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怪人地区  作者: 蛇子
2/7

Ep2 ヒト回路


 清々しい大気が肺を満たす。朝の大通りは大勢のヒトが歩いていた。全て怪人である。皆一様に沈んだ表情をしていた。


「当然だ。自己の欲求を押さえつけて生活する心的負担は、心身の健康を損なう。連中はみな、哀れなゾンビに過ぎない」


 クロキはそう断ずる。自身がその欲求のまま生き、結果として命を狙われているのは事実だ。だがそうする気概も力もない者など、クロキにとって取るに足らない弱者である。理想に殉じて死ねないなら、理想など求めるべきではない。そして己の思想ひとつ通せない者など、最初から生きてすらいない。


「お前もそう思うだろう? リス子」

「いいえまったく」

「……つまらん奴だな」


 大通りのベンチに腰かけたクロキは、隣に座るツムギを横目で眺める。


「割とヒトデナシな考え方をするんですね。不死身だとそうなるんですか?」

「不死の秘密に好奇心など抱くなよ? 殺して解剖を、などと言い出した時には真っ向から迎撃してやる」


 大通りには喫茶店の類も並んでいた。当然、喫茶店とは名ばかりの飲食可能な休憩所でしかない。怪人地区に娯楽はないし、華美な建物や商店は期待できない。

 だが、二人がその休憩所すら利用しないのはそれが原因ではない。

 ヒト回路が暴力を禁じている以上、クロキとツムギを殺害するために周囲のヒトを巻き込む事ができないからだ。


「管理側の連中はヒト一人殺すのに、余計な手間をかけないとヒト回路の制限を突破できない。つまり標的だけを正確に狙い、なおかつ周囲のヒトは無傷でなければならない。そのバカバカしい制限がある限り、俺たちの安全は保障される」


 クロキはこの二年の生活でそれを理解していた。

 例えばクロキを轢殺しようとした場合、自動車だけでは足りない。クロキを観察するだけのヒト、合図を受けて手を上げるだけのヒト。そして手が上がったら自動車を急発進させるヒト。これだけの役割が必要になる。


「関わる奴は、それが暴力行為ではないと認識する必要がある。だから何をやるにしても手間が増え、大がかりになる。身の回りで不自然な動きをしている奴がいたら、とりあえず道を変えろ。それだけで連中の殺人計画は破綻する」


 ナイフが一つ刺さるだけで死ぬと言うのに、何とも不自由な殺し屋だ。とクロキはツムギに語る。


「時折、管理長官が作戦を指揮することがある。部屋ごと爆弾で吹き飛ばすような作戦を立ててくる。長官が出て来た場合、雑な考えだと殺されるぞ。なかなかどうして、勝負のやり方をわかっているらしいからな」


 そうして、クロキなりのアドバイスを述べつつ。気になっていた話に手をつける。


「それで? お前はどこまで知ったんだ? 兵器は俺がもらう以上、進捗報告くらいは聞けるんだろうな?」


 とはいえ、大した話は聞けないだろう。個人で調査できた情報などたかが知れている。だが命を狙われる程度には重要な何かを掴んだに違いない。

 軽い気持ちで訊ねたクロキに対し、ツムギは弾かれたように顔を上げ、表情を輝かせた。そして巨大なリュックサックのサイドポケットから取り出したのは、ボロボロに使い込まれた手帳やメモ帳である。


「よくぞ……聞いてくれました……!」


 ぴょんとベンチから跳ね、クロキの前に立つツムギ。


「リセットの正体についてはいくつもの仮設があります。ほとんどが都市伝説レベルで、一考にも値しません。で、す、が! 私の仮説は違います! 確かな記録に基づいた、非常に信ぴょう性の高いものです!」


