第14章 影の扉のひび割れ
その日の夜。
レンは布団の中で天井を見つめていた。
青玉、白玉、朱玉の三つがそろったときにあらわれた光。
そして、ほんの一瞬だけ聞こえたクロガネの声。
(……あれは夢じゃない。
クロガネは、まだどこかで生きてる)
そう思うほどに胸が熱くなる。
けれど同時に、不安もあった。
(もし……本当に“影”の奥深くに飲まれてたら……どうやって助けに行けばいい?)
眠れないまま窓の外の月を見ていると、
部屋の片隅の影が、ふわり……と揺れた。
「っ……!」
レンは身を起こした。
影の中から、小さな黒いシルエットが顔を出した。
『……レン……』
その声は、間違いなくクロガネのものだった。
「クロガネッ!? どこにいるんだ!」
影の中のシルエットは、少しだけ輪郭を揺らしながら答えた。
『……まだ……帰れない……
でも……見えてきた……道が……』
「道? どういう――」
レンが手を伸ばした瞬間――
影は音もなく消えてしまった。
「待ってよ……」
残ったのは、クロガネの声の余韻だけ。
■■翌日の放課後、三人は校庭に集まる
「……クロガネの声を聞いた?」
ミオは驚いた顔をした。
「うん。はっきりと。
影が見せた“映像”……いや、あれは本人だった気がする」
「影に触れそうになったの?」
ハルカが心配そうに近づく。
「ほんの少しだけ。でも、すぐ消えちゃった」
ユイは三人の話を聞き、静かにうなずいた。
「……影の扉が、開きかけているのね」
「扉?」
三人が同時に声をそろえた。
「影の世界には“門”があるの。
本来は封印で閉ざされているけれど……
不安、迷い、負の気配が集まるとひびが入るわ」
「じゃあ……クロガネはその扉の向こうに?」
レンが一歩前に出る。
「そう。でも今はまだ危険。
無理に行けば“影そのもの”に飲まれてしまう」
レンは拳を握りしめた。
(そんなの……絶対に嫌だ)
■■影のゆらぎ実験
「今日は特別な訓練をするわ。
“連携の光”を、もう一度確かめるの」
「昨日のやつ?」
ミオが目を輝かせる。
「そう。ただし今日は――
影の扉の“ひび”を使って、もっと強い光にする」
ユイは手のひらを上に向けると、
草の上にこぼれる影をそっと撫でた。
すると影が波打ち、
中央に小さなひび割れが広がった。
「わ……!」
「これが……影の扉……?」
三人は自然と身を寄せ合う。
そのひびの向こう側、
黒い霧のようなものがうっすら動いて見えた。
(クロガネがいるのも……この先なのか)
■■三人の光が“技”になる
「三人とも、宝玉を出して」
レンは朱玉、ミオは青玉、ハルカは白玉を構える。
「まずは昨日と同じように、気持ちを合わせて……
影に負けない光を思い描くの」
三人は深く息を吸い、目を閉じた。
自分一人では届かない光。
三人でなら届く光。
そして――
すっと。
三つの宝玉が同時に震えた。
光は一本の“帯”になり、影のひびへ向かってのびた。
「これ……昨日より強い!」
ミオが叫んだ。
「うん……! すごい熱さを感じる……!」
ハルカも白玉をぎゅっと握る。
レンはその中心で、光をさらに強めるよう意識した。
(クロガネに、届いてくれ――!)
その瞬間だった。
影のひびが、ピシッ!と大きく広がった。
黒い霧の奥に、人影が見えた。
『――レン……!』
「クロガネ!!」
レンは手を伸ばそうとしたが――
ユイの声が飛んだ。
「ダメッ!! まだ“つかんじゃダメ”!!
今つかんだら帰ってこられなくなる!!」
「っ……!」
レンはこらえ、光だけを向こう側へ押し出した。
影の霧が、少し……ほんの少しだけ晴れた。
『……あとは……たの……む……』
人影はそう言い残し、霧に飲まれて消えた。
影のひびも、ゆっくりと閉じていく。
光が消えるのと同時に、三人はどっと膝をついた。
「はぁ……はぁ……」
ミオが肩で息をする。
「なんか……力、全部持ってかれた……」
ハルカもへたりこむ。
ユイは三人のそばにすぐ駆け寄った。
「無茶をさせてごめんなさい。
でも……今のでわかったわ。
あなたたちの光は、影の扉に“道”を作れる」
「じゃあ……クロガネを助けに行ける……?」
レンが聞いた。
「いつか必ず行ける。
でも、そのためにもっと光を強くする必要があるわ」
レンは息を整えたあと、力強くうなずいた。
「なら――もっと強くなる。
クロガネが安心して帰ってこられるまで」
ミオとハルカも同時にうなずく。
「うん。わたしたちもやる」
「三人でじゃないと意味ないもんねっ」
夕日が沈む校庭で、
三人の宝玉がほのかに輝いた。




