その10.イグルーが見ていた。
ルーナに絵本のことをお願いすると彼女は医務室を飛び出して行った。
「お任せあれですわ!早速お父様にお願いして来ます!」
流石令嬢走らず早歩きで去っていく。
あら、二人きり。
と思ってクーガの方を見ると
知らん獣人が立っていた。
クーガより小柄でどうやら犬の獣人だ。
焦茶の毛並み、フサフサの尻尾。
目線は明後日の方を向いている。
「僕の落ち度ではないですよね。
クーガ様がご友人と居るので『呪い』が発動するなんて思いもよりませんでした。」
悪い事をしたとわかっているけど、謝りたくないワンちゃんの顔だ。
「もちろん。
そのことで君を責める気はないさイグルー。」
ですよね、よかった〜っと言うような表情と尻尾のフリフリ。
なんだこの愛くるしい獣人さんは!
「彼はイグルー。私の監視をしてくれてる者だ。
『呪い』を発動させないために必要でね。」
クーガの説明によると
『呪い』は影に潜みやってくる。
呪われた者が一人でいる時に、油断した隙に…
なのでイグルーが密かに監視をしていたらしい。
なるほど。聖歌学園でクーガを受け入れたのはそれがわかっていたから。
そうでなければ生徒を危険に晒しかねない。
でもそうしたら昼間のことは?
「おそらく『呪い』の発動条件を
アニカさんが変えてしまったんでしょうね。」
イグルーがさらりと言う。
「私が⁈記憶にございませんが?」
「憶測でものを言うなイグルー」
「お言葉ですが、アニカはさんが歌った後魔力が変わりましたよ。
僕より鼻のよいクーガ様が気づかないはずないでしょう?」
「確信はない。」
イグルーはジト目で私を見る。
私が元凶とでも言いたそうな目だ。
ケンカなら買うぞ?
イグルーと睨み合っていると
廊下から足音が聞こえてくる。
意識を廊下に向けた瞬間イグルーがいなくなった。
「彼は気配を消すのが得意でなんだ。」
忍者のような奴だ。
ドアがノックされ返事を待たず先生が入ってくる。
わたしの苦手なダーラ先生だ。
50才位の女性。
厳格で笑った顔は見たことがない。いつも不機嫌そうな顔をしている。
「クーガ様ご機嫌よう。
この度の騒動怪我人が出なくて何よりです。」
いや、クーガが怪我しましたが?
「今回の事件。
責任を感じることはございませんのよ?
西棟一階の窓ガラスは全部割れましたが、
『解呪』をひとつ成功させたのですから」
う、う〜ん。
責任を感じろと聞こえますが?
「ありがとうございます。
アニカが助けてくれたおかげです。」
「彼女はまともに『聖歌』を歌えもしない、はずですが?」
なるほど。
ダーラ先生は疑っているわけだ。
私が回復魔法を使った事を。
確かに『聖歌』は落ちこぼれだから先生の意見はわかる〜。
「アニカさん。今日は一日体を休めなさい。
明日、『聖歌』のテストをします。
あなたが嘘をついていないかどうかのテストをね!」
つまり、テストに落ちれば嘘つきのレッテルを貼られ
退学になると…やったあ!
でも、そうなるとクーガ達とお別れだ。
『解呪』の事が中途半端になってしまう。
「ダーラ先生。
事件の時わたしは『聖歌』でなく『アニソン』で魔法を発動しました。
テストでは『アニソン』を歌っていいですか?」
「学園長から話は聞いてます。許可しましょう。」
ダーラ先生は要件を済ますとさっさと医務室を出て行った。
「アニカの実力を示すテストなのに
歌を聴けるのをうれしく思ってしまうよ」
可愛い事を言ってくれるぜクーガ…って
どこかでイグルーも聞いてるんだよねこの会話。
そして、見ているのかわたしの浮かれ顔。