 熱っぽく語るツムギは、抑えきれない感情を言葉にするのが追いつかない。両手を振り回しながら、さして興味のなさそうなクロキを相手に語り続ける。


「はじまりの怪人には、複数人の仲間がいたことがわかっています。その中には記録怪人と呼ばれるヒトがいました。彼、あるいは彼女が遺した記録は大部分が失われましたが、危険性が低いと判断された記録は残されています。仮に彼としましょう。彼の日常における些細なやり取りなどは、単なる日記として残され、処分まではされなかったのです!」

「……なんだと……? 記録怪人だの、残された日記だの、そんな話は初耳だぞ。どうやってそんなことを個人で……」

「国営資料館の禁書棚から、盗みました!」

「ば、バカな……。頭がどうかしているぞ、お前……」


 ヒト回路があるため窃盗など起きることはない。とは言え、国営の資料館では厳重な盗難対策がされている。そこから盗み出すことを、当然のことと認識できる。クロキはツムギの持つ怪人特性に警戒心を抱く。

 好奇心が関われば何でも出来るなど、ほとんど反則だ。解釈次第では殺人すら容易に行えるだろう。


「そして、彼の日記により新仮説を立てました! リセットの具体的なことはまだ不明です。しかしどうやら、ある特殊な条件下でのみ効果を発揮することがわかりました」

「……条件だと? それで?」


 続きを促す。ツムギは端的に、しかし熱を込めて言う。


「リセットは、怪人にしか扱うことが出来ない」

「……どういうことだ? ヒト回路が壊れた奴しか使えない……ということか?」

「そうではないみたいです。ヒト回路の有無は関係なく、ある種の謎かけだと思います。しかし怪人以外に、それを使用すること、動かすこと、破壊すること、あらゆるアプローチが無意味なのだと推測できます」

「破壊すら? それこそ都市伝説レベルだぞ」

「はい。しかし彼は日記だと、リセットが失われることを考慮していません。怪人地区を吹き飛ばせるだけの超兵器があったら、普通は敵である人類に奪われたり、壊されたりすることくらいは心配すると思いませんか?」

「……続けろ」

「リセットの存在自体は日記の内容を読み解くと確実です。リセットは間違いなく存在するもので、その威力は怪人地区を消滅させられる程。……ですが、世間で出回っている噂にしても、この破壊力は妙だと思いませんか?」

「何がだ? そんな破壊力を生み出すことはできない、という意味か?」

「どうして、比較対象が怪人地区なんでしょう」

「それは当然、はじまりの怪人が怪人地区に囚われ、そこから脱出するべく用意した兵器であるからには……」

「では、どうしてそれは使用されなかったのでしょう。威力まではっきりしているのに」

「……」


「話を続けます。リセットは恐らく、何らかの理由で使用できなかったのでしょう。ですが彼亡き後、人類はリセットを捜索した。しかし、怪人しか扱えないリセットを処分することができなかった」

「人類はリセットを発見した、と?」

「はい。私の仮説では、人類はそれを発見しています。何故なら記録怪人が遺した全記録を閲覧できた人類が、それを見つけられない訳がないからです。しかし、それは見つからなかった、ということになっている」


 ツムギはボロボロの手帳やメモ帳をめくりつつ、何度も確かめつつ、頷いた。


「人類は見つけられなかったのではない。見つけたそれを、隠すことしかできなかった」


 怪人が反旗を翻した時。それを使用されないようにするには、最初からなかった事にしてしまうのが一番簡単だ。


「ほう? ではリセットは、人類がどこかで厳重に保管している、と。それでは俺が使えないな。リセットを見つけるとお前は言ったが、まさか保管場所だけ推理して、あとは俺にお任せと? 随分と無責任な話だな」

「いいえ。もしそんな風に保管できたなら、存在ごと隠す必要がありません。隠す理由があるとしたら、当時の人類はそれを移動することも破壊することも出来なかった。そういうことになります。怪人でなければ扱えない、という仮説通りですね」


