【悲報】追放前に「覚醒」して、ブラックな冒険者パーティーが追放してくれません
全能であるはずの神がこの世の終わりに裁きを下すまで
俺がいなくとも人は悪を為すと知ったとき
俺は人の愚行をひたすら終末まで眺めることにした
おまえたちが俺の名前を忘れてしまったなら
思い出せるように
つまらなくて取るに足りぬ俺のことを少し話してやろう
問題ないだろう?
おまえたち人間のつまらなく、くだらない人生に
少し無意味な時間が費やされたところで
何が変わるというのだ
俺はおまえたちが最初の正しくない嘘をしたとき
それを陰で見ていた。そう、その時に俺とお前らは出会っているのだ
俺の視線を感じなかったとは言わせない
あらゆる罪人が俺のささやきが無くとも
カネを盗み、人を殺め、偽証するところも
俺はすべて見逃さなかった
もうわかるだろう俺の名前を
そしてこの物語は俺に見いだされた愚か者の話だ
帝国歴1012年 ヴルガータ帝国中部トララア山のダンジョンにて
「M男、早くしろ、このノロマッ‼」
赤毛で浅黒い肌のクルト族の大柄な女戦士は干し肉をかじりながら後ろを歩く同じクルト族の大柄で頑丈そうな体つきの荷物持ちの少年に怒鳴った
「待ってください、姉さん。石像は重いからそんな早く歩けません」
ヴルガータ帝国各地に数多に存在するダンジョンはその多くが古代エトルリア人の地下墳墓である。その最奥の地下神殿に奉納された宝物や地下墓地に埋葬された死者の副葬品を目当てに冒険者たちは「ダンジョン」を攻略する。古代エトルリア人も墓荒らしを想定し魔法の罠や「不死の石像」ゴーレムなどを配置し、魔物を放って、墓場の侵入者を迎え撃つ備えをしたあと巧妙に入り口を隠した。だがその努力虚しく冒険者パーティーに見つかったら最後、徹底的に暴かれ金目のものは根こそぎ持っていかれるのである。
ヴルガータ帝国において異教徒である古代エトルリア人の地下墳墓はただの宝の山でしかない。冒険者ギルドの管理のもと登録している冒険者パーティーがダンジョンの探索許可を申請したうえで探索が行われている。
だが登録も申請も高い金が必要でしかも獲得したお宝はギルド以外で売りさばくことは禁じられている。
ギルドで売れた代金の2割が冒険者パーティーの取り分だが王侯貴族以外の副葬品や奉納品が貧相な庶民たちが埋葬された「ハズレ」の地下墳墓だとそれでは大赤字になるので最低限ギルドに納めそれ以外は闇市場で売りさばかれることが多い。また8割もギルドに持っていかれることに不満な冒険者たちのなかには申請せずダンジョン探索して獲物を闇で流しているものもいるし、ギルドの幹部も闇取引に関わるものも多いとされる。
ただ最終的には帝国政府が5割も税金としてギルドから取り立てているので、政府として闇取引は厳しく取り締まりが行われている。
クルト族の二人は冒険者パーティー「ハートフルホワイト団」の冒険者メンバーである。「ハートフルホワイト団」は無申請で行ったダンジョン探索が役人たちの手入れの際に摘発されてしまい探索ライセンスはく奪と違約金支払いが命じられていた。
ライセンスがないのにかなりの額の違約金の支払うためギルドに無届でダンジョン探索を行っているのである。
二人が探索しているダンジョンはだいぶ前に他の冒険者パーティーに攻略されており、魔物などは駆逐されていたが目ぼしいものもあらかた持っていかれていた。
ハートフルホワイト団はそんな廃墟同然のダンジョンで何かまだカネ目になるものがないか、隈なく探しているのである。それくらい落ちぶれたFランク冒険者パーティーなので待遇は悪く荷物持ちの少年は朝・昼飯抜きで一日中、他のメンバーとは別にダンジョン内を同じクルト族の女戦士と一緒に探索していた。
二人は古代エトルリア人たちの想像する天国が壁一面に描かれた壁画で飾られ、埋葬者が奉納した神々の像が安置されている祭壇の間で金目のものを漁りはじめた。
