その4.クーガこのやろう
「先ほどの歌…
心が安らぎ身体が軽くなりました。
できればもう一度…」
クーガが手を差し出してくる。肉球のついた手を。
ぷにぷにしたい!
そんな失礼な衝動に駆られる。
村にいた頃は犬を飼っていた。
毎日もふりたい放題だった。
もちろん学園に犬はいない。
わたしの異様な目に気づき恐れたのかクーガが手を引っ込める。
「失礼しました。
獣人の手は恐ろしいですよね。」
「そんな事ありません!」
手が完全にマントに仕舞われる前に両手で掴む。
ふわふわでサラサラの毛並みが気持ちいい〜。
「素敵な毛並みですね」
思わず口をついて出た言葉にハッとした。
セクハラ…わたしは今セクハラをしているのでは?
手を離す。
「失礼しました!」
「いえ…」
お互い顔が赤くなる。
黒い毛皮のクーガだが、なんとなく顔を赤らめてるように見えた。
ルーナがわたしとクーガの顔を交互に見てガンをつけてくる。
令嬢?
貴族としての立ち居振る舞い忘れました?
「学園長を訪ねて来たのでしたらご案内しますわ」
ルーナが無理やり間に立ち塞がりいつものように顎を逸らす。
お客様にはいつも丁寧な子なのに。
「それと先ほどの歌のことはお忘れになって。
学園長にバレたらアニカは退学になってしまいますのよ!」
初対面の人に弱点を晒すな!
しかも人の弱点を‼︎
わたしは頭を抱えながらも
「それは…」と言いながら間を置いて「大変ですね。黙っておきましょう。」と言った
間の時にクーガの目が一瞬鋭くなったのは気のせいだろう。
それからルーナがクーガを案内してわたしは一人となり
お弁当箱を片付けたりした。
学園長に用事との事だったし、身分が高そうな服装だった。
きっと関わる事はもうないだろうと思い。
実家のワンちゃんたちに思いを馳せた。
そして放課後
わたしの目の前にクーガがいた。
再びの学園長室で学園長はにこにこしている。
わたしだけが居心地の悪い三者面談。
「彼はクーガさん。
お客様だけど滞在することもあって身分は伏せて紹介させていただくわね。」
「こんにちは。」
クーガは和かな表情だ。
実家の犬に、なめた態度をとられてる時の表情を思い出す。
「彼は『呪い』にかかっていて
『解呪』のためにいらしたの」
「『解呪』の第一人者である学園長と会えて光栄です。」
「ありがとう。
でもねえ。かなり厄介な『呪い』なのよ」
学園長はため息を漏らす。
獣人の国は遠くにあり我が国に馴染みがない。
だがいないわけではない。
王都でも暮らしている獣人はいるし、クーガは獣人なのだと思っていた。
だが『呪い』で姿を変えられてるのだとしたら…
もったいなくないか?と、思ってしまう。
わたしなら獣、ましてや美しいヒョウになってしまったら、なれたら、
一生呪いの効果よ続けと思ってしまう。
「ほらね、彼女なら適任です」
「本当ねぇ」
獣人の姿に想いを馳せてたらなにか話がまとまったらしい
校長がわたしに向かって言う
「アニカにお願いしたいのだけど
クーガ様の案内係引き受けてくださらない?」
テストの近いこの時期に?
無理無理無理。
「引き受けてくれますよね」
クーガが金色の目を細めて言う。
前言撤回。うちのワンちゃんに似ても似つかない。
獲物を追い詰めた猫の目だ。
わたしは良い返事をするしかなかった。
「はい。よろこんで」




