その8.退学万歳
愛してくれる家族。
健康な体。
憧れだった「アルプスの少女」のような村の生活。
帰りたい。
胸の奥に閉まっていた想いが溢れ出した。
大好きな『アニソン』も自由に歌えない
…もし『聖歌』の資格を取り、『聖女』と認定されたら
責任をもたなければならない。
今以上に『アニソン』を自由に歌えなくなるかもしれない。
「そんなのヤダー!」
勢いよく起きたわたしはふわふわに顔を突っ込んだ。
ビロードのような触り心地。
うっとりする良い香りは覚えがある。
…はて、どこで嗅いだものかしら?
体を引くとクーガの顔が近くにあった。
「怖かったね。
もう大丈夫…いや、君が『解呪』してくれたんだ。
ありがとう。」
「目を覚ましましたの?
大丈夫ですの?」
ルーナの頭がピョンピョン跳ねているのが目の端に見える。
わたしはクーガにお姫様抱っこされていた。
「もう大丈夫です!下ろしてください!」
「いや、医務室までは下ろさない。」
クーガが真剣な顔をする。
「魔力切れは怖いよ。
生命力の枯渇だ。
目を覚まさず亡くなる者もいる。」
それは知っている…
でも先程わたしはクーガの胸に顔を押し当てたのだ。
いつも襟をピッタリ閉めてるクーガの胸元が開いている。
体制的にそこに顔を突っ込んだのに違いない…
顔が真っ赤になり、恥ずかしさのあまり震えてるわたしの何を誤解したのか
「痛いところは?」
気遣わしげに聞いてくるクーガ。
「そこの角を曲がれば医務室ですわ」
ルーナの声に救われた心地がした。
「クーガさんの治療『解呪』…詳しくは後ほど聞きますが
ひとまず先にお礼を言いますわ。
アニカさんありがとう。」
医務室で問診中、学園長が訪ねてきてそう言った。
わたしはチャンスだと思い切り出した。
「はい。ですが『アニソン』を歌ってしまいました。
退学ですね!
反省して約束通りにいたします!」
思えば最初から変だった。
身分問わず歌を魔法にする才あるものは
聖歌学園に通えるはずなのに紹介料が必要。
優秀な成績の卒業生は王宮での就職が決定事項。
そんなものかと深く考えてこなかったが
気づくとすごく不快だ。
借金は地道に働いて返す。
うん。
変な歯車にされてしまう前に帰ろう村に!
クーガとルーナと別れは少し…いやかなり寂しいが
「まって、まって。
アニカさん。早急よ!」
学園長が慌てて言う。
「クーガさんを治療して『解呪』してくれたのよ?
そんな子に退学なんて言うわけないわ」
「でもわたし『聖歌』は止めようと思うんです」
学園長が首を傾ける。
「『アニソン』しか歌わない事に決めました」
慌てる学園長。
「困りますわ。ずっと一緒の計画が…」
嘆くルーナ。
「先ほどの歌は、明るく希望に満ちていた。」
感想をくれるクーガ。
そうでしょう!
わたしはクーガに微笑む。
勉強会は一度も行われなかったのが心残りだが
全てから解放されて清々しかった。




