第25章 重なる影、足りない声
それは、放課後の帰宅ラッシュが始まる少し前だった。
駅前のロータリー。
人の流れが多く、声と足音が混ざり合う場所。
ミオが、急に立ち止まった。
「……来る……」
「え?」
レンが振り返る。
ミオは耳をふさぐように、青玉を握っていた。
「……一つじゃない……
音が……重なってる……」
その瞬間。
地面に落ちた影が、
同時に、ゆらりと立ち上がった。
■■複数の影
「……っ!」
ハルカが息をのむ。
一つ、二つ……
数えている間に、影は五つに増えていた。
どれも人型だが、
輪郭がぼやけ、動きがばらばらだ。
「前みたいに……
一体ずつじゃない……」
ハルカの声が揺れる。
レンは、周囲を見渡した。
「人が多い……
ここで暴れたら……」
影の一体が、
通行人の足元へ伸びる。
「危ない!」
レンが叫ぶ。
■■分かれる判断
「レン!」
ミオが叫ぶ。
「……全部、相手しようとしないで……!」
レンは、はっとした。
前なら――
クロガネが、全体を見て指示を出してくれた。
今は、いない。
(……だからこそ……
オレが……決める……)
「ハルカ!」
レンは叫ぶ。
「右側の二体、任せられるか!」
ハルカは、一瞬だけ息を止め――
うなずいた。
「……うん……
“怖さ”、抑える……」
「ミオ!」
「……聞く……
一番……危ない音を……!」
三人は、
自然と散った。
■■それぞれの戦い
ハルカは、白玉を胸に当てる。
影が近づく。
足が、震える。
(……でも……
逃げない……)
「……ここ……
これ以上……来ないで……」
白い光が、
薄い膜のように広がる。
影は、ぴたりと止まった。
「……止められる……
私でも……」
ハルカの声に、
ほんの少し、芯があった。
ミオは、目を閉じていた。
音が、洪水のように押し寄せる。
でも――
その中に、違う音があった。
「……この影……
焦ってる……」
青玉が、強く光る。
「……こっち……
今、抑える……!」
ミオが指差した影が、
動きを鈍らせた。
■■レンの限界
レンは、中央の影と向き合っていた。
朱玉が、熱を持つ。
「……来い……」
影が、正面から突っ込んでくる。
レンは、真正面から受け止めた。
――が。
「っ……!」
衝撃が、想像以上に重い。
(……重い……
一人じゃ……)
影が、さらにもう一体、迫る。
結界が、軋んだ。
「……くそ……!」
クロガネの声が、
無意識に脳裏をよぎる。
(……今なら……
何て言うんだよ……)
■■三人で、立て直す
「レン!!」
ハルカの声。
「……一人で……
抱えすぎ……!」
ミオも叫ぶ。
「……今……
合わせて……!」
レンは、歯を食いしばり、
叫び返した。
「……わかった!!」
三人の宝玉が、
再び、同時に光る。
完全な融合ではない。
でも――
重ねる ことはできた。
影が、ゆっくりと薄れていく。
数秒後。
駅前には、
何事もなかったかのような日常が戻った。
■■足りないものが、はっきりする
三人は、少し離れた路地で肩を並べていた。
息が、荒い。
「……はぁ……
なんとかなった……」
ハルカが言う。
ミオは、首を振った。
「……でも……
ギリギリ……」
レンは、拳を握りしめた。
「……クロガネがいないと……
正直……きつい……」
沈黙。
否定できる人は、いなかった。
そのとき。
レンの朱玉が、
かすかに、脈打った。
――懐かしい、感触。
「……?」
ほんの一瞬。
耳元で、
低く、確かな声がした。
『……焦るな……』
レンの目が、見開かれる。
「……今の……?」
でも、もう聞こえない。
ただ――
胸の奥に、
確かな“気配”だけが残っていた。




