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吸血鬼スカーレットとヴィオレッタの2人のお話

スカーレットとヴィオレッタ、初めてのバレンタイン

作者: 瓜姫 須臾
掲載日:2026/02/21

スカーレットさんとヴィオレッタさんの甘々なバレンタインデートをどうぞ。

【Side:スカーレット】


 その日、スカーレットはキッチンで悪戦苦闘していた。


「……ふぅ。

 慣れないお菓子作りなんて、やっぱりぶっつけ本番で上手くはいかないわよね……うぅ」


「スカーレット様、お手伝いいたしましょうか?」


 うっかり弱音を吐けば、少し離れた場所で控えていた侍女が問いかけてくる。

 でも、これだけはスカーレットが自分でやり遂げなければ意味がないのだ。

 自分の想いを込めて作ることこそ、何より彼女への愛の証左となるのだから。

 そう思い直して、侍女からの提案には頭を振る。


「ううん、大丈夫よ。このお菓子を作るのは、やっぱり自分でやらなければね。

 いつもありがとう、サラ」


「かしこまりました。

 スカーレット様に仕えるのが私の仕事ですから、何かあれば遠慮なく仰ってください」


「ええ、頼りにしているわ」


 侍女が軽く頭を下げてから待機姿勢へ戻るのを見届けたスカーレットは、目の前の難題へと目を向けた。

 そこには、上手く溶かせなくてモロモロになった茶色の物体。


 そう。

 甘くて、でもちょっとほろ苦さもある食べ物……ビター寄りなチョコレートだ。


 明後日は、「ばれんたいん」なる催しなのである。

 平民の間ではだいぶ前から流行っていたが、スカーレットみたいな貴族や吸血鬼の間では昨年辺りから流行り出したもので、スカーレットは先日参加したお茶会でその話を聞いたのだ。

 話によれば、「ばれんたいん」とは「想いを込めたチョコレートを相手に贈ることで、日頃の感謝や愛情を伝える祭り」らしい。

 名店などが販売している既製品のチョコレートを渡す人もいるそうだが、手ずから作ったものを渡す人も多いと耳にしたスカーレットは、こう思った。


 ──いつもヴィオレッタからもらってばかりなのだから、こういう祭りの時くらいは私から何かをあげたい。


 そう思ったらもう、行動するしかない。


 すぐさま侍女を伴って材料の買い出しに街へ赴き、城に戻ってからはキッチンに籠って試作品を作り始めた。

 そして、時間軸は冒頭へと戻る。


 意気揚々とチョコレートを作り始めたスカーレットだったが、お菓子作りは生まれてこの方したことがなかった。

 食事に関しても、生粋の吸血鬼なので本来なら血の摂取のみで済む。

 とはいえ、スカーレットは貴族でもあるので、領内の商会や生産者を潤す目的も兼ねて人間と同様の食事を摂っているが……その食事も、基本的には侍女や屋敷内の使用人の手で作られたもの。

 貴族の夫人であるスカーレットがキッチンに立つのは、かなり異例のことだ。


 でも、スカーレットはやると心に決めたのだ。


 少し気弱で。

 普段はよく「はわわ……」となってしまう彼女でも。

 ヴィオレッタに引っ張ってもらってばかりだけれど、これだけは譲れない。


 ちゃんと、自分の想いを「自分で」形にして渡したいのだ。


「……旦那様が生きていれば、旦那様にもあげたかったわね」


 そう。今は亡き旦那様の時のように、想いをちゃんと伝えられずに後悔したくないのだ。

 突然の別れが訪れることがあるのは、人も吸血鬼も変わらない。

 明日、別れが訪れたとしても後悔しないよう、日々を精一杯生きることが大事であり。

 相手への気持ちは、日頃から伝えておくべきなのだ。


「さて、このレシピ集と何が違ったのか……。

 あ、生クリームの入れるタイミングを間違えていたのだわ……。

 一度湯煎でチョコレートを溶かしてから、温めた生クリームを入れるほうがいいのね。

 ……よし。そうと分かれば、次を試作しましょう」


 こうして、スカーレットによる「初めてのバレンタインチョコ作り」は、夜が更けるまで続けられたのであった。



******



 翌日──。



「……どうなったかしらっと。

 ……あっ、これはかなり良い感じにできたかも?だわ。

 サラ、あなたから見てどうかしら?」


「私から見ても、かなり良くできておいでです!

