その5.乙女チックな展開じゃあございませんか
「他の生徒は私を怖がって近づくことさえ
してくれなくてね」
次の日のお昼休み、案内の最中しおらしくクーガが言った。
嘘をつけ
ルーナは怖がらずに案内してたでしょ!
そんな事を言えるはずもなく
「そうですか」と相槌を打った。
わたしも学園に入学した当初案内役の上級生のお姉様にお世話になったのだからと
気持ちを切り替えてクーガを見る。
鋭い目つき
あ、無理っす。
最大限弱味を使う事を考えていらっしゃる
悪い目つきだあれは…
「誤解しないでほしいのだが、
アニカにお願いはするが、無理強いはしない」
クーガは目を伏せる。
なるほど、動作を見れば反省しているのがわかるが
巨体が目を伏せたところで
睨みつけてるようにしか見えん。
悪いやつではなさそうだが
良いやつかは不明。
信用できるかは保留。
「お願いとは?」
「私にアニカの歌を聞かせてほしい」
無理難題すぎる…
「ルーナに聞いたでしょ?
歌ったらダメなんです。退学なんです。」
「私の部屋でこっそりと」
「男性と二人きり!それこそダメです!」
顔が熱くなる。
意識してる事が恥ずかしくて、ますます熱くなる。
好みの顔というだけで好感度を上げてしまう自分も恥ずかしい。
年頃なんだから仕方ないだろ、チクショウ。
「では、彼女…
はじめに学園長の元へ案内してくれた子と一緒ならいいだろう?」
「それはもっと勘弁してください!」
緊急退避を邪魔され、弱味を暴露し、そもそも退学寸前に追い込んだ奴だ。
悪い子じゃないのがタチが悪い。
「こっそりと…一曲だけなら」
クーガの顔が明るくなる。
家のワンちゃん達に遊んであげると言った時の顔だ。
「ここの教室は今使っていません…ここでなら」
防音もしているし、小声なら漏れないだろう。
クーガを意識してないように冷静に…
そう思っているのに歌を聞こうと身を屈め顔を近づけてくる。
こっそりって言ったけどね。言いましたけど、
顔が近い近い近い。
でも選曲をしていると心が落ち着いた。
選んだのは空を飛ぶように戦う女の子の『アニソン』
クーガにぴったりな気がしたのだ。
私が歌い出すと最初びっくりしたような顔をしたが
真剣に聴いてくれてる。
歌いながら『呪い』に勝てますようにと心を込めた。
「不思議な歌だ…勇気をもらえた気がする」
歌い終わると目を輝かせながら称賛してくれるクーガ。
歌を褒められるのは嬉しい。
ニコニコしてしまう。
「戦う者達の歌だ」
うん。わかってるじゃないですか!
「アニカが作った歌なのか?」
「違います!夢で聞いた歌なんです」
わたしはいつもこう答えてる。
歌は魔法を発動するのに必要なだけだから、
わたしがデタラメで歌っていると思っている村人もいた。
ルーナは「神様からの贈り物ですわね」と可愛い事を言っていた。
「そうか…その歌を作った者達と
歌い届けてくれたアニカに感謝しよう」
人が欲しい言葉をくれる人だ。
魔法を使うための手段ではなく
歌そのものを褒めてくれる。
そんな人、母だけかと思っていた。
柔らかな日差しを肩に感じながら
静かな空き教室で
囁き合う。
聖歌学園に入学して初めて肩の力が抜けた気がした。




