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ゲヒュール  作者: ルイ
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大罪と出会い

私は、人間の欲望すべてが好きだ。


九匹の、気の合う友もいる。

彼らは偏食だが、欲望の欠片を喰うという点では同じだ。


話も、よく合った。


ルスト。

リーベ。

アナーケヌング。

ナイト。

カンプフ。

ヘルシャフト。

シュトルツ。

ノイギーア。

シェプフング。


――全員、大好きだった。


人間の欲望は、実に面白い。


技術も、文化も、文明も。

すべてはそこから生まれる。


私はそれを喰うことができる。


やろうと思えば、個人の一生どころか、その先の血筋まで。


だが、やらなかった。


人間が欲望によって何かを生み出す様が、好きだったからだ。


……あの時までは。


私は未来を読む。


見てしまった。


人間が、いなくなる未来を。


理由は分からない。

ただ、確定しているように静かだった。


だから探した。


分岐を。

例外を。

逃げ道を。


何度も、何度も。


そして、たった一つだけ見つけた。


人間が続く未来。


その条件は――


すべての欲望を奪うこと。


それ以外は、すべて終わる。


……嫌だった。


それでも、私は選んだ。


私は全人類から、欲望を喰らった。


すべてを。


友だった彼らは、私を殺そうとした。


当然だろう。

奪ったのだから。


私は重傷を負い、長い間、身を潜めた。


何百年も。


回復して、外に出た。


世界は、何も変わっていなかった。


進まず、ただ続いているだけ。


……退屈だと、思った。


いや、違う。


そうしたのは、私だ。


朱音と出会ったのは、その後だ。


異常な数のゲヒュールが群がっていたが、

私を見るとすぐに逃げていった。


その時点で分かっていた。


ああ、こういう人間は稀にいる。


ゲヒュールを魅了する個体。


だから、離れようと思った。


――思ったのに。


「……夢か」


目を開けると、いつもの天井だった。


隣で寝返りの音がする。


「フクス?」


少し眠そうな声。


「どうしたの」


視線だけを向けると、朱音がこちらを見ていた。

寝起きのまま、何も気負わない顔で。


「昔の夢を見てた」


それだけ言って、少し間を置く。


言葉を選んでいるわけではない。

ただ、どこから話すべきかを測っていた。


「ねぇ」


朱音は小さく首を傾げる。


「私が朱音に惹かれた理由、分かる?」


少し考えて、すぐに答えが返る。


「お強請りしたら可愛がってくれる所でしょ」


思わず、わずかに笑みが漏れる。


「んー、それもあるけど」


視線を外し、少しだけ天井を見上げる。


「初めて会った時さ」


記憶の断片をなぞるように、ゆっくり言葉を置く。


「朱音、私のこと抱きしめたよね」


「あー……」


思い出すように、少しだけ目を細める。


「うん。フワフワしてたから」


軽い。


あまりにも、軽い理由。


「……それで」


フクスは一度言葉を切る。


「そのあと、“家に来る?”って言った」


「あー、言ったね」


変わらない調子で返ってくる。


「……なんで?」


朱音は少し考えた。


けれど、すぐに答えが見つかるわけでもなく、

ただ言葉を探すように視線を泳がせる。


「なんか」


短く、区切る。


「寂しそうだったし」


フクスの視線が、わずかに揺れる。


「……寂しいって、分かるの?」


間。


ほんの少しだけ、考える。


「分かんない」


あっさりとした否定。


「でも」


続ける。


「そう見えたから」


さらに一拍。


「それでいいかなって思って」


沈黙が落ちる。


部屋の空気だけが、静かに流れている。


フクスは小さく息を吐いた。


「……あの時さ」


ぽつりと、落とす。


「初めて、分からなかったんだよね」


朱音が視線を向ける。


「何が?」


「人間が、なんでそう動くのか」


ゆっくりと目を細める。


「全部、知ってるはずだったのに」


わずかに、間。


「理由が――どこにも無かった」


朱音は少しだけ考える。


けれど、すぐに肩の力を抜いた。


「……それで、いいの?」


「うん」


間髪入れずに返る。


「別に、理由なくてもいいし」


その言葉を、フクスはそのまま受け取る。


否定も、肯定もせず。


ただ、受け止める。


そして、ほんの少しだけ笑った。


「……ああ」


静かに、納得するように。


「そりゃ、勝てないよね」


「え?」


「承認欲には、勝てなかったなぁ」


朱音は、少しだけ首をかしげる。


「何それ?」


フクスは視線を外す。


「分かってるよ」


小さく、続ける。


「どんなものかも、どう働くかも」


一瞬だけ、言葉を止める。


「……全部」


そして、ほんのわずかに息を吐いた。


「だから、分かってた」


「抗えないって」

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