 初めてのチョコレート作りでここまで形になるのは、とても素晴らしいと思います」


 スカーレットと侍女は、魔導冷蔵庫から何かを取り出していた。

 それは、マットな質感のチョコレート達だった。

 ハートや四角の型にはまっているそれは、昨夜、スカーレットが作って魔導冷蔵庫へ保管していたものだ。2人はその出来を確かめていたのである。


「まあ、サラから褒められてしまいましたわ!

 では、これを仕上げてラッピングしましょう」


「スカーレット様、箱と包装紙はこちらにございます」


「用意がいいわね!ありがとう、助かるわ。

 これをこうして……よいしょ……っと」


 すかさずラッピング用の箱や紙を机に並べる侍女と、それを受け取って包装と仕上げの作業をするスカーレット。

 スカーレットは心なしか、少しばかり緊張した面持ちで固まったチョコレートを型から外し、箱に詰めていく。

 ハートや四角の形に固められたチョコレートが箱にいっぱい詰まっていると、宝石箱のように見えてくるから不思議である。

 詰め終えたと同時にふぅっと息を吐き、次の瞬間には嬉しそうに微笑む。

 (ここまで見守ってきた侍女も、主人であるスカーレットから見えない位置でガッツポーズをしている。)

 

 さて、まだ重要な仕上げが残っていたことを思い出したスカーレット。

 少し表情を引き締めて、その白い手に小さめの篩を取る。

 詰め終わったのだから、次が最後の仕上げだ。

 もちろん、ココアパウダーを小さめの篩で振りかけるのである。

 生チョコレートというのは、ココアパウダーをかけたものが非常に多いので。

 「今回が初めての『ばれんたいん』なのだから、よくある形式に合わせるのが良いだろう」と、スカーレットは考えたのだった。


 粉を篩ったら、余分な粉はささっとペーパーなどで拭き取り、蓋を閉める。

 箱に飾り紐を結びつけて、可愛らしいラッピングの袋に詰めれば完成だ。


「できた……できましたわっ!!

 サラ、手紙を書くからヴィーのところまで届けるよう手配してくれるかしら?


「かしこまりました。

 ヴィオレッタ様もきっと喜んでくださいますよ」


「うふふ、そうだと嬉しいわ」


 ニコニコと微笑むスカーレットに対して、「よかったですね」という表情で頷いた侍女は、スカーレットから受け取った手紙を送る手配をするため、キッチンから退室していった。


「明日、ヴィーに会うのが楽しみね!」


 チョコレートを詰め込んだ箱入りの袋を大事そうに抱え、スカーレットは自室へと向かったのだった。



************


【Side:ヴィオレッタ】


「奥様、スカーレット様より速達でのお手紙が届いております」


「あら、ありがとう。

 なになに……」


『明日は"ばれんたいん"というお祭りだそうです。

 街中のお店では催しに合わせた催しをしているようですので、午後に一緒にカフェへ行きませんか?』


「ふふっ、レティからお茶のお誘いとはね!

