感情
「神代蓮、雨宮澪。初仕事だ。結果を出せないようなら、ゲヒュールと契約した罰を与える。」
別に契約なんて、やりたくてやった訳じゃない。
勝手な言い分だと思いつつも、俺はその“仕事”とやらを受ける。
俺は別に構わない。
だが、澪が罰を受けるのは勘弁だ。
――俺に残された、大切な家族だから。
「澪、行けるか?」
「心配しないで、蓮。」
心配するに決まっているだろう……。
――現場到着。
事故物件か。
まあ、ゲヒュールは人に取り付く以外にも、こういう曰く付きの場所を好む。
感情が溜まりやすい場所には、奴らも集まるらしい。
「こいつが……なるほど、こうなるのか。」
目の前にいたのは、牙が異様に発達した犬のようなゲヒュールだった。
普段見ているゲヒュールは、どこか穏やかな姿をしている。だから少し意外だった。
「怖くないの? 怖がりなのに。」
「全く。契約の効果か……まあ、前の俺なら確かに怖がってただろうな。」
感情を食べる生き物――ゲヒュール。
普通は人間と共生し、高ぶり過ぎた感情を食べてくれる。
人間にとっては、ありがたい存在だ。
だが、こいつは違うらしい。
……食べ過ぎだ。
こいつに取り付かれていた人間は、今頃鬱にでもなっているんじゃないか。
「俺がなんとかする、澪!」
そう言った瞬間、澪は俺の言葉を無視して前に出た。
ゲヒュールが澪に襲いかかる。
だが、俺が動くより先に――
奴は地面に叩きつけられていた。
「私の契約したゲヒュールは、私の影になる。
影に触れた任意のものに、超重力をかける。」
「……説明してくれ。」
「蓮こそ言ってないでしょ? 能力。」
……確かに。言い返せない。
俺は、事前に渡されていたナイフを取り出す。
“フクス”というゲヒュールの牙から作られたナイフだ。
動けないゲヒュールに、それを突き刺した。
「一応、俺たちなら普通のナイフでも切れるらしいけどな……」
「ナイフだけでも分かる。
フクスって奴がどれだけ強いか。」
禍々しい、と澪は呟いた。
俺は少し黙ってから、澪を見る。
「澪、お前さ……何を対価にしたんだ?」
澪は一瞬だけ目を逸らして言った。
「言わない。」




