第27章 揃わない一歩
それは、夕方の商店街だった。
人通りは多く、
買い物袋を提げた人たちの声が行き交う。
――その足元で。
影が、一斉に波打った。
「……来た……!」
ミオの声が震える。
「……数……多すぎ……」
ハルカが、白玉を強く握る。
レンは、息を吸い、叫んだ。
「……落ち着け!
前みたいに、役割――」
言い終わる前に、
影が“面”になって広がった。
■■想定外の広がり
影は、点ではなかった。
地面全体を覆うように、
薄く、黒く、広がっていく。
「……これ……
一体ずつじゃ……ない……」
ミオが言う。
音が、重なりすぎている。
誰の不安か、
影の声か、
区別がつかない。
「……レン……
人……逃がしたほうが……」
ハルカが言う。
レンは、一瞬、迷った。
(……クロガネなら……
どう判断する……)
朱玉が、熱を持つ。
「……オレが……
中央、抑える……!」
■■ズレた判断
「……待って!」
ミオの声。
「……それ……
今じゃ……」
でも、レンは踏み出していた。
影の中心に、
朱の光を叩き込む。
一瞬、影が引いた――
ように見えた。
次の瞬間。
別の方向から、影が噴き上がった。
「……っ!」
ハルカが声を上げる。
白い結界が、
人の列を守る。
だが、範囲が広すぎる。
「……無理……
全部は……!」
ミオは、必死に音を拾う。
「……影……
“中心”……一つじゃない……!」
レンの胸が、冷える。
「……しまっ……」
■■崩れかける連携
影は、三方向から押し寄せた。
ハルカの結界が、揺れる。
「……怖い……
でも……!」
ミオの声が、かすれる。
「……音……
追いつかない……!」
レンは、歯を食いしばる。
(……オレが……
独りで決めたせいだ……)
朱玉が、
重く感じられた。
そのとき。
胸の奥で、
かすかな“反応”があった。
声ではない。
言葉でもない。
感覚だけの、圧。
(……止まれ……)
レンは、足を止めた。
■■立て直し
「……ごめん……!」
レンが叫ぶ。
「……一回……
引く……!」
ミオが、すぐに応じる。
「……了解……
今……抑える音……
一つに絞る……!」
ハルカも、息を整える。
「……人……
守るの、優先……!」
三人の宝玉が、
完全ではないが、
同じリズムで光った。
影の動きが、
わずかに鈍る。
その隙に、
人の流れが途切れ、
商店街は、少しずつ静まっていった。
数分後。
影は、霧のように消えた。
■■残ったもの
三人は、シャッターの降りた店の前で、
肩を並べて座っていた。
息が、まだ荒い。
「……失敗……した……」
レンが、低く言う。
ミオは、首を振った。
「……修正……
できた……」
ハルカも、小さくうなずく。
「……一人じゃ……
無理って……
わかった……」
レンは、二人を見る。
「……次からは……
独りで……決めない……」
その言葉は、
自分への約束だった。
朱玉が、
少しだけ、軽くなる。
(……聞いてるか……
クロガネ……)
答えはない。
でも――
否定も、なかった。
遠くで、
街の灯りがともる。
影は、消えた。
だが、
もっと大きな何かが、
動き始めている気配だけが、
確かに残っていた。