 珍しいけれど、嬉しいわ。

 ジミー、返事を書くからすぐに送ってくれる?」


「かしこまりました、奥様。

 スカーレット様からのお誘いとは珍しいですね」


 レティからの手紙に気分が上がってしまって、少しはしゃぎ過ぎたかしら。

 まあ、そんな私の様子に慣れているジミーは普段通りの声で問いかけてきた。


「そうねぇ、普段は私から誘ってばかりだし。

 ところで、ジミーはこの『ばれんたいん』なるものを知ってるかしら?」


「ええ、多少は。

 ここ数年、市井で流行っている催しですね。

 昔の聖人にあやかって、『2の月の14日に、想い人やお世話になっている人へ気持ちを込めたチョコレートを贈る』そうですよ。

 恋人のいない者が相手へ自分の想いを告げるきっかけにしたり、伴侶がいる人は日頃の感謝を相手に伝えたり等、様々な人が年に一度のお祭りとして楽しんでいるとか」


「へぇー、恋人と過ごすのにピッタリそうな催しなのね。

 レティも流行へのアンテナが高くて良いことだわ。

 さて……と、よし書けたわ。

 ジミー、手紙の手配よろしくね」


「承りました、奥様。

 すぐに配達を依頼して参ります」


「ええ、頼んだわよ」


 部屋から出ていくジミーを見送った後、私はレティのことを考えていた。



 レティは普段は引っ込み思案で、奥ゆかしい性格だ。

 先に亡くなった旦那様のことを今も心の奥では想っていて、故に私との関係やその想いに葛藤しているのがわかるからこそ。

 そんなあの子がこんな提案をしてくるなんて、ね。

 なんでいじらしくて、可愛いのかしら?


 そもそも、私とレティの関係はちょっと複雑なのよね。

 知り合ったのは、街中のパン屋さんで買い物していた時だったけれど。単なる恋人ではない。

 未亡人同士の恋人だし、お互いに旦那様がいた時から、それぞれの旦那様公認の下での婚外恋愛みたいな関係だったのだから。

 吸血鬼は、その血が濃くなりすぎないようにしながら種を存続させるため、基本的に吸血鬼同士での契約結婚をする。だから、婚外恋愛は吸血鬼の文化として良くあることなのだけれど。


 ……でも、レティは旦那様のこともちゃんと慕っていたものね。

 まあ、私も吸血鬼の中では旦那様と上手くやっている方だったし、慕っていたけれど。

 レティほど強い想いではなかったなぁと、彼女と知り合ってから思ったものよ。


 だけど、私もレティもお互いに旦那様がかなり歳上だったから、自分達が残されることは結婚した当時からわかっていたわ。


 もしかして、私達が知り合った時にお互いの旦那様が揃って私達に対して「愛人契約をしたらどうか?」とやたらに勧めてきたのは、自分達がいなくなった後に遺される私達を案じていたんだろうか?

 今となってはもう、旦那様は2人とも遠い存在になってしまったから真相はわからないけど。


 まあ残念ながら、私達はお互いに旦那様との子を授かれなかったから、2人して寂しい独り身の未亡人となってしまった。

 だからこそお互いに慰め合って……今も関係性を言葉として形にはしていないけれど、今では名実ともに恋人として過ごしている。

 (ここだけの話、吸血鬼なら女同士でも子を授かることができなくはないけど……レティが望まない限り、私から望むことはしないと心に誓っているのよ。)



 そんなこんなで旦那様が亡くなってからというもの、城で1人塞ぎ込んでいたレティが見ていられなくて。

 笑顔になってほしくて。

 だから私は、戸惑う彼女に気づかないフリをして少し強引に外へ連れ出してきた。


 ──貴女の笑顔を見たい、私のわがままだから。


 そういって、レティの前では笑って見せた。

 私も長年共に過ごした自分の旦那様を亡くしているから寂しさや悲しさが溢れそうな時もたまにあったけど、そういう感情を敏感に察知したレティは何も言わずにそっと寄り添ってくれた。

 その度に、「私がレティを元気づけなきゃいけないのに、励まされてどうする!」って自分自身に喝を入れたくもなったけど……でも、穏やかで優しい彼女のことがより大好きになった。


