第20章 影の世界で、再び
――足を踏み出した瞬間。
レンは、自分の体が“軽く”なった気がした。
いや、正確には――
重さの基準が、変わった。
「……ここ……」
目の前に広がっていたのは、
夜の街を裏返したような世界だった。
建物の形はあるのに、輪郭があいまいで、
地面は水面のようにゆらゆら揺れている。
空は暗いのに、星はなく、
代わりに“感情の影”のようなものが、ゆっくり流れていた。
「ここが……影主の領域……」
ミオが息をひそめて言う。
ハルカは無意識に、レンの袖をつかんでいた。
「音が……ちがう……
なんか……泣いてるみたい……」
ユイの声が、少し遠くから聞こえる。
「影の世界では、
景色そのものが“心”なの。
気を抜かないで」
三人の宝玉が、
いつもよりはっきりと光っていた。
■■影主の領域の“中心”
少し進むと、
影の流れが一か所に集まっている場所が見えてきた。
まるで、巨大な水たまり。
その中央に――
人影が、膝を抱えて座っていた。
「……あ……」
ミオの声が、かすれる。
制服姿の少年。
うつむいたまま、動かない。
「影主……黒崎カナタ……」
レンが、そっと名前を呼んだ。
少年の肩が、びくりと揺れた。
「……来るな……」
低く、かすれた声。
「どうせ……
どうせまた……」
影が、カナタの周囲でざわりと動く。
ハルカは一歩前に出そうになり、
ユイに止められた。
「まだよ。
まずは……“再会”が先」
■■クロガネとの再会
そのとき。
影の水面が、静かに割れた。
中から、
見覚えのある姿が浮かび上がる。
「……え……?」
レンの心臓が、強く跳ねた。
黒い体。
鋭い目。
けれど、どこか輪郭が薄く、
影に溶けかけている――
「クロ……ガネ……?」
『……レン……』
その声は弱く、
でも、確かに“本人”だった。
「クロガネ!!」
レンは思わず駆け寄りそうになり、
ユイの言葉を思い出して、足を止めた。
「無事……なのか……?」
震える声で聞く。
『……完全じゃない……
ここに……縛られてる……』
クロガネの背後、
影が鎖のように絡みついていた。
ミオが、ぎゅっと青玉を握る。
「……聞こえる……
クロガネ……苦しいって……」
ハルカは唇をかみしめた。
「……怖いよね……
ここ……ずっと……」
カナタが、ゆっくり顔を上げた。
■■影主の心が、牙をむく
「……返せ……」
その声は、怒りよりも――
必死さに近かった。
「それ……オレのだ……」
影が、クロガネを強く引き寄せる。
『……っ……!』
「やめろ!!」
レンが叫ぶ。
カナタは立ち上がり、
レンたちをにらみつけた。
「……お前らに、何がわかる……
誰も……誰も助けてくれなかった……」
影が、牙のように形を変える。
「……だから……
ここに来たものは……
みんな……一緒に……」
空気が、凍りついた。
ハルカが、震えながらも前に出る。
「……怖かったんだよね……
一人で……」
カナタの動きが、一瞬止まる。
ミオが、静かに言った。
「……聞こえるよ……
“助けて”って……
ずっと……」
カナタの目が、揺れた。
「……うるさい……」
影が再びうねる。
レンは、一歩踏み出した。
「……クロガネを返してくれ。
オレたちは……
戦いに来たんじゃない」
朱玉が、静かに燃えるように光る。
「……お前自身と……
話をしに来た」
影主の領域が、大きくざわめいた。
■■始まる、“対話という名の戦い”
カナタの背後で、
影が巨大な形をとりはじめる。
「……だったら……
試してみろ……」
影の世界が、きしむ。
クロガネが、必死に叫んだ。
『レン……!
気をつけろ……!』
三人は自然と並び、
宝玉を構えた。
朱・青・白の光が重なり、
はじめて――
“完全な連携”の形をとる。
レンは、前を見据えた。
(ここからだ……
本当の意味で……)
救出は、今始まった。




