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第6章 黒宝の少年、閉じた瞳の奥

 夕暮れの校舎裏。

 影妖が逃げ込むように姿を消してから、

 三人はしばらくその場に立ち尽くしていた。


 その静けさを破るように――

 影の奥からひとりの少年が姿を見せた。


 黒く短い髪。

 細身の体に無表情の顔。

 胸元には、深い闇を宿すような黒い宝玉。


 レンは喉がひりつくほど緊張した。


(……あれが……“四人目”なのか?

 でも……宝玉の色が他の三つと違う。

 本当に“主”なのか……?)


 少年は三人の前でぴたりと足を止め、

 まったく感情の読めない瞳でこちらを見た。


「…………」


 声を発しない。

 ただ、静かに、こちらを観察するように。


「えっと……あの……」

 ミオが不安そうに声をかけようとしたとき――


『その者に、近づくな』


 青玉が凍りつくような声で囁いた。


 ミオはびくりと肩を震わせる。


「どういうこと……青龍……?」


『その宝玉……

 四神ではない。

 “黒宝”――

 本来、存在しないはずの輝き』


「存在しない……?」


 レンが息を呑む。


 そのとき、黒宝の少年がゆっくり顔を上げた。


 表情は変わらないのに、

 なぜか“寒気”だけが走る。


「…………キミたち」


 初めて聞く声は、澄んでいるのにどこか冷たい。


「影が……ついている」


 ミオが身をすくめた。


「つ、ついてるって……どういう……」


 少年は続ける。


「キミたちが戦った影妖。

 あれは“呼ばれた”だけ。

 本当は、もっと大きな影が――」


 ふいに、その言葉が途切れた。


 少年は胸元の黒宝に指を添えながら、

 抑えるように目を閉じた。


 その瞬間。


 ――黒い気が、少年の体からにじみ出た。


「!!」


 レンがミオとハルカをかばうように前に立った。


(こいつ……影妖を呼び寄せた……!?

 いや、影の動きが……この子に“従ってる”!?)


 影が少年の足元に集まり、

 生き物のように蠢く。


「やめて……!」


 ミオが思わず叫ぶ。


 少年はゆっくりミオの方を見ると、

 ほんの一瞬だけ驚いたような表情を見せた。


「……青い光……。

 キミ……“青龍”が見えてるんだ」


「えっ……わたし?」


「ふしぎだな……青龍は普通、

 “心を閉ざした人間”には近づかないのに」


 ミオが息をのみ、

 レンは少年をにらむ。


「お前……何者なんだよ。

 影妖を操ってるのか?」


「操ってないよ。

 ……ただ、影はぼくのそばに“来るんだ”」


「どうして……?」


 少年は小さく首を振った。


「知らない。

 でも――

 ぼくは影に嫌われていない」


 ハルカが、少し震える声で言った。


「それって……

 影妖が味方ってこと……?」


 少年は答えなかった。


 ただ、黒い影が彼の足元で蠢き続ける。


 ミオは恐怖より先に、

 なぜか胸が締めつけられるような“寂しさ”を感じた。


(この子……ひとりぼっちみたい……)


 レンは少年に一歩踏み出した。


「名前……教えてくれる?」


 少年はしばらく沈黙し、

 まるで思い出すように口を開いた。


「……“クロガネ”。

 そう呼ばれている」


「クロガネ……」


「ぼくは、別にキミたちを傷つけたいわけじゃない。

 ただ……

 “黒宝”が、キミたちに興味を持ってるだけ」


「黒宝が……?」


 レンは反射的に胸の朱玉を握った。


『朱雀の主よ。離れよ……

 その宝玉は四神の“対”ではない。

 それは――影と心を結ぶ石だ』


 言葉の意味が胸に重くのしかかる。


(影と心を結ぶ……

 影妖の源……

 まさか、“こいつ自身”が……!?)


 そのとき、校庭の奥から生徒の声が聞こえた。


「おーい、そろそろ帰ろー!」


「図書室閉まるぞー!」


 その気配に、クロガネはふっと影を薄めた。


「……影が騒ぎ出す。

 今日は、帰る」


 レンが止めようと手を伸ばすが――


「待っ──」


 次の瞬間。

 クロガネの足元の影が一気に広がり、


 ズ……ッ


 その身を包み込んだ。


 影が引くと、

 少年の姿はもうどこにもなかった。


「消えた……!」


 三人はしばらく呆然とした。


 ミオがぽつりとつぶやく。


「……クロガネくん、怖かったけど……

 なんだか……悲しそうだった……」


 ハルカも眉をひそめる。


「影妖が“味方”……

 そんなの、聞いたことないよ……」


 レンはぎゅっと拳を握った。


(黒宝……影と心を結ぶ石……

 クロガネは敵なのか、それとも──)


 夕闇がゆっくりと校舎を包む。


 影は、どこまでも静かに深く――

 そして確かに、何かを待っているようだった。

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