 数年、そんな関係を続けていたら。

 いつの間にか、私が引っ張り回さなくてもレティは1人で外に出かけられるようになった。

 穏やかな微笑みも、ぱあっと華やぐ笑顔も、嬉しそうな顔も見せるようになってきた。



 そしてついに、市井の恋人にぴったりな催しに合わせて、私をお茶に誘ってきた。



「あの子も、だいぶ心が前向きになってきた証拠なのかしら?」


 もしかしたら、私の励ましはもう必要ないのかもしれないわね。

 完全に元気になっても、私は彼女の隣に居続けていいのかしら。

 これからもずっと、隣にいることを望んでもいいのだろうか。


 何より……レティは、私が隣にいることを望んでくれるのだろうか。


「……らしくないわね。私がこんな感傷に浸るなんて。

 せっかく、レティから誘ってくれたのだもの。

 明日は全力で。目一杯、2人で『バレンタイン』を楽しむのよ」


 自分にそう言い聞かせた私は、レティとのお出掛けに来ていく服を選び始めた。



************


【Side:スカーレット】


 気持ちの良い朝日が窓から室内を照らす中、スカーレットは自室の鏡の前にいた。

 両手にそれぞれ持ったドレスを体に当てては、悩み込んでいる。


「どうしようかしら……。

 ヴィーの色に合わせて、銀糸と赤い糸で刺繍を入れたドレスか。

 それとも、自分の色に合わせて作った紫のドレスか……」


 真剣な顔で、鏡の中のドレスと自分を見つめる。

 普段の外出なら、手に持っている紫のドレスのように自分の色で作った普段着のドレスを着るのだが。

 明日は大切な彼女との大事なお出掛け。

 しかも、街中が恋人や大切な人と過ごす人々で溢れかえる年に一度の祭日。

 今回は、意を決してスカーレットからヴィオレッタを誘ったのだ。

 一生懸命に作った贈り物の力を借りて、今回はちゃんと彼女と向き合う。そう、心に決めたのだ。

 これまでの感謝とともに、自分の想いを伝えるために。


 でも、これまでヴィオレッタに手を引いてもらってばかりで。彼女からの愛情に甘えていたから。

 スカーレットは、いきなり彼女の色をイメージしたドレスを着ていって良いのか、自信が持てなかった。

 何せ、もし彼女に「いきなりすぎる」と思われて引かれたりしたら、ショックでしばらく立ち直れない自信がある。


「ヴィーの色を纏っていったら、流石にあからさま過ぎる?引かれたりしないかしら……。

 でも、自分の色を纏うのは普段の生活と変わり映えしないのだわ……」


 普段なら側に控える侍女にも意見を聞くところだが、今回はスカーレットが自分の意思で決めたいと思ったので、侍女には外の廊下で待ってもらっている。


「でも、そうね。

 今回は、私からヴィーへ想いを伝えると決めたのだから。

 きっとヴィーは……」


 スカーレットは、ヴィオレッタが「スカーレットは旦那様を慕っていて、自身への気持ちはそれほどでもない」と思っている節があることを正しく認識できていた。

 いつかはちゃんと気持ちを返したいと、そう淡く思っていても。

 自分の気持ちの踏ん切りがつかなくて、ズルズルと数年も先延ばしにしてしまったので。

 こちらの気持ちが今どこを向いているのか、ヴィオレッタが気づいていないのも無理はない。


 そういう自覚があるからこそ、だいぶ前向きになれたこのタイミングで。

 「ばれんたいん」の力を借りて、ちゃんと向き合うと思っていた。


「……よし、決めたわ。

 今回はヴィーの色のドレスにしましょう」


 散々悩んだ末に腹を括り、スカーレットはドレスを決めた。この後は、メイクやヘアセット等の身支度が待っている。


「サラ、手伝ってちょうだい!」


 スカーレットはドアを開けて侍女を呼び込み、身支度をお願いした。


******


「レティっ!!

