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第3章 白い牙が走る放課後

 昼休み、神崎レンは屋上のフェンスによりかかりながら、

 胸ポケットの朱玉をそっと覗き込んだ。


 午前中の授業なんて、ほとんど頭に入らなかった。

 それより気になったのは――


(……ミオ、大丈夫だったかな)


 影妖と向き合ったあとで、

 ミオはずっと落ち着かない顔をしていた。


 昼休みの途中、

「ちょっと風に当たってくるね」と言って階段を下りていったが、

 どこか無理に笑っていた気もする。


『案じる必要はない。

 彼女の心は強い。

 青龍の選びに誤りはない』


 朱玉の声が、いつもより静かに響いた。


「でも……怖かったと思うんだ。

 俺だって、まだ全然わかってなくて……」


『だからこそ、共に学べばよい。

 心の光は、誰かと重なるほど強くなる』


「重なる……?」


 レンがその意味を考え始めたとき――

 屋上の扉が ガラッ!! と勢いよく開いた。


「――いた!」


 鋭い声に振り向くと、

 短い茶髪で、凛とした目をした女の子が立っていた。


 肩にはほとんど誰もが羨むような白いミニバッグ。

 その横には、なぜか見覚えのある白い小さな光――

 いや、“白い宝玉”が揺れていた。


(……あれ、白虎の宝玉!?)


 少女はレンを見るなり、すぐ近づいてきた。


「神崎レン、でしょ?」


「え、う、うん……そうだけど」


「やっぱり。

 今日の朝、ミオがあなたと一緒にいたって聞いたから」


 どうやら同じクラスの女子らしい。

 きっぱりした言動のわりに、話し方はどこか柔らかい。


「えっと……君は?」


「白石ハルカ。

 ミオの親友。」


 名前を名乗ると、ハルカの胸元で白い宝玉がすっと光った。


『ハルカよ。

 名乗りを聞き届けた』


「えっ……!?

 ま、また誰かの声!?」


 レンは胸ポケットを押さえた。


(白虎の声だ……!

 やっぱりこの子も、“選ばれた主”ってことか)


 しかしハルカは驚いてはいるものの、

 怯えたり逃げたりしない。

 むしろ、一歩前へ出た。


「レンくん。

 ミオ、どこにいるか知ってる?」


「あ、いや……昼休みに、どこか行ったみたいで……」


『……嫌な気配が近づいている』


 朱玉の声が急に低くなった。


 次の瞬間。

 屋上のフェンスの影が、ゆっくりと盛り上がっていく。


「っ……!!」


 レンとハルカが同時に身構える。


 影妖――だが、昨日のより濃い。

 黒がねっとりまとわりつき、

 目のようなものがぼんやり赤く光っている。


「こいつ……昨日のと違う……!」


濃影こいかげ……

 影妖が力を増し、より深い負の感情を吸い上げた姿だ』


 その言葉と同時に、

 濃影が獣のような形に変わり、こちらへ迫った。


「ハルカ、下がって!」


「言われなくても!」


 ハルカは白い宝玉に手を当てる。


「……さっきから、胸がざわざわしてた。

 これって……あなたが理由なんだね」


 白玉が光を放つ。


『ハルカ。

 そなたの内にある“誇りの牙”を思い出せ』


「誇りの……牙……」


 ハルカの瞳が、ほんの少し鋭くなった。

 恐怖ではなく、決意の色。


『白虎は守護を司る。

 そなたの心の強さこそ、影を裂く刃となる』


「……うん。

 ミオも……レンくんも危ないなら……」


 ぎゅっと拳を握りしめ、


「私が、守る!!」


 白玉がまばゆい閃光となり、

 ハルカの前に白いオーラを走らせた。


 濃影が襲いかかる。

 だがハルカは一歩も退かず、

 白い光の“爪”のような力を放つ。


 ザシュッ!


 濃影が切り裂かれ、一瞬ひるむ。


「すご……っ!」


 レンは見惚れた。


 ハルカの動きは素人のはずなのに、

 どこか“本能”で戦っているようだった。


 しかし濃影は倒れない。

 黒い体を歪ませながら、再び形を整えていく。


「くっ……硬い……!」


『レン!

 お前の光で、ハルカの牙を支えろ!』


「わかってる……!」


 レンは朱玉を強く握る。

 胸が熱くなり、光が脈打った。


 赤い光と白い光が重なり――

 濃影が吹き飛ぶほどの衝撃波となった。


 ドォンッ!


 影が壁にぶつかり、形を保てず崩れはじめる。

 濃影は苦しげに身をよじり、

 やがて地面へ溶けるように消えていった。


 屋上に静けさが戻った。


「……っは……はぁ……」


 ハルカは肩で息をしながら苦笑した。


「なんか……信じられないけど……

 私、戦ってたんだよね……? 今」


「うん。でもすごかったよ。

 俺、正直びびった」


「ふふっ、ありがと」


 ハルカがそう笑ったとき。


『レン。

 ミオの気配が弱い。

 影妖に近づかれている』


「……え?」


『影が……別の場所で動いている!』


 レンの心臓が跳ねた。


「ミオが……危ない……!?」


 ハルカは迷わずレンの腕をつかんだ。


「行こう、レンくん!

 ミオを助けに!」


 二人は駆け出した。


 屋上の風が、

 まるで二人を急かすように吹いた。

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