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3話「双璧の争い」

本日は遅くなりました。更新時刻は不定期です。




「それで、貴女は…?」


目が覚めた私は、突然現れた女の子にすっかり驚き混乱した。それから大して信頼されてもいない七星さんから、「自己紹介を聞いてみてよ」と言われたのだ。


「響子。響く、子よ」


響子さん、は、それだけを言った。その後少し、彼女が今整理しているかもしれない自己紹介を待ってみたけど、彼女は私の返事を待つようにこちらを見詰める。


〝え、それだけ…?〟


「はあ…」


相手の反応が薄ければ話してくれるのかしらと私は思ったけど、どうやらそうでもないみたいで、響子さんは部屋の中をちょっと見渡してから、また私を見た。


その目は、悲壮な決意がありますと語っているようだ。でも、ものすごく強い目。あまりに迷いがないから、こちらが困るかもしれないと感じた。


セーラー服の響子さんは、七星さんの隣に座っていた。でも、私達の真ん中へ手をついてぐいっとこちらへ体を近づける。


〝近い!怖い!〟


そう思って目を逸らしたいのに、そうしたら怒られそうなくらいに、彼女の目は鋭く尖っていた。


「貴女をここから助けに来たの」


私の地平線がぐらりと揺らぐ。


ここから助けに来た。


それは、ここを出られるという事。


〝なんでだろう。無理だと思うし、やっぱり怖い!〟


誰一人来られなかった、誰も居ない街にやって来てまで、私を助けてくれると言うなら。普通は頼る。


でも、二人共知らない人だし、なぜ私に協力的なのか話してくれない。


仕方なく私は、諦める振りをしてみた。


「気にしないで…そんなの、無理だから…それに、生きてはいます…」


響子さんはすぐに引き下がって体を元に戻してくれたけど、腕組みをして私をきつく睨んだ。怖くて私は脇を向く。


〝でも、そうしたらこの二人はどうやって出て行けばいいの!?ああ、今度はそれを考えなくちゃ!〟


私は新たな考え事が出来てしまって、七星さんが軽く両手を上げてまた間に入ってくれようとしたのを見た。だから、ちょっと七星さんの顔に目をやる。


にこやかに細められた両目が、等しくただならぬ大きさに開いて、彼はすぐにがばりと響子さんを取り押さえに掛かった。


響子さんが持っている包丁を、七星さんがなんとか取り上げようとしている。そんな。たった一瞬だったのに。


〝大変!〟


頭を抱えて身体を縮め、二人の揉み合いを見ていた。


衣服が擦れ合う音がこんなに荒立たしいなんて。床へぶつかる足や手が、こんな大きな音を立てるなんて。二人共が力の限り暴れているみたい。


部屋が割れるよう!


怖くて怖くて、泣きそうになった。私もなんとかしなくちゃいけないのに、包丁を持った人をどう取り押さえるのかなんて知らない。それに、邪魔をしたら誰か一人でも、二人でも、怪我をしそう。


〝怖い!〟


「放して!放してよ!アンタになんか何もわからないわよ!この子の気持ちなんて!」


響子さんの叫び声は、怒り狂っている。まるで母さんのヒステリーみたい。


「ああ分からないさ!ただ、今すぐ死にたいなんて誰も言ってない!」


七星さんはさっきまであんなに穏やかだったのに。それがこんなに叫ぶなら、大変なんだ。


「ええ、言ってないでしょうよ!そんな方法を春子は選べなかったわ!」


〝私には、どうする事も出来ない〟


〝怖い。怖い。死ぬのは怖い。死ぬのは怖い!〟


「誰か…誰か…」


来ないはずの誰かを呼ぶ声が口から漏れ、それは七星さんも響子さんも呼んでいた。





響子さんは、散々泣き叫んで暴れてから、諦めてくれた。


彼女が膝を抱えて壁に背をもたせるだけになってから、七星さんはどうにか泣きやんだ私へ屈み込む。


「気分はどう?まあ、悪いか」


相変わらず照れ笑いだけをしている七星さん。でも、一応私を助けてくれた。のかな。


〝私を助けに来たって言って、私を殺そうとする人も、追い出してはいないけど…〟


私は考えた。なんだか、全部が変なんだもの。


〝ここまでの事があったのに、この人達は帰りもしない。とにかく私を殺したかったり、お金が欲しくて騙してきた訳ではなさそう…でも、誰なの?〟


私は必死に自分の目の力を抑えて抑えて、七星さんにこう聞く。


「貴方達は…何をしに来たの…?知り合いみたいだけど…」


それを聞いて七星さんは膝を完全に折り畳み、しかし床に尻は付けず私の真ん前に蹲った。


彼は、私の頬をゆっくり、触れないように包む。耳の辺りは隠さないよう。そうされるのはちょっと怖かった。


優しい微笑み。でも、なんとなくもう分かった。七星さんには、何かの理由で話せない事がある。


「君を、助けに来た」


その晩は、寝入ってしまった二人を気にしながら、外からまた足音が聴こえてきやしないかと、私は起きていた。



つづく

お読み頂きありがとうございました。


ミステリーめいてくるのは、ほぼ最後です。


カテゴリーを変えようにも、ミステリーとしか言えません。

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