第22章 選ばれた道
白い光が、ゆっくりと引いていく。
最初に戻ってきたのは――音だった。
遠くで、
水がぽたりと落ちるような、静かな音。
次に、重さ。
足が地面にある感覚。
胸が、上下している感覚。
「……レン……?」
ミオの声が聞こえた。
「……いる……?」
ハルカの声も。
レンは、ゆっくり目を開けた。
■■静まり返った影の中心
影の世界は、さっきまでとは違っていた。
暴れていた影はおさまり、
空も地面も、静かな灰色に落ち着いている。
その中心に――
黒崎カナタが、立っていた。
影は、もう彼を縛っていない。
ただ――
その足元に、クロガネの姿があった。
「クロガネ……!」
レンが駆け寄ろうとして、止まる。
クロガネは――
半分ほど、透けていた。
『……レン……』
声はある。
でも、弱い。
ユイが静かに言った。
「影主との結びつきが切れかけている……
完全に戻るには……時間が足りない」
「じゃあ……
どうなるの……?」
ハルカが震える声で聞く。
ユイは、カナタを見る。
「……彼の選択次第」
■■カナタの決断
カナタは、俯いたまま、しばらく動かなかった。
そして、ゆっくり口を開く。
「……ずっと……
誰かに……気づいてほしかった……」
握りしめた拳が、震えている。
「助けてって……
言えなかった……」
レンは、一歩近づいた。
「……今は?」
カナタは、目を上げる。
その目に、もう怒りはなかった。
あったのは――迷いと、怖さ。
「……今は……
言っていいのか……?」
ミオが、小さくうなずく。
「……うん……
ちゃんと……聞く……」
ハルカも言った。
「……一人じゃ……ないよ……」
カナタの喉が、ひくりと動いた。
「……助けて……」
その一言で、
影の世界が、ふわりと揺れた。
カナタは、震える手をクロガネへ伸ばす。
「……返す……
君は……
ここにいるべきじゃない……」
■■一時的な別れ
クロガネの体が、わずかに光る。
『……ありがとう……』
その声は、
影主ではなく――
“クロガネ自身”のものだった。
「……でも……
完全には……戻れない……」
「え……?」
レンの胸が、ざわつく。
『……影の世界が……
もう……限界だ……』
周囲の空間に、
細かなひびが走りはじめる。
ユイが叫んだ。
「影の領域が崩れる!
全員、戻る準備を!」
「クロガネは!?」
レンが叫ぶ。
『……レン……
少しだけ……
待ってくれ……』
クロガネの姿が、
光の粒になりはじめる。
「待てって……
そんな……!」
レンは、手を伸ばした。
でも――
触れられなかった。
『……必ず……戻る……』
その言葉だけを残して、
クロガネは光に溶けた。
■■影の世界の崩壊
世界が、崩れはじめる。
影が、風のように流れ、
地面が崩れ落ちていく。
「レン!!」
ミオが叫ぶ。
ハルカが、袖をつかむ。
「戻ろ!!」
レンは、最後にカナタを見た。
カナタは、
光に包まれながら、静かに言った。
「……ごめん……
そして……ありがとう……」
次の瞬間――
すべてが、反転した。
■■現実世界へ
気づいたとき、
レンたちは高架下に倒れていた。
昼間の光。
電車の音。
すべて、いつも通り。
「……戻って……きた……?」
ハルカがつぶやく。
ミオは、胸の青玉を握る。
「……でも……
終わって……ない……」
レンは、空を見上げた。
胸の朱玉は、静かに輝いている。
そこに――
微かな、黒い羽根が落ちてきた。
レンは、それを受け取った。
「……クロガネ……」
ユイが静かに言う。
「第一の影は、消えた。
でも……本当の試練は、これからよ」
レンは、うなずいた。
失ったもの。
残ったもの。
そして――
これから取り戻すもの。
物語は、
まだ続いていく。