 少し待たせてしまったかしら?」


「ヴィー!会いたかったわ!」


 日頃から「一番聞きたい」と思っている馴染みの声で呼びかけられ、スカーレットはつい破顔してしまう。

 後ろを振り返ったら、そこには紫のデイドレスをお洒落に着こなしたヴィオレッタがいた。

 サラサラと風になびいている銀髪に、囚われそうなほどに真っ赤な瞳。

 そして、瞳と同じくらい赤い紅が引かれた唇。


 ──あぁ、ヴィーっていつ見ても綺麗で素敵ね。


 思わず、見惚れてしまう。

 内気な自分には勿体無いくらい、美人で、社交性に富んでいて、人気もある高嶺の花……。

 それが、スカーレットからヴィオレッタへの評価だ。

 スカーレットは自己評価がちょっぴり低めなので、自分にはあまり自信がないのである。


 ハッと我に返り、はしたなくない範囲の小走りで駆け寄ると。

 華やかな香りが鼻腔をくすぐる。ヴィオレッタがいつもつけている香水だ。

 スカーレットはその香りが大好きだった。

 ヴィオレッタによく似合う香りなのもそうだが、何よりも「自分と会う時にだけ付けている」ことを知っているから。

 自分がヴィオレッタの中で特別な存在なのだと再認識できて、スカーレットは嬉しくなるのだ。


「私も今来たところだから、大丈夫よ」


「それならよかったわ。

 今日は誘ってくれてありがとう」


 花開くような、フワッとした笑みを浮かべるヴィオレッタ。

 いつもは、どちらかといえば気が強そうでキリッとした華やか美人であるヴィオレッタがこうして柔らかい表情をするのは、スカーレットの前でのみ。

 元々社交界で人気者とはいえ、この笑みを目にして当てられない人いないと思うスカーレットだったが……。

 それと同時にこう思った。

 許されるのなら、この素敵な微笑みは今後も自分だけで独占し続けたい。

 柔和な空気感を纏う彼女を知るのは自分だけでいい、と。


 そんなことを考えているとは悟られないよう、少しだけ首をもたげた独占欲や仄暗い感情に蓋をして。

 いつも通りに笑顔を浮かべて、ヴィオレッタに応える。


 隣に立ち。

 ちょっと気恥ずかしい気持ちを抑えつつ、自ら進んでヴィオレッタと腕を絡ませた。


「こちらこそ。

 付き合ってくれて嬉しいわ、ヴィー」


 スカーレットから腕を組まれたことに少し驚いたようなヴィオレッタだったが、すぐにまた甘い表情を浮かべてスカーレットに合わせてしっかりと腕を絡ませる。

 そして、弾んだ声で話し出す。

 スカーレットも、自然と弾んだ声と表情で会話を返す。


「他ならぬレティからのお誘いだもの。

 何を差し置いてでも、付き合うに決まってるじゃない」


「ふふっ、ありがとう。本当に嬉しい。

 でも、ちゃんと領主のお仕事はしなきゃダメよ?」


「あら、それはレティも同じじゃない。

 でもまあ、領地に関しては旦那様の時代からいる優秀な代官にお任せしてるから、万事大丈夫よ」


「そういえばそうだったわね。

 さて、お店の予約をしてあるから早速行きましょう?」


 どこからどう見ても、相思相愛な恋人にしか見えない2人は、目的のカフェに向けて歩き出したのであった。


******


 街中でもお洒落だと評判なカフェに来た2人。

 店に入り、スカーレットが店員へ予約していたことを告げると、一番奥の個室へと通される。


 通された個室には、テーブルと椅子4脚のセットが一つ置いてある。家族連れ等も利用しているのだろうか。

 普段通りに、2人は自然と向かい合わせで座る。

 店員からメニュー表を受け取って、ヴィオレッタと2人で眺める。


(チョコレートを渡すのは、カフェでのお話の終盤がいいのよね……??

 落ち着いて渡すなら、カフェの中の方が良いだろうし……)


 メニュー見つつ、そんなことを考えてしまう。

 だから、ヴィオレッタが楽しそうに問いかけてきた時に反応するのが遅れてしまった。


「あ、これ恋人限定メニューなのね。

 レティ、どうする?試してみる?」


「……」


「レティ??」


「……えっ、あっ、ええっ!