 故に、とツムギは続ける。


「リセットは、今もこの怪人地区のどこかにある」


 なるほど、とクロキは頷いた。そして溜息を一つ吐き出して、何となく空を見上げた。雲がどこかへ千切れて飛んで、青一色の快晴である。


「これは正義執行も納得だな……」

「はい。その正義執行もまた、私の考えが正解であるから、と言えます」


 胸を張るツムギは、頬を紅潮させて鼻息も荒い。クロキは片手で顔を覆った。


「つまりお前の宝探しに付き合え、と」

「はい! この歴史の真実を解き明かすまで、死んでなんかいられませんよ! 見つけたリセットはあげますから、私を助けて下さい! ロマンですよ、冒険ですよ、心躍る好奇の旅路へと、さあ!」

「ふ、む……」


 歴史のロマンなど、クロキには全く興味が持てなかった。クロキにとって最も人生に必要なものはそんなものではない。だが、リセットだけは何としても必要である。管理側を相手どって戦うにはリセットを手にするのが最善であり、それがあれば勝負の卓につくことができるのだ。


「仕方ない……。事の真偽はともかく、お前の仮説はひとまず認めよう。その上で、次の一手をどうするつもりだ?」

「実はアテがあります。私が盗み出した記録怪人の日記は、怪人地区で生活を営む様子しか書かれていなかったんです。なので、怪人地区が始まった頃や、リセットが建造されている時期の日記を探します。同時に、怪人地区内の物流や裏の事情に詳しい人にも取材したいです」


 ツムギはそう言ってから、感慨深げに腕を組む。


「今まではそんな所に行く勇気はありませんでした。回りくどい調査しか出来なかったんです。でも、不死身怪人のクロキさんが同道してくれるなら心強いです!」

「お前……」


 あからさまに、げんなりとした表情でツムギを見る。だがクロキのそれをどう受け取ったか、ツムギは嬉しそうにクロキの手を取る。


「リセット欲しいんですよね? 一蓮托生、ツーマンセル、背中を預けたパートナー! 今日から私、好奇怪人ツムギがあなたの相棒です!」

「……相棒など要らんぞ。ヒトは一人の時が一番強い。お前と一緒にいるとそれだけで勝率が下がるくらいだ」

「ひどい! お願いですよ! 一緒に行きましょうよぉ!」

「やめろ! シャツに……髪に触るな! 行かんとは言ってないだろう!」


 じゃれつくように飛びつくツムギを制しつつ、クロキは提案する。


「まずはお前の家に行こう。住居を提供してくれるんだろう? ひとまず腰を落ち着け、それから次の一手を考えよう」

「はい! 案内しますよ!」


 元気よく手を上げたツムギは、そのまま大股に歩き出す。とは言え歩幅に差があるので、クロキにとっては急ぐほどではない。


 怪人地区では半強制の労働が行われており、全ての怪人は最初から労働場所を決められている。小売店や工場、建物の補修から流通まで、怪人地区内の生活は怪人によってその大部分が成立している。仕事へと向かう怪人の波に逆らうように、二人分の足音が雑踏に紛れる。

 クロキは命を狙われるようになってから、半強制である労働を無視している。労働を行わずとも、生きるに必要な最低限の衣食住が法によって保証されており、それを頼りにした生活はあまり余裕があるとは言えない。しかし労働によって行動パターンが一定になった場合、あっけなく殺されてしまうのが目に見えているため、それも仕方のないことだった。


 何となく住居が集中するエリアに差し掛かると、ヒトの数も随分と少なくなってくる。休日を謳歌する者と、その休日を支える者が入り混じる辺りを抜け、灰色の風景を更に奥へと進む。


「こちらでーす!」


 ツムギが指したのは、比較的古いタイプの住居を何度も補修したもので、お世辞にもアタリの住居とは言えなかった。最初に割り振られた時に運がなかったのだろう。

 三階建ての集合住宅で、その一階にある一室。ツムギが鍵を取り出しながら、そのドアノブに近寄る。


「とまれ」


 ふと、背筋に悪寒を感じたクロキは言う。不思議そうな顔をしているツムギを無視し、そのリュックサックを掴んでドアから引き離す。


「……なんだ?」


 一見して何の変哲もない状況である。警戒すべき事など起きていない。しかし何かがクロキに違和感を与えていた。少なくとも、このまま無防備に動いて良いものではない。杞憂であれば良いが、伊達に二年も命を狙われていないのも事実だ。


