第19章 影主の名前
神社での“四神の試練”から三日後。
レンたちは、いつもの校庭ではなく、
ユイに連れられて古い高架下へ来ていた。
昼間でも薄暗く、
電車が通るたびに、地面が低く震える。
「ここ……影、すごく濃いね……」
ミオが青玉を胸に抱く。
「うん。でも……怖いだけじゃない」
レンは足元の影を見つめた。
「“待ってる”感じがする」
ハルカは小さく息を吸い込んだ。
「ここが……影主の近く……?」
ユイはゆっくりとうなずいた。
「ええ。
影主の領域は、この先の“影の折れ目”から始まる」
■■影主の正体が、輪郭を持つ
ユイは地面に、小さな符を置いた。
すると影が、波紋のように広がり――
黒い水面のような映像が浮かび上がる。
そこに映ったのは――
制服姿の、少し年上の少年だった。
「……え……?」
ハルカが目を見開く。
「人……?」
ミオの声が震える。
少年は俯き、
何かを必死に抱え込むように、影の中に立っていた。
「この人が……影主……?」
レンは唇をかみしめた。
ユイは静かに答える。
「名前は――黒崎カナタ。
数年前、この街で起きた“影の事故”に巻き込まれた少年よ」
「事故……?」
「強い後悔と怒りを抱えたまま、
影の世界に引きずり込まれた。
助けを呼ぶ声は……誰にも届かなかった」
映像の中のカナタは、
影に包まれながら、何度も同じ言葉を繰り返していた。
『なんで……誰も……』
レンの胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「……クロガネは、この人に……」
「ええ。
影主の“心の奥”に囚われている」
■■クロガネ救出作戦
ユイは符を片づけ、三人をまっすぐ見た。
「ここからは“救出”になる。
戦いじゃない」
「でも……影主は強いんでしょ?」
ハルカが不安そうに言う。
「強い。
でも――影主が本当に求めているのは“勝ち”じゃない」
ミオがはっとした。
「……聞いてほしい、んだ」
「そう。
自分の気持ちを、誰かに“受け止めて”ほしい」
レンは、試練で朱雀に言われた言葉を思い出していた。
――迷いながら進め。
「オレたちがやることは、三つだ」
三人は顔を見合わせる。
「ミオは、影主の“声”を聞く」
「ハルカは、影主の“恐れ”を見つける」
「そしてオレが――決める」
「決める?」
ミオが聞き返す。
「影主が、影に残るのか、
それとも……戻るのか」
ユイは小さく息を吸った。
「それができるのは、
三人が“連携の完成形”に近づいた今だけよ」
■■完成に近づく“連携”
ユイの合図で、三人は宝玉を構えた。
朱、青、白の光が、以前よりもはっきりと形を持つ。
「……前より、光が安定してる」
ミオが驚いた声を出す。
「怖いけど……逃げたい感じ、少ない」
ハルカも白玉を見つめる。
レンは静かにうなずいた。
「三人とも、自分の“弱さ”を知ったからだ」
三つの光が重なり、
ゆっくりと円を描く。
それはもう、
シャボン玉のようなミニ結界ではなかった。
“門”だった。
影の世界へ続く、静かな入口。
「これが……影主の領域への道……」
ミオが息をのむ。
その奥から、
かすかに、聞こえた。
『……来るな……』
でも、その声は――
怒りよりも、怯えに近かった。
「影主……」
レンは一歩前に出る。
「待ってろ。
オレたちは……戦いに来たんじゃない」
三人の宝玉が、同時に強く輝いた。
クロガネ救出は、
もう“計画”ではなく――
現実になろうとしていた。