 2人でしか頼めないなら、せっかくだし頼みましょうか!」


 ヴィオレッタはスカーレットの方を心配そうに伺いつつ、少し申し訳なさそうな顔をしている。

 この顔は、自分だけはしゃぎすぎたとか押し付けてしまったとか思っているかもしれない。


「嫌なら無理にとは言わないけれど……。

 頼んでいいなら頼みたいわ」


「ごめんなさい、嫌だとかそんなんじゃなくて。

 ちょっとだけ考え事をしてたの。

 なんでもないから……大丈夫よ」


 おずおずと口を開くヴィオレッタの様子に、申し訳ないことをしてしまったと感じたスカーレットは急いで釈明した。

 そして、呼び鈴で店員を呼び、決めたメニューと限定メニューを頼む。

 注文をメモした店員が個室から出ていくのを確認し、明るい声となるように意識的に口角を上げながらヴィオレッタに話しかけた。



 話をしながらしばらく待っていると、今度は店員が料理を運んできた。


 どれも貴族御用達に相応しい、お洒落で洗練された料理だ。

 カフェでお茶……とはいっても、本日はランチも兼ねているので、デザートだけでなくメインの食事も頼んでいる。

 照のある鶏肉のソテーに、香ばしい香りのするバゲット。

 ツヤツヤに磨き上げられたカトラリーやプレート。

 紅茶やコーヒーも良い香りで、上等な茶葉や豆が使われていることがよくわかる。

 他の貴族達が好んで利用するのも納得するクオリティだ。


 美味しい食事やお茶に舌鼓を打つ2人だが、会話にも花が咲く。


「今日は『ばれんたいん』だからか、街中もすごく賑わっていたわね」


「そうねぇ。街が賑わうのは良いことだわ。

 こういう平和的な祭りが増えれば増えるほど、お店や関連した職につく者が潤うのだし。

 この流行りようだと、たぶん、来年には王家もきっと市井の流行りに乗って国の祝日にするなり、国としての祭典を開催したりいろいろしてきそうじゃない?」


「確かに、ヴィーの言うとおりかもしれないわね。

 特に国王陛下や王太子殿下はこういう催しが好きそうだものね。

 チョコレートなら、私達のような吸血鬼でも問題なく食せるから参加しやすいから、吸血鬼と人間が共存しているこの国でも流行らせやすいものね」


 話をするのは、やはりこのお店に来る道中で見かけた街中の様子。

 市井の流行りでも、ここまで街中が何かの催し一色に染め上げられるというのはなかなかないことだ。

 それだけ、多くの民が共感して盛り上げようと感じているのだろう。


 特にこの国は、古くから人間と吸血鬼が共存しているので、その双方で楽しめるモノでない場合には盛り上がりにくいという事情があった。

 その点、「バレンタイン」ならどちらも関係なく楽しめるので、王家としても放ってはおかないだろう。


「そうそう。

 私達も、自分の領内や街へしっかりお金を落とさないとね。

 『お金は天下の回りモノ』なのだから」


 誰かの口調を真似しながら話すヴィオレッタに、スカーレットは少し笑いながら問いかける。


「あら、ヴィーの旦那様の受け売り??」


「まあそんなところよ。生きていた頃には、口を酸っぱくしてよく言われたのよ」


 ちょっと不服そうな顔をしつつ答えるヴィオレッタは、普段よりも少し幼く見える。

 そんなところもまた可愛らしいと思いつつ、スカーレットは話を続けた。


「ふふふ、ヴィーの旦那様らしいわね。

 2人とも仲良かったものね」


「まあねぇ、うちの旦那様は割と放任主義だったから。

 年齢差の割には自由にさせてくれてたし、お互いに良い距離感で過ごせていたわね。

 でも、お互いの気持ちとしては、レティのところほどではないわね」


「そ、そんなことないわ!

 確かに、私は旦那様をお慕いしていたけれど……旦那様からしたら妻というよりも妹とか娘みたいな存在でしかなかったと思うもの」


 突然、自分と比べられて慌てて否定しようとしたが、ヴィオレッタはすかさず首を傾げながらも口を開いた。


「そうかしら?