「どうしたんですか?」

「お前が俺を殺すために、ここへ呼び寄せた……という線は違うか。それをやるには不確定要素が多すぎる。ならば、お前を殺すための襲撃? にしては偽装工作が上手すぎる」

「え、え? 何の話ですか?」

「少し黙ってろ。今考えている。……仮にそうだとしたら、何らかの怪人特性を利用している? しかし連中が怪人を手駒に使うか?」


 襲撃に怪人が関わっていたことは二年間で一度もなかった。しかし怪人地区に人類が送られるはずもなく、もっぱら関与するのは名誉人類と呼ばれるヒトである。元怪人で、素行と思想を善良であると認可された人類モドキ。クロキにしてみれば、人類の奴隷であり、怪人にも成り切れない半端な存在。


「だがこれは、名誉人類の仕業ではない。と、すると……」


 クロキは周囲を見回して、ツムギに訊ねる。


「この通路は普段からこうなのか?」

「こう……って?」

「こんなに掃除が行き届いているのか、という話だ。週に一度の清掃が義務付けられているのが通常だが、この建物はどうなんだ?」


 住居の利用方法まで管理者から指定されているのが通常である。クロキのような例外を除いて、ほぼ全ての怪人はそれに従うはずだった。


「そう言えば……何だか綺麗なような……?」


 通路には塵一つ落ちていない。だが、こんな朝早くから清掃活動が終了している。義務清掃がこうも熱心に行われているのを、クロキは見たことがなかった。


「ダメだ。引き返すぞ」


 なら何故それが行われたのか。そんな事は考えるまでもない。

 そこにあっては都合の悪いものがあった。

 それが何なのかわからないが、恐らく何らかの痕跡を隠蔽するため。ドアノブが鏡のように磨かれている事からして、使われた怪人特性は潔癖怪人か、その辺のものだろう。


「目的は不明だが、部屋の中で待ち伏せをされている。……俺ならそうする」

「不死身怪人の所以……って事ですか?」

「さあな」


 短いやり取りだけして、ドアから離れる。せっかく住居を得たというのに、入る事すら出来ずに放棄とは幸先が悪い。


「せめて身の回りの物だけ取ってきても……」

「ダメだ。そのデカいリュックサックは飾りか? パンパンに詰めるだけの荷物が残っただけマシだろう」

「これは全部、歴史資料です。……碌な着替えもないんですよ?」

「パンツ一枚とってくるために死ねるなら、そんな人生もあるのだろうと見届けてやる。資料があるなら一番大事なものだけは確保出来ているじゃないか。俺なんてトランプを捨てる破目になった」

「トランプなんかどうだって……」

「バカが。俺にとってどれだけ大切だったと思っている」

「トランプが、ですか……?」


 片手を振ったクロキは、そこで話を中断させる。それから足早に歩きだし、敷地の外へとツムギを連れて向かう。


「とにかく、得体の知れない敵を相手に無策はまずい。怪人特性を使っている以上、何をしてくるかわからん」


 その瞬間。二階から慌てた様子で男が降りて来ると、そのまま道を塞ぐ形で立った。クロキとツムギに手を向けると、一言告げる。


「待て、ここは通さん」

「ほぉ?」

「なんでちょっと楽しそうなんですか」


 ゆったりと口角を上げるクロキに反し、男は眉を吊り上げる。

 クロキと同じく長身だが、その肉体は正反対である。シャツの上から張り出した筋肉に加え、身軽な服装と短髪。仮にツムギと二人がかりで押し合った所で、万に一つも勝ち目はないだろう。


