第11章 影の入口と、四神の試練
放課後の校庭は、夕日が低く差し込み、長い影をつくっていた。
しかし今日だけは、その影がいつもより冷たく感じられた。
「……また、宝玉がひかってる」
ミオが胸元の青玉を握る。
透き通った青い光が、わずかに震えていた。
「ぼくの白玉もだよ。
なんだか、そわそわしてる……」
ハルカの白玉も、明るい光を脈打たせている。
レンの朱玉はさらに強く光り、まるで何かを急かすようだ。
(クロガネ……まだ影の中にいるんだ)
昨日、影喰いとの戦いのあとに残った“黒い線”。
あれがクロガネの足跡のように思えて、レンの胸は苦しくなる。
「ユイさん……今日はどこにいるんだろう?」
ミオの言葉に答えるように、頭上から落ち着いた声が降ってきた。
「ここよ」
三人が見上げると、
体育館の屋根に腰かけているユイの姿があった。
夕日に照らされて、赤い髪がゆっくり風になびく。
「昨日よりずっと強く光っているわね。
四神の主として、あなたたちの“心”が動いている証拠よ」
軽い跳躍で地面に降り立つと、ユイは三人の宝玉を順に見た。
「今日は……“影の入口”を見せるわ」
三人は息をのむ。
■■影の入口──校庭の端にひそむ“暗いゆがみ”
ユイが校庭の端、古い倉庫の影へ歩く。
三人はその後を追った。
「ここ……ただの影じゃないの?」
ハルカが首をかしげる。
確かに見た目はただの影だ。
けれど、近づくほど冷たさが増す。
そしてレンの朱玉が、大きく脈打った。
「……っ!」
影がゆれる。
黒い水面のように、ゆらり、ゆらりと波打った。
「これが“影の入口”。
世界と影の世界が重なりかけている場所よ」
「ここから……クロガネは入ったの?」
ミオが不安そうにたずねると、ユイは静かにうなずいた。
「黒玉の心が揺らぎ、影が主を呼んだの。
彼はその声に……応えてしまった」
レンは拳を握りしめる。
「じゃあ……クロガネを助けに行くのは、今しか……」
「行きたい気持ちはわかるわ」
ユイは優しく言う。
「でも今のあなたたちでは、影の世界で一歩進んだだけで心をのみこまれる。
だから今日から、“四神の修行”を本格的に始めるわ」
三人ははっと息をのみ、宝玉を見つめた。
■■四神の境地──宝玉が見せる“心の景色”
「それぞれ宝玉を胸に当てて、目を閉じて。
四神はあなたたちの心の奥にいるの。
力を借りるには……まず自分の心を知らなくちゃいけない」
三人は言われたとおりに目を閉じた。
ゆっくりと息を吸い、吐く――
そのたびに宝玉が温かく光った。
最初に意識がひらいたのはハルカだった。
◇ 白虎の子――ハルカ
真っ白な草原。
柔らかい風。
遠くで白虎の姿が見えた。
『ハルカ。
おまえは優しい。
だが優しさだけでは、仲間を守れぬ時がある』
「守りたいよ……レンも、ミオも。
クロガネも」
『ならば、強くなれ。
“迷わない心”を手に入れよ』
白虎の瞳は優しく光った。
◇ 青龍の声――ミオ
大きな青い湖。
水面を走るひかり。
湖の中から巨大な青龍が姿を現す。
『ミオ。
おまえは心が揺れやすい。
けれど、その揺れは弱さではない』
「弱くない……?」
『強く思うからこそ揺れるのだ。
その心は仲間をつなぐ力になる』
ミオの目に涙が浮かび、青玉が静かに光った。
◇ 朱雀の炎――レン
赤く輝く空。
燃えるような大地の上に、朱雀がゆっくりと舞い降りた。
『レン。
おまえは強くなろうと焦りすぎている』
朱雀の声はやわらかく、けれど力強い。
『焦りは炎を乱す。
仲間の声をよく聞け。
そして自分を信じろ。
“守りたい”という心こそ、おまえの力だ』
(……守りたい。
クロガネも……このみんなも)
レンの朱玉が、まるで心臓のように脈打った。
■■現実へ戻る――四神の初めての導き
三人がゆっくり目を開ける。
「見えたわね。
四神があなたたちの心を映したの」
ユイは微笑む。
「これからは、宝玉の光の使い方が少し変わるわ。
“心の力”をのせた光は、影妖の動きを止めることができる。
影の世界に近づいても、飲みこまれにくくなる」
レン、ミオ、ハルカは顔を見合わせる。
心の中にあった揺れが少しだけ落ち着いた気がした。
「……じゃあ、クロガネを助けられる日も近い?」
ミオが期待をこめて聞く。
ユイは少しだけ表情を暗くした。
「助けられる可能性は“高くなる”。
でも、影の世界は甘くない。
黒玉の心が完全に目覚めれば……
クロガネは自分の意志では戻れなくなる」
「なら、なおさら急ごう」
レンが言う。
その言葉は、昨日よりもまっすぐな声だった。
ユイはうなずいた。
「ええ。
明日から本格的に、影世界へ入るための“実戦修行”を始めましょう」
三人の宝玉が、同時に輝いた。
『クロガネを助ける』
その一つの想いだけが、
三人を確かに結びつけていた。




