第30章 欠けたままの光
境界を出たあと、
世界は――何も変わっていないように見えた。
車の音。
人の声。
夕暮れの空。
なのに。
レンは、はっきりと感じていた。
(……軽い……
いや……違う……
“足りない”……)
朱玉は、胸元にある。
でも、前ほど自己主張しない。
それは、
頼っていた何かが、静かに引いた感覚だった。
■■代償の輪郭
「……ねえ……」
帰り道、ハルカが口を開いた。
「……結界……
さっき……
うまく……張れなかった……」
白玉は、淡く光るだけ。
ミオも、小さく息を吐く。
「……音……
整理……
時間……かかる……」
青玉は反応するが、
以前の“即答”はない。
レンは、二人を見てから言った。
「……オレも……
判断……
遅れてる……」
三人は、
同時に立ち止まった。
代償は、
想像以上に、
はっきりしている。
■■それでも進む
「……でも……」
ハルカが、顔を上げた。
「……逃げて……
ない……」
ミオも、うなずく。
「……選んだ……
って……
感じ……する……」
レンは、胸の奥が、
少しだけ温かくなるのを感じた。
(……力は……
弱くなった……
でも……)
自分たちで立っている感覚は、
確かにあった。
■■影の変化
その夜。
三人は、ユイの指示で、
再び境界の近くを訪れていた。
ただし、
中には入らない。
「……様子を……
見るだけ……」
影は、
以前ほど荒れていない。
集まり、
形を作り――
そして、ほどける。
ミオが、静かに言った。
「……影……
待ってる……」
「……何を……?」
レンが聞く。
「……私たちの……
次の……
選択……」
ハルカが、白玉を胸に当てる。
「……怒って……
ない……?」
ユイが、答えた。
「ええ。
影は今、
“見定めている”」
■■不完全な“帰還”
そのとき。
朱玉が、
小さく、確かに震えた。
レンの視界が、
一瞬、揺れる。
――暗い場所。
――影の中。
立っている、影の輪郭。
完全ではない。
でも――
見覚えがある。
(……クロガネ……?)
声は聞こえない。
ただ、
低く、静かな意思だけが伝わる。
――まだ、戻れない。
だが、見ている。
次の瞬間、
景色は元に戻った。
レンは、膝に手をつく。
「……今……
見えた……」
ミオとハルカが、同時に息をのむ。
「……私も……
“気配”……」
「……いた……
よね……」
ユイは、深くうなずいた。
■■未来の分岐点
「クロガネは、
まだ“途中”」
ユイは、静かに言う。
「完全に戻すには、
もう一つ――
選択が必要」
レンは、顔を上げた。
「……それは……?」
「影を――
切り捨てるか、
受け入れるか」
三人の胸が、
同時にざわつく。
ハルカが、小さく言った。
「……影も……
居場所……
欲しい……」
ミオも、続ける。
「……排除したら……
同じこと……
繰り返す……」
レンは、
拳を握り、
そして、開いた。
「……まだ……
決めない……」
ユイは、微笑んだ。
「それでいい。
急ぐ答えほど、
歪む」
■■欠けたまま、進む
夜の街に、
明かりが灯る。
三人は、
肩を並べて歩き出した。
力は、欠けている。
クロガネも、完全ではない。
それでも――
選ぶ権利は、手の中にある。
影は、
もう暴れていない。
ただ、
次の一歩を、
静かに待っている。
物語は、
新しい段階へ入った。




