その7.死神?!怖いんですけど!
「あの、無理してないかしら?」
お世話係3日目。
お昼頃、廊下をひとりで歩いていると
3年生のお姉様が声をかけてきた。
「エレノア様お久しぶりです」
わたしはぎこちなくお辞儀をした。
エレノアは入学当初わたしのお世話係をしてくれたお姉様で
村出身のわたしにも優しい数少ない人だ。
「獣人のお世話係にされたと聞いて…」
「そうなんですよ!」
役得ですよね。
「無理矢理押し付けられたなら、私意見しますわ」
なにやら決意を込めて言うエレノアお姉様
昨日は無理矢理な感じだったけど
今は勉強を教えてもらう仲だ…まあ交換条件はあるけど。
「いえ、大丈夫です。
仲良くやってますよ?」
たぶん。
「まあ、アニカは強いのね。
あの恐ろしい目、鋭い牙…昨日廊下ですれ違った時
わたくし血の気が引きましたわ」
え?
首を傾げる。
廊下ですれ違ったら
あわよくば尻尾が当たれと思ってしまうが。
「クーガ様は怖くないですよ。
紳士的です。」
「そうなのね。わたくしったらダメね。弱虫で…」
おやおや〜?
わたしはこの人の事を誤解していたようだ。
確かに優しい良い人なのだろう。
でもそれは自分より弱い人にだけなのかな?
決めつけは良くないが、今まで天使のように見えていたエレノアの羽が取れた。
「何かされたら言ってね。力になるわ」
そう言って立ち去っていくエレノアに思わず舌を出した。
「行儀が悪いよ」
廊下のまがり角からクーガが出てくる。
愉快そうに笑ってる。
よかった今の会話は聞こえてなかったと胸を撫で下ろす。
「学園の案内は昨日でひと通り済みましたから
周辺のお店でも案内しますか?」
「いや、それはまた今度お願いするよ。
テストも近いのだろ。今日の放課後から勉強を教えよう」
「ありがとうございます!」
本当にありがたい。
1年の時はルーナの一夜漬けを見習って赤点は免れたが…あれは才能がなくちゃできない。
わたしにはもう無理だ。
「そういえば『解呪』の方は…」
そのために学園へ来たのだと思い出す。
聞き流していたので滞在日数とかは把握してなかった。
「学園長が尽力なさってくれてるが目処が立たない。」
ため息をつくクーガ。
呪いが解けなくてよかったと思ってしまった。
まだ肉球を触ってない。
ひどいやつでゴメンナサイ。
「だけど希望はある」
にこりと微笑むクーガ。
思わず微笑み返す。
その素敵空間に割り込むルーナ。
「嫌な空気ですわ」
どこから生えてきたのかな?
おそらく睨みを効かせているであろうルーナの後頭部をチョップする。
「痛いですわ!ひどいですわ!」
全力でわめいてくるルーナ。
「わたくしアニカに忠告しに来たのですわ!」
涙目になりながらそれでも間に立ち続ける。
「このクーガ様に関わってはいけません。
不幸が降り注ぎます!」
あらあら、嫉妬かしら。かわいい。
そんなことを思っていると
辺りが薄暗くなる。
昼間なのに?
室内なのに?
急な雨かな?
窓に目をやるとガラスが曇っているのか外が見えない。
ルーナが震えながら私にしがみつく。
「ほら、不幸が来ました!
死神です。
お父様の言ったとおりですわ!!」
廊下の先に黒い人影が現れる。
その人影はゆっくりと近づいてくる。
足音がしない。
薄暗くても近づいてくれば細部が見えてくるはずなのに
その人影はどんなに近くに来ても黒い…影のままだった。
死神?本当に?
クーガがわたし達を背中にかばう。
「じっとしていてください。
大丈夫守ります。」
腰を沈めたかと思うと走り出すクーガ
影はクーガの爪により真っ二つにされる。
人影が掻き消え…しかしクーガはその場に座り込む。
走り寄ろうとするがルーナがしがみついて「近寄ったら駄目ですわ!」と喚く。
「クーガさんはもう友達なの」
わたしはルーナの目を見て言う。
「親友であるわたしの友達という事は…
ルーナの友達でもあるのよ!」
強引だ。
だがルーナは「まあ」と目を輝かせた。
「友のピンチなら助けなければなりませんね!」
愉快な奴だ。
嫌いじゃないよ。
「近寄らないでくれ…呪いを受けた」
クーガが苦しそうに言う。
見ると影に触れた右腕に黒い痣ができている。
クーガの美しい毛を焼き皮膚を溶かしている。
ルーナは顔を背けた。
私は凝視した。
火傷のようにみえる。
では冷まして、炎症を…
わたしは歌った。
大きな声で。
全力で。
大昔のロボットの少年の歌。
単純な歌詞ほど歌いやすいし
とっさの時にでてくる。
わたしは怒っていた。
治療の時は心を落ち着かせるよう心掛けているのに
突然怒りがわいた。
歌に共鳴して
ガラスが割れる。
薄暗さがなくなり、あたたかな午後の日差しが戻る。
クーガがこちらに手を伸ばしてくるのがみえた。
袖は溶けてたままだが
腕は美しい毛並みがもどっていた。
その手に倒れるように私は意識を手放した。