「お前の……。いや、お前らの目的は俺か? それともこのリス子か?」

「その女の子を渡すなら、お前に用はないな」

「だ、そうだ。どうする?」

「どうするって、ちゃんと助けて下さいよ! 相棒でしょ!」

「だ、そうだ。渡せんな」


 クロキは薄く笑っていた。とびきりのディナーを前にしたように、その目を期待に輝かせる。男は訝し気に目を細め、しかし気を抜かない。

 男は事前情報で、この黒づくめの男こそが不死身怪人だと聞いていた。まさか本当に不死だと思ってはいないが、その怪人特性にはそう呼ばれるだけの理由があるのだろうと警戒していた。


「さて。俺は怪人クロキ。あんたの名前は?」

「……怪人コーダ」

「そうか。いやなに、勝負の前には名乗り合うのが礼儀だろう?」

「勝負?」


 コーダは思わず聞き返してしまう。勝負事など、そんな野蛮で危険な行為をヒト回路が許す訳がない。皆が平等で幸せな人類社会に、勝負など旧歴史の概念は存在しない。

 だがクロキは続ける。


「今から互いに、一歩でも後退した方が負けだ。例外はない。さあ勝負だ」


 コーダはますます理解できなかった。クロキは長身だが細身だし、スーツを着て旅行鞄まで抱えた状態である。ぶつかった時に後退するのはクロキの方で、コーダが押し負けるとは到底思えず、しかし。


「考えたな? なら、もうお前は負けている」


 クロキがジャケットの内ポケットから取り出したのは、鋭く光る一本のナイフだった。その銀色が閃き、コーダへと一直線に向かってくる。


「う、な、そんな!」


 悲鳴を上げる間もない。一歩二歩と接近してくるクロキに対し、コーダが取れる選択肢は少ない。ヒト回路によって暴力を禁じられた状態では、ナイフを叩き落とす事もできない。むしろ、このクロキという男はどうやってナイフをヒトに向けられるのか、そんな事を考えている間にも距離は縮まり、コーダは思わずナイフを避けようとしてしまう。


「……俺の勝ちだ」


 トン、と聞こえたのは足が後ろにさがった音だった。コーダは胸の前で刃が止まるのを見て、安堵して、同時に認識してしまう。


「お前の負けだ」


 瞬間、コーダは自身が勝負を行ったという現実に囚われる。この世界において、そのような大罪をヒト回路は決して許容しない。故にコーダ自身のヒト回路は正常に作動した。

 そこから先の記憶はコーダに残っていない。


「何をしたんですか……? い、今、ナイフを……」


 あっさりと行われた暴力行為を前に、ツムギは腰を抜かすほど驚愕していた。


「ぼ、暴力? どうやって? いやいや、それより……」


 痙攣して膝から崩れ落ちたコーダは、完全に意識を失っていた。


「な、何をしたんですか!」


 悲鳴混じりのツムギに、クロキは満足気に溜息を吐く。ナイフを丁寧にしまうと、肩をすくめて応える。


「死んではいない。単なるヒト回路による論理崩壊現象だ」

「論理崩壊……?」

「なんだ、知らんのか?」


 ヒト回路により勝負を行うことはできない。しかし相手に勝敗を認識させることで、勝負をしたことにできる。そうして既成事実を与えられた結果起きるのは、矛盾を抱えてしまったヒト回路の論理崩壊である。


「ヒト回路は禁止行為を行うと身体の自由を奪うわけだが、それを外部から無理やり引き起こした。大したことじゃない」

「大したことじゃ、って……。そんなの聞いたことも……」

「それより、お前の部屋で待ち伏せている連中が気づく前に脱出するぞ。急げ」


 コーダの横を通り抜け、クロキとツムギはその場を離れる。


「仕組みはともかく、一体どうやったんですか? だってこんなの、そもそも勝負が出来ないと……」

「実際に目で見て、そこまで自分で言って、まだ勘違いしているのか?」


 クロキは隣を歩くツムギに目をやり、小馬鹿にしたように鼻で笑う。


「俺は不死身怪人じゃない」


 勝負怪人クロキは、次の一手を考えながら空と壁を見上げた。


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