第13章 四神の連携(れんけい)のひかり
次の日。
午後の陽が傾きはじめるころ、三人はいつもの校庭の端に集まっていた。
昨日いた影ねずみの気配もない。
けれど影だけは、まだどこか“ざわざわしている”。
「ユイさん、今日はどんな修行なの?」
ハルカが白玉を握りながら尋ねる。
「今日はね……“影の気配を読む”練習をするわ」
「けはい……?」
ミオが首をかしげる。
「影妖は姿を見せる前に、“もや”のような気配を放つの。
それを感じられれば、影世界でも迷いにくくなるわ」
レンは真剣な眼差しでうなずいた。
(クロガネがいる場所にも……影の気配があるはずだ)
■■影の気配を“つかむ”修行
「じゃあ三人とも、宝玉に手を当てて。
目は閉じて……耳と心で、影のゆらぎを聞くの」
レン、ミオ、ハルカはゆっくり目を閉じた。
宝玉はそれぞれほのかな光を放っている。
暖かさは違うけれど、どれも優しくて落ちついた光だった。
すると――
耳の奥で、かすかな音がした。
(……ざわ……ざわわ……)
風でも木の音でもない。
もっと柔らかく、けれど重たい気配。
「これ……影?」
ミオが震えた声でつぶやく。
「そう。
“影の揺れ”を感じられるようになった証よ」
ユイの声が、どこか嬉しそうだった。
「じゃあ次は、その気配がどこにあるのか当ててみて」
三人は目を閉じたまま集中する。
レンには、右側の地面の向こうから
ひゅうっと冷たい空気を感じた。
「……あっち、かな」
ミオは前方の倉庫の影から
低い波のような気配を感じ取った。
「わたしは……こっち」
ハルカは左側、フェンス近くの地面が
じんわり黒く重く感じられた。
「三か所……?」
レンが眉を寄せる。
「でも気配の強さはバラバラだよ?」
ミオが言う。
ユイは、ゆっくり三人の後ろを歩きながら説明した。
「影妖はいつも一か所にいるわけじゃないの。
影は生き物の動きや心に反応して揺れる。
あなたたち三人の宝玉もそれぞれ違う“声”を拾っているの」
「じゃあ……どうやって正しい方向を決めるの?」
ハルカが不安そうに聞く。
「それは……“三人で決める”のよ」
■■三人の光が重なる瞬間
レンは目を開けて二人を見る。
「ミオの青玉は、いつも周りの変化に敏感なんだよな」
「う、うん……心の動きとか、声とか……」
ミオは少し照れながら答える。
「ハルカの白玉は、敵の“弱いところ”を見つけるのが得意だ」
「えっ、そんなのまだ全然わからないよ?」
「昨日の影ねずみのとき、弱い場所を言ってくれたじゃん」
「……あっ」
ハルカの顔に小さな自信が宿った。
「じゃあオレの朱玉は――」
「“決める”んだよね」
ミオが微笑んだ。
「そう。決める役。
三人の意見をつなぐ役なんだと思う」
そのとき――
三つの宝玉がふっと光った。
青、白、朱の色がふわりと混ざり合い、
校庭の影の上に小さな光の筋が走った。
「これ……!」
「四神の光……?」
ミオが驚いた声を出す。
ユイがゆっくりとうなずいた。
「それが、“連携の芽”。
三人の心がそろった時だけあらわれる光よ。
まだ弱いけれど……確かにつながり始めているわ」
レンは胸が熱くなるのを感じた。
(これなら……いつかクロガネを見つけられる……!)
■■影妖の“影しずく”
しかしその瞬間だった。
スッ……
影の地面から“黒い雫”のようなものが落ちてきた。
「なに……これ?」
ハルカが一歩後ずさる。
黒い雫は地面に触れた途端、
じわ、と広がって人の手のような形をつくる。
「っ……影妖!」
「でも、昨日の影ねずみとは違う……!」
ミオが青玉を握る。
ユイは静かに言った。
「“影しずく”。
影の世界が近づくと現れる弱い妖よ。
でも動きは読みにくいわ」
影の手が、ミオの足元に伸びる。
「ミオ、避けて!」
レンが叫ぶ。
ミオはとっさに飛びのいた。
けれど――
影しずくは液体のように体を広げ、
今度はハルカの方へ伸びる。
「わっ……!」
「宝玉を! 光をあてるんだ!」
レンが言うと、ミオとハルカは息を合わせた。
「青玉――!」
「白玉――!」
二つの光が同時に走る。
そこへレンの朱玉の光が重なった。
三つの光は一本の線になり、
影しずくを中心から断ち切った。
影しずくは、音もなく溶けて消えた。
「……やった」
ミオが息をつく。
「これが……さっきの光?」
ハルカが不思議そうに手を見つめる。
ユイは満足げに微笑んだ。
「そう。
“連携の光”のもっと強い形。
まだ小さな一歩だけど――
クロガネを救うためには、とても大きな意味があるわ」
■■クロガネの“影の声”
「今日はここまで。
よくがんばったわ」
三人が光をおさめたとき――
レンの耳に、微かに声が届いた。
かすれた、遠い声。
――レン……?
「っ……!」
「レンくん?」
ミオが心配そうにのぞき込む。
「い、今……クロガネの声が……」
「えっ!?」
「ほんとに!?」
ユイは黙って影の揺れを見つめたあと、
静かに言った。
「レン。
クロガネは確かにあなたを呼んでいる。
でもそれは“影の心”が揺れているということ。
急がないと――本当に戻れなくなる」
レンは強くうなずいた。
(待っててくれ、クロガネ。
オレたちが絶対に迎えに行くから)
その想いに反応するように、
三つの宝玉が夕日に照らされ、やさしく光った。




