第23章 戻った世界、足りないもの
翌朝。
神崎レンは、自分の部屋の天井を見つめていた。
白い。
見慣れたシミ。
カーテンの隙間から差し込む、いつもの朝の光。
「……夢……じゃないよな……」
胸に手を当てる。
朱玉は、確かにそこにあった。
でも――
声が、ない。
いつもなら、
目が覚めた瞬間に感じていた、あの気配。
今日は、静かすぎた。
■■いつもの通学路
学校へ向かう道も、変わらない。
自転車のベル。
横断歩道の音。
コンビニの前で立ち話をする人たち。
なのに、レンの足取りは重かった。
「……クロガネ……」
小さくつぶやいても、
返事はない。
校門の前で、ミオとハルカが待っていた。
「おはよ……」
ミオが控えめに手を振る。
「……おはよう」
ハルカも、少し元気がない。
三人とも、
同じ“空白”を感じているのが、すぐにわかった。
■■クロガネのいない昼休み
昼休み。
三人は、いつもの中庭に集まった。
何も話さなくても、
沈黙が苦しくないのは、前と同じ。
でも――
何かが、決定的に違っていた。
「……ねえ」
ミオが、小さく言う。
「クロガネ……
今、どこにいるんだろ……」
レンは、答えられなかった。
ハルカが、そっと言う。
「……いない、って……
こんな感じなんだね……」
三人の宝玉は、
静かに光っている。
けれど、
以前のような“安心感”はなかった。
■■ユイの言葉
放課後、
ユイが姿を現した。
人気のない校舎裏。
「……無理に、元気出さなくていい」
その一言に、
レンの胸が、少しだけ楽になる。
「クロガネは……
完全に消えたわけじゃない」
「……本当ですか?」
レンが顔を上げる。
ユイは、うなずいた。
「影の世界に、
“痕跡”が残っている」
「ただし……
次に会える保証はない」
ハルカが、ぎゅっと拳を握る。
「……それでも……
会いたい……」
ミオも、静かに言った。
「……待つだけ、じゃ……ないよね……?」
ユイは、わずかに笑った。
「ええ。
だから――これからが、本番」
■■小さな“違和感”
その夜。
レンは、部屋の窓から外を見ていた。
街の灯り。
遠くのビル。
いつもと同じ風景。
――なのに。
影が、ほんの一瞬、
“動いた”気がした。
「……?」
目を凝らすと、
何もない。
でも、胸の朱玉が、
かすかに、脈打った。
(……終わってない……)
レンは、はっきりと感じていた。
クロガネがいない今、
影は、別の形で動き出そうとしている。
静かな夜の中で、
レンは拳を握った。
「……待ってろよ……」
誰に向けた言葉かは、
自分でもわからなかった。
ただ一つ――
物語は、次の章へ進みはじめていた。




