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第16章 影の音と、遠くの呼び声

 その日の帰り道。

 夕暮れの色が街をオレンジに染めるころ――

 レンは、昨日よりも影の気配が強くなっていることに気づいた。


「影の匂い、昨日より強くなってるな……」


 ミオとハルカも、歩きながら宝玉をそっと服の上から押さえた。


「ミニ結界、もっと練習しないと……」

「だいじょうぶかな……影の扉……」


 そんな二人の気持ちを読んだように、

 ユイがふわりと三人の横に現れた。


「今日の訓練は、“影の音”を聞くことよ」


「音?」

 三人がそろって立ち止まる。


影妖かげようは、姿を見せるより先に“音”で気配を出すの。

 その音が聞けるようになれば、あなたたちは――

 扉の“向こう側”の動きまで感じられるようになるわ」


 レンの心臓が、高鳴る。


(向こう側……クロガネがいる場所……)


 ■■影の音を聞くための場所


 ユイに案内されたのは、

 学校裏にある古い倉庫の前だった。


 人通りはほとんどない。

 夕日の色が壁に長い影を落としている。


「ここは……なんか、音が吸いこまれそうな場所だね」

 ハルカが肩をすくめる。


「影がたまりやすい場所を探してきたのよ」

 ユイが微笑む。


「では、宝玉を前に出して。

 音に耳をすませてみて」


 三人は息をのんで宝玉を掲げた。


 ■■影の音は“心の奥”で聞こえる


 しばらく耳をすませていると――

 風の音が消え、街の音が遠のいていく。


 レンの胸の奥で、かすかに何かが鳴った。


(……カサ……サリ……)


「っ……何か聞こえた……」

 レンは目を細めた。


「わたしも……カラカラって……」

 ミオも同じように小さくつぶやく。


「わ、私は……トントン……って音……?」

 ハルカは不思議そうに白玉を見つめた。


 ユイは満足そうにうなずいた。


「よく聞けたわね。

 三人とも、ぜんぜん違う音を聞いてるけれど――

 それが正しいの」


「正しい……?」

 ミオが首を傾げる。


「影の世界は“ひとつ”じゃないの。

 影のそうとリズムは無数にあるわ。

 あなたたちはそれぞれ、違う層の気配を感じ取っているの」


「じゃあ……三つの音をあわせたら……?」

 レンが言いかけた瞬間――


 宝玉が同時に強く光った。


 青、白、朱の三色が絡まりあい、

 倉庫の前の影に照らしつけられる。


 ■■影が“言葉”になった


 影が震える。


 ザザ……ザ……


 音の波が混ざり合い、

 三人の耳にゆっくりと言葉になって届いた。


 ――と……おい……くろ……い……おと……が……


「いま……言葉だったよな?」

 レンが息をのむ。


「うん……そんな気がする……」

 ハルカも青ざめながら言う。


「遠い……黒い音……が……?」

 ミオがつぶやく。


 ユイの表情が、少しだけ険しくなった。


「その言葉は、“影の深層しんそう”に近いものよ」


「深層って……クロガネがいる場所?」

 レンが前に出る。


「可能性はあるわ。

 でも……もう一つ気になることがあるの」


 ユイが影にそっと触れると、影がわずかに波うつ。


「この“黒い音”を出している影妖……

 普通の影妖じゃないわ」


「えっ……」

 三人は固まる。


「影妖の中でも、もっと深い世界に棲む存在――

 “影主かげぬし”と呼ばれる特別な妖よ」


 ハルカの顔から色が引いた。


「か……かげぬしって、つよいの……?」


「強いわ。

 影妖たちをまとめることもできるし、

 影の扉の奥への道をつくることもできる。

 おそらく、クロガネが迷いこんだのは……その影主の領域」


 レンは拳をにぎりしめた。


(クロガネ……そんな危ないところに……!)


 ■■影主が“気づいた”


 その瞬間――


 ズ……ッ!


 倉庫の影がふくらみ、

 黒い“手のひら”のようなものがのびた。


「うわっ!!」

「また影妖!? でも今の……大きい!」

 ハルカとミオが叫ぶ。


 ユイはすぐに三人を後ろへ下げた。


「違う……これは“影主の視線”。

 まだ姿は見せていないけれど……

 あなたたちに気づいたのよ」


「気づいたって……」

 レンは唾をのむ。


「三人が光を合わせて“影の音”を聞いたから。

 影主は、外から自分の領域に干渉した存在を探っているの」


 黒い手のような影は、地面に触れる直前で止まり――

 すっ……と霧のように消えた。


 空気に残ったのは、冷たく重い気配だけ。


 ミオが不安そうにレンの袖をつかむ。


「レンくん……怖いけど……

 クロガネのためには行かないと、なんだよね……?」


 レンはゆっくりとうなずいた。


「うん。怖いけど……でも進む。

 クロガネが一人でどんなに心細いか、想像したら……

 オレたちが止まってるわけにはいかない」


 ハルカもぎゅっと白玉を握った。


「じゃあ……わたしも行く。

 当たり前でしょ、三人でやるって決めたんだから!」


 ユイは三人の顔を見渡し、

 すこしだけ悲しそうに微笑んだ。


「……覚悟を決めたのね。

 なら、次は“影主への道”を探す訓練をしましょう」


 三人の宝玉が、決意に応えるように

 夜色の校庭でかすかに光った。

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