 側から見ている分には、レティの旦那様はちゃんとレティを妻として見ていたように思うけれど……。

 まあ良いわ」


 そういうなり、話題を変えるためなのか徐にスカーレットの手を取り、その甲へと口付けた。

 そして、今までよりも少し熱のこもった視線をスカーレットに向ける。


 瞬間、スカーレットは頬を真っ赤に染めてあたふたし始めた。


「っ!?」


(ヴィーからの口付け……!ど、どうしましょう……。

 そんなに熱い目で見つめられたら、ドキドキしすぎて心臓が壊れてしまうわ……)


 耳まで真っ赤になってしまったスカーレットに、ヴィオレッタは口元を緩ませる。

 そして、少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「ふふっ、だってレティはこんなに魅力的なのに。

 相変わらず、自分の魅力に気づいていないんだもの」


「もうっ、ヴィーったら……」


「ふふふっ。揶揄ったわけじゃなくて、本気よ?」


 そういって、ヴィオレッタは笑いながら、握っていた手を離して。

 少しだけしんみりとした表情をしながら、言葉を続ける。


「まあでも」


 先程まで見ていたメニュー表を見やりながら、ヴィオレッタはかつて隣にいた彼(自分の旦那様)に思いを馳せる。


「旦那様達が生きていた頃にこういう催しが流行っていたら、きっと私達も旦那様へチョコレートを作っていたんでしょうね」


「そうね……。こういう催しは旦那様達もきっと喜んでくれたと思うわ。

 ……でも」


「?」


 少しきょとんとした顔をしているヴィオレッタに対して、ここまで来たならもう伝えるしかない、と思う。

 ここで伝えなくては、女が廃るというもの。

 「ええい、ままよ!」とばかりに、震えそうな声を必死に押さえつけながら、言葉を形にする。


「今の私にはヴィーがいるし、貴女だけだから」


 これからも、お互いに自分の旦那様を思い出して寂しくなることもあると思うけれど。

 きっと、旦那様達2人は、スカーレットとヴィオレッタには、前を向いて生きてほしいと願っているはず。

 

「だから、その……私、ヴィーとともに前を向こうと思いますの」


 ──私の旦那様とヴィーの旦那様。

   どうか、私とヴィーがともに歩むことを許してください。


「……これからもずっと、私の隣を歩んでくれますか?」


 スカーレットが捻り出した言葉に、ヴィオレッタは目を見開き……嬉しくて涙目になりながらも、破顔した。


「……っ!!

 ええ、ええ!もちろんよっ!

 病める時も健やかなる時も、永遠に一緒よ!」


「ありがとう、ヴィー。

 受け入れてもらえて嬉しいわ。

 それでね、その……」


 鞄にしまっていたモノを取り出して、ヴィオレッタの目の前に置く。

 彼女をイメージして、銀のリボンでラッピングした赤い袋だ。


 中には、昨日までに悪戦苦闘して作成したチョコレートが入っている。


「……はい、これ。

 本当は、ここでの料理とかを食べた後に渡そうかなと思ってたのだけれど」


 スカーレットはちょっと恥ずかしそうに頬を掻きながら、ヴィオレッタへ贈り物を手渡した。

 先ほど考え込んでしまっていたのはこれを渡すタイミングを悩んでいたからだ、というのも付け加えて説明する。


 受け取ったヴィオレッタはというと、大好きなスカーレットから贈り物をもらえたことでとても舞い上がっている。


「まあ、嬉しいわ!ありがとう、レティ!

 バレンタインの贈り物ってことね!

 開けて見ても良いかしら?」


 待ちきれない子どものように目を輝かせ、弾んだ声で開ける許可をもらおうとしていた。


「ええ。

 喜んでもらえてよかったわ。

 その、手作りだから……ヴィーの口に合うと良いのだけれど」


「て、手作り……!レティ、すごく嬉しいわ!

