7話「いただきます」
昨日はお休みをしましたので、本日は少し長くなりました。
私は目が覚めるとすぐに体を起こす。すると突然目の前にぽっかり現れた、小さなガスコンロ台とシンク。私から見て部屋の左奥に見える、外との赤いドアの手前。
〝水道管なんか引いた覚えないけど…〟
それを聞きたかったのに、ガスコンロの前に立つ七星さんはこう言ってしまった。
「おはよう春子。食事をしよう」
「食事…?」
そういえば私は、ここに閉じ込められてから食事をしていない。そうだ!していない!
いくらなんでもそれは変だ。どうして気づかなかったんだろう。そんなに何年も…
「君の好きなミートボールと焼きそばだ。コーンスープもあるよ。焼きそばにマヨネーズは今日はかける?」
「え」
私の好きな食べ物しか言われなかった。それは有難いけど、流石に聞かせて欲しい。
「どうして、そんなに私に詳しいんですか?」
七星さんは、ぶくぶく湧いた鍋からミートボールの袋を取り出していた。レトルトなのね。好きだけど。
同時に、隣のコンロで焼き目でも付けているらしい焼きそばが、ソースの焦げた香ばしい香りを立てる。七星さんは焼きそばを盛り付けながら喋った。
「僕は君のことなら、なーんでも知ってる。だから安心してくれていい。君が今、〝怖い〟としか思っていないことも」
何も言えなかった。そこまで内心を見透かされたら、人は改めて何かを言うなんて出来ない。
他の誰も青いドアからは出てこなかったし、七星さんも食事はしなかった。
「食べないんですか?」と聞くと、「君の番だよ」とだけ言われた。
〝私の番ってなんだろうなぁ。いちいち聞いても、多過ぎて分からなくなりそうだし、いいや…〟
焼きそばは、美味しい。小さい頃、焼きそばばかり食べたがって怒られた。ミートボールも、そればかりねだっていたら、怒られた。うーん。そりゃ、栄養が偏るもんね。ごめん。お母さん。
焼きそばの盛られた大きな平皿は、青い。コーンスープは黄色く分厚いマグカップだ。スープの熱さが直に手に伝わる。ミートボールはほかほか湯気を立てながら、透明で花模様の施されたガラス容器に入れられていた。
もそもそ焼きそばの麺を口に運び、合間にミートボールを食べる。
〝そういえば、野菜はもやしも入ってないけど、もしかして野菜嫌いなのも知れてるのかしら…〟
私がそう考えていた時、七星さんが突然あははと笑った。何を見たんだろうと窓を見ると、カーテンは元通り閉まっている。七星さんに目を戻す。
「野菜は君には出さない」
私はそろそろ、「怖いです!」と叫びたかった。
その後数時間して、七星さんはなぜか勝手にカップ焼きそばを食べていた。どこから出したのか分からないけど、多分布団から左へ振り返ると見える冷蔵庫の上だろう。でも、冷蔵庫の中にはミートボールと焼きそばがあるのに。
〝そういえば、さっき見た時肉じゃがもあったかも?コカコーラとお豆腐も…〟
「あの、焼きそば、食べないんですか?」
七星さんは床に胡座をかいて、カップ焼きそばを抱えて一生懸命ほうばっている。私に声を掛けられ振り向いたけど、少しうるさそう。
「別に。あれは君のだよ」
「はあ。食べてもいいですけど…」
「君じゃなきゃ、料理なんかしない」
初めてつっけんどんな七星さんを見た。今までは、ただ穏やかで丁寧なだけだった。実はちょっと、そんな彼を警戒していたのだ。
〝慇懃無礼な態度しか取れない怪しい人、って訳でもないみたい。食事中は意外と気を抜いてしまうのね。そりゃそうか〟
〝それにしても、他の皆さんはよく寝るなあ…〟
食事が終わった七星さんは、青いドアの向こうへ引き返して行った。でもそれっきり、2日間も誰も現れなかった。
〝退屈だな…一人で生きていくって…〟
そんな風に考えながら、たまにカーテンを開けてみたりしたけど、やっぱり誰も居なかった。
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