第9章 “本家の使い”が告げること
校門前に立つ白い和装の人物は、
まるで空気そのものを静かに変えていた。
夕陽が彼女の背を照らし、
光の輪の中で淡く影が揺れる。
「わ、わたしたちに……話があるって……?」
ミオが緊張した声で聞いた。
白装束の人物は、三人をゆっくり見渡す。
「まずは自己紹介をするわね。
私は 千堂ユイ。
陰陽師本家――“千堂家”の者よ」
名前に、どこか鋭い響きがある。
けれど、その目元はあたたかかった。
「本家……ってことは本物の……?」
ハルカが息をのむ。
「ええ。本物よ。
あなたたちが四神の宝玉に選ばれたと知って、
本家は大きく動いたの」
レンは緊張しながらたずねた。
「どうして……僕たちに?
四神って、そんな簡単に選ぶものじゃないんじゃ……」
ユイはゆっくりとうなずく。
「その通りよ。
四神の宝玉は、ただ血筋で継がれるものじゃない。
“心の光”に反応して現れるの」
「心の……光……」
レンは手の中で朱玉を見つめた。
ユイは三人に歩み寄り、
一人ひとりの宝玉に視線を落とす。
「朱雀の朱玉。青龍の青玉。白虎の白玉。
……そして本来なら、もう一つ“玄武の黒玉”が揃って
初めて四神の均衡は満ちるわ」
「黒玉……玄武……」
ミオが息を呑む。
「じゃあ、その黒玉って……今どこに?」
ハルカが尋ねると、
ユイの表情がわずかに曇った。
「――黒玉は、“行方不明”なの」
「え……!?」
宝玉が失われているなんて、
想像もしていなかった。
ユイは続ける。
「黒玉の行方を追っていた陰陽師たちが
最近になってようやく一つの手がかりをつかんだわ」
三人はごくりと息をのむ。
「それは……“影が集まる子どもがいる”という報告」
レン、ミオ、ハルカは顔を見合わせた。
「……クロガネくんだ」
レンが言う。
ユイは静かにうなずいた。
「そう。
黒宝を持つ存在は、影を引き寄せる。
そして……
“光を持たない者ほど影が深くなる”」
クロガネが言っていた言葉が
レンの胸にずしんと落ちてくる。
『ぼくは光を持っていないからだよ』
ユイはまっすぐ三人を見る。
「あなたたちに頼みたいの。
――クロガネくんを探して。
そして、できるのなら……
『彼を影の底から救い出してほしい』」
その言葉には、
厳しさよりも祈りのような響きがあった。
■■四神から同時に届く声
次の瞬間、三人の宝玉が同時に光を放つ。
「えっ……!」
「また光ってる……!」
『本家の者よ、聞け』
朱雀の声が重みを帯びて響く。
青龍と白虎の声も続く。
『玄武の黒玉の気配は、確かに近い』
『しかし……すでに“影の色”が深すぎる』
ユイはその声に驚くこともなく、頭を下げた。
『影の色……とは?』
ユイがたずねると、青龍が静かに答える。
『心の淀みが宝玉と結びつくと、
力の均衡は大きく歪む。
黒玉は……その危険が最も高い』
『四神の中で最も重たく、
最も深く、
最も“闇に近い”宝玉だからな』
白虎の声が低く響く。
三人は息を呑んだ。
(クロガネ……
そんな危ないものを……持ってるの……?)
■■ユイの“直接の依頼”
ユイは三人をまっすぐ見すえた。
「あなたたち三人は、
朱雀・青龍・白虎の宝玉に選ばれた。
それは本家でもめったにない、大きな奇跡よ」
「奇跡……」
レンは胸が熱くなる。
「だからこそお願いしたい。
――クロガネくんを探し、
彼に何が起きているのかを確かめてほしい」
「僕たちに……できるかな……」
レンは正直に不安を口にした。
ユイは優しく微笑んだ。
「できるわ。
だってあなたたちの光は、
初めて出会った日の宝玉の反応より
ずっと強くなっているもの」
その言葉に、
ミオもハルカも顔を上げた。
レンはゆっくりと深呼吸をし、朱玉を握る。
「……わかった。
クロガネを探そう。
僕たちが……助けるんだ」
宝玉が三つ、同時に光る。
夕日の中で、
三つの光はまるで新しい道を照らすように
暖かく脈打っていた。




