どこか遠くへ向く。
「神代蓮は、壊れなかった」
朱音は小さく頷く。
「確かに……そうだけど」
少しだけ眉を寄せる。
「不思議だね」
その言葉に、フクスの表情がわずかに歪む。
ほんの一瞬。
すぐに消える。
「……どうしたの?」
朱音が覗き込む。
フクスは答えない。
代わりに、静かに口を開く。
「未来を見た」
短く。
「最悪だ」
空気が、少しだけ冷える。
「ヴェーラーが……全面的に、私を殺しに来る」
朱音の目が見開かれる。
「え、いつ?」
「分からない」
首を横に振る。
「でも来る」
一拍。
「必ず」
朱音は言葉を失う。
「大丈夫だよ」
フクスは、いつもと同じ調子で言う。
「なんとしてでも、朱音が死なない未来を取る」
その言い方は、あまりにも軽い。
「それじゃフクスが危ないじゃん!」
朱音の声が、少しだけ強くなる。
フクスは、ほんの少しだけ笑った。
「その気持ちだけで、十分だよ」
間。
「今日は寝ようか」
いつもの声に戻る。
「……抱きしめてくれないか?」
朱音は少しだけ戸惑う。
それでも。
「……うん」
小さく頷く。
「分かった」
フクスは目を閉じる。
「心配しなくていい」
その言葉は、朱音に向けたもの。
――だけではない。
もし自分が死ねば。
奪ったものは、すべて戻る。
その先にある未来を、フクスは知っている。
だから。
それだけは、選ばない。




