第39章 影と歩く道
それから、少し時間が流れた。
世界は、変わらないようで、
確かに変わっていた。
春。
レンは、駅前の歩道橋の上に立っていた。
人の流れを見下ろす。
スーツの大人、
制服の学生、
笑う人、
疲れた顔の人。
足元には、
影がある。
もう、数え切れないほど一緒に歩いた影だ。
(……消えなかったな……)
でも、
後悔はない。
影は、
レンを引きずらない。
ただ、
同じ方向を向いている。
放課後の図書館。
ミオは、窓際の席で、
静かに本を読んでいた。
耳に入る音は、
相変わらず多い。
でも、
すべてを拾おうとはしない。
聞く音と、
聞かない音。
選ぶのは、
自分。
青玉は、
もう、光らない。
それでも、
そこにある。
夕方の公園。
ハルカは、
ベンチに座り、
小さな子供たちを見ていた。
転びそうになる。
泣きそうになる。
でも、また走り出す。
(……守れなくても……
いい……)
全部は、
できない。
それでも、
手を伸ばすことは、
やめない。
白玉が、
胸元で、静かに揺れた。
ある日の夕暮れ。
三人は、
久しぶりに、
あの神社跡に集まった。
草が伸び、
鳥の声がする。
「……何も……
起きないね……」
ハルカが言う。
「……それで……
いい……」
ミオが答える。
レンは、
空を見上げた。
「……影……
なくならなかったけど……」
言葉を、
探す。
「……怖く……
なくなった……」
二人は、
うなずいた。
風が、
そっと吹く。
その瞬間、
レンの胸に、
あの重みが戻った。
はっきりと。
でも、
姿はない。
――選び続けろ。
声ではない。
命令でもない。
ただの、
送り出す気配。
レンは、
小さく笑った。
「……うん……」
影は、
まだ、足元にある。
消えないし、
消すつもりもない。
でも――
一人じゃない。
それだけで、
十分だった。
夕焼けの中、
三人は、
それぞれの帰り道を歩き出す。
同じ道じゃない。
でも、
同じ空の下で。
影と一緒に。
――完――
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
この物語には、
「悪いものを倒す話」も、
「全部がうまくいく話」も、
あまり出てきません。
その代わりに出てくるのは、
迷ったり、怖がったり、立ち止まったりする人たちです。
影は、この物語の中では、
倒すべき敵ではありません。
消してしまえば解決するものでもありません。
それは、
不安だったり、
弱さだったり、
「どうしたらいいか分からない気持ち」そのものです。
きっと、誰の足元にもあります。
この物語を書きながら、
「強くなるって何だろう?」と、何度も考えました。
答えは、とても簡単で、
とても難しいものでした。
それは――
影があっても、歩くこと。
逃げないことでも、
無理に立ち向かうことでもなく、
「一緒にいる」と決めること。
レンたちが選んだのは、
完璧な答えではありません。
でも、
「これからも考え続ける」という選択でした。
もしこの本を読んで、
少しだけでも、
「今のままでもいいのかもしれない」
「怖くても、歩いていいのかもしれない」
そう思ってもらえたなら、
この物語は、ちゃんと役目を果たしたと思います。
影は消えません。
でも、あなたは一人じゃありません。
今日も、明日も、
影と一緒に歩いていけます。
――それで、いい。