 わぁっ、可愛らしいチョコレートね!」


 キラキラした目で、袋から取り出したチョコレートを眺める。

 スカーレットはここまで喜んでもらえたなら作った甲斐があったな、と安堵した。


 ヴィオレッタはチョコレート達をひとしきり眺めた後、一粒手に取ってパクッと口に入れた。

 余程美味しかったのか、嬉しかったのか。

 途端に頬を手で押さえながら、顔を蕩けさせる。


「ん〜!甘くて、でも少しビターめで美味しいわね。

 口溶けも滑らかだし、レティってお菓子作り上手なのね!」


 初めての手作りチョコレートを褒めちぎられたスカーレットはというと、


「そんなに褒められると、なんだか照れてしまうわ……。

 思い切って手作りにチャレンジしてみたのだけれど、本当に良かったわ」


 先ほどまでとは違って、照れから頬を軽く染めた。

 そして、はにかむように笑った。



 その後は、また楽しく話をしながらお店の料理の残りを食べ、食後のデザートまでしっかりと楽しんだ2人。

 良いサービスと素敵な時間を提供してくれたお店と店員には、店を後にする時にチップを忘れずに渡した。

 この店でゆっくりとお茶をすることで、スカーレットはちゃんとヴィオレッタと向き合って伝えるべき言葉を伝えられた。

 2人の絆をより深められたのだから、感謝を伝えるのは当然だ。



「楽しい時間ももう終わりね……」


「あっという間だったわね」


 楽しいカフェデートは終わり、別れの時間が近づいていた。

 スカーレットもヴィオレッタも、揃って寂しそうな顔をしている。

 2人ともそれぞれ貴族としての邸宅や領地の城があるので、家や領地に帰ればそれぞれに使用人はいる。

 だが、使用人は使用人だ。

 スカーレットやヴィオレッタが家族のようなものだと思っていても、やはり少し隔たりがあり、一線が引かれているものだ。


「……家に帰ったら離れ離れになるし、寂しいわね。

 今日は、レティの今の気持ちを伝えてもらったばかりだからか、離れ難いわ……」


「あの……以前、『同棲しないか』ってヴィーは言ってくれてたじゃない?」


「ええ」


「その……もしも、今もそう思ってくれているなら、だけれど。

 ……一緒に生活しない?」


「レティ……!!あーもう、可愛すぎて食べてしまいたいわねっ!

 貴女がいいのなら、私に否やはないわ!

 すぐにでも一緒に暮らし始めましょう!」


「あっ、あの、お互いに貴族家の当主となっているのだし、使用人とか邸宅や城とかの整理や王家への届出も必要だから……」


「もうっ、そんなのはわかっているわっ!」


(本当かしら……今すぐにでも家を放り出して押しかけてきそうな勢いだった気がするけれど…?)


 などと思うスカーレットだったけれど、今すぐにでも一緒に生活したいと思ったのは同じだったので、それ以上は何も言わなかった。


 今日のところは、ヴィオレッタがスカーレットの家にお泊りをすることにした。

 ヴィオレッタの家には、彼女の帰りが明日になることを伝える手紙を出し、今後は徐々に同棲へ向けて動くことも伝えた。


「これから忙しくなりそうだけれど、一緒に暮らすために頑張るわよ!」


「ええ、ヴィーと一緒ならきっと乗り越えられるわ」


 そう、2人一緒なら、きっとどんなことでも大丈夫。


 初めての「バレンタイン」、そしてカフェデートを終えて家路についた2人の顔は、デートの前とはどこか違っていたが。

 お互いに少しすれ違っていた部分の想いがやっと通じ合ったことで、晴れやかで明るくて、前向きな愛に溢れたものとなっていたのだった。



 ──Happy Valentine!!


ー スカーレットとヴィオレッタ、初めてのバレンタイン 了 ー

デート中のヴィオレッタさん視点とか、家に帰ってからのお泊まりとかは気が向いたら書くかも?です。(イラストはそのうち書きたい。)

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