第26章 聞こえないはずの声
その夜、レンはなかなか眠れなかった。
ベッドに横になり、
天井の暗い染みを見つめる。
(……気のせい、じゃないよな……)
駅前で聞いた、あの声。
夢にしては、生々しすぎた。
朱玉を握ると、
ほんのりと、温かい。
「……クロガネ……?」
答えはない。
それでも、
完全な沈黙ではなかった。
■■それぞれの違和感
翌日。
ミオは、授業中も落ち着かなかった。
先生の声。
ノートをめくる音。
窓の外の風。
その奥に――
“届かないはずの音”が、混ざっている。
(……これ……
前より……遠い……)
近いのに、
遠い。
まるで、
壁越しに誰かが話しているような感覚。
ミオは、そっと青玉に触れた。
ハルカは、体育のあと、
一人で水を飲んでいた。
胸が、少し苦しい。
(……昨日……
怖くなかった……)
それが、
逆に、怖かった。
「……慣れちゃ……だめ……だよね……」
白玉は、静かだ。
でも――
何かを“待っている”ような静けさだった。
■■ズレ始める足並み
放課後、中庭。
三人は集まったが、
いつもより、言葉が少なかった。
レンが、意を決して言う。
「……昨日……
声、聞こえた」
ミオが、はっと顔を上げる。
「……え……?」
ハルカも、目を見開く。
「……クロガネ……?」
レンは、うなずいた。
「ほんの一瞬。
“焦るな”って……」
沈黙。
ミオが、少し困ったように言った。
「……私……
音は……増えてるけど……
声じゃない……」
ハルカも、小さく首を振る。
「……私は……
何も……聞こえない……」
レンは、言葉に詰まった。
(……オレだけ……?)
その空気を、
ユイの声が切った。
「……個人差、ね」
いつの間にか、
彼女はそこに立っていた。
■■ユイの警告
「クロガネは……
完全には戻っていない」
ユイは、静かに言う。
「今のあなたたちに届くのは、
“断片”だけ」
「それって……
危ない、ってこと……?」
ハルカが聞く。
ユイは、少しだけ目を伏せた。
「ええ。
受け取り方を間違えれば――
足並みが、崩れる」
レンの胸が、ざわつく。
「……オレの判断が……
ズレるかもしれない……?」
「可能性はある」
ユイは、はっきり言った。
ミオが、そっと言う。
「……じゃあ……
独りで決めない……」
ハルカも、うなずく。
「……三人で……
確かめる……」
レンは、二人を見た。
胸の奥が、
少しだけ軽くなる。
「……ありがとう……」
■■大きな影の予感
その帰り道。
三人は、同時に立ち止まった。
夕暮れの街。
ビルの影が、
不自然に、長い。
ミオが、息をのむ。
「……これ……
今までのと……違う……」
ハルカが、白玉を握る。
「……数……
多い……」
レンは、朱玉に手を当てた。
クロガネの声は、
聞こえない。
でも――
確かな“圧”が、迫っていた。
(……来る……
次は……本当に……)
三人は、
自然と並んで立つ。
完全じゃなくても。
ズレがあっても。
今は――
一緒に、前を見る。
街の影が、
ゆっくりと、うねった。
次の試練は、
もう、すぐそこまで来ていた。