すでに壁画には落書きがされ神像も何体か横倒しにされ荒らされていた。それでも女戦士はナイフで壁画に埋め込まれた爪の先ほどの小さなラピスラズリやメノウなどを丹念にほじくって袋に入れた。
荷物持ちの少年はやすりやノミで人の背丈くらいの神々の像から首の部分だけを切り落として運べるサイズにしたあと擦れないようひとつずつ袋に入れリュックにしまっていった。
古代の異教徒が崇めた神々の像は最近貴族の間で流行っていて密かにコレクションするものが多いという。しかし帝国の国教ヴルガータ正教の教義で禁じられた偶像崇拝を助長するものとしヴルガータ正教会は特に厳しい取り締まりを帝国政府に要請し冒険者ギルドでも冒険者たちに取り扱いを厳しく禁じている。そのため異教徒の神像の盗掘・密売は捕まれば最悪火刑となる厳しい罰が待ち受けている。
荷物持ちの少年が飯も食わさずに探索させられているのも定期的にダンジョン各地を巡視する役人が来る前にずらかりたいからである。徹底的に金目のものを取りつくすと二人は先に進んだ。
二人の進むダンジョン内の通路は壁に埋め込まれている魔晶石の放つ白い光で十分明るい。古代エトルリア人の死生観では死んだあと千年の後に復活して地下墳墓内で終末の時まで過ごすという。そのため地下墳墓内は普通に生活できるように造られている。地下墳墓の最奥の神殿の魔力供給装置が機能して魔力を供給している限り壁に埋め込まれた魔晶石は光り続ける。ただ魔晶石は一度魔力を流したあと魔力が流れなくなると黒ずんで再度使えなくなるという特質がある。そのため高価な魔晶石でも二人はほじくり出さなかった。
通路が二手に分かれていた。
「姉さん、右からかすかに風が吹いています」
「ああ、わかっている。左手の通路の奥の方にがれきと宝箱が見える。仕組まれた罠に引っかかったようだな」
目をこらすと、がれきの山に埋もれた人の足らしきものと蓋が開いて横倒しになった宝箱が見えた
「何か金目のものを身に着けているかもしれないな。調べろ」
「姉さん、あそこらへんは罠の爆風で天井とか傷んでいて崩落が起きる恐れがあります。ここは見過ごして先に進みましょう」
女戦士はしぶしぶ少年の提案を受け入れ風の流れてくる右の通路に進んだ
古代エトルリア人の王侯貴族が埋葬されるような地下墳墓内には絶えず風が流れており、地上の空気が送り込まれている。壁の中に巧妙に換気口や配管が埋め込まれ、地下でも空気が流れるようにうまく設計されているという。ただそれが仇となり地表に空気取り込み口を兼ねた神の社があり、巧妙に地下墳墓の入り口を隠しても社付近には必ずダンジョンがあると冒険者たちに教えてしまっていた。
「宝箱がある。M男開けろ。」
二人の進んでいった通路の先にある開けた広間の中央に大きな宝箱が置いてあった。目ぼしいものはあらかた持っていかれているのに不自然に残っている宝箱に少年は疑いを持った
「姉さん。こいつは怪しいと思います。こんなところに置かれている意味が分かりません」
宝箱の周りは激しい戦闘の痕跡が残っており、壁の魔晶石のいくつかは破損し黒ずみ、壁には火炎系の攻撃魔法による焼けた跡がいくつもあり、バラバラになった魔物の死骸の破片がカピカピの状態で散乱していた。
「前の奴らがあきらめたやつかもしれない。つべこべ言わず早く開けろ、ウスノロ。」
少年は以前、錠前職人のもとで徒弟として働いていたことがあるので、仕組みがわかり宝箱に仕掛けられた罠の解除もできる。頑丈な革製の指先無し手袋をはめ、宝箱の蓋に埋め込まれた文字盤を眺めた後、封印を解くため文字を一つ一つ押していった。文字を5つ押し終わった後、少年は考え込んでしまった。
「姉さん、封印は大抵、古代神の「御名」を入れれば開きます。装飾模様から推定できる御名を押したがトラップも発動しないが開きもしない。どうも最後に6つの文字から一つ選ばなければ開かないみたいです」
「だったら早く押せ」
「こいつは直接魔力のこもった指先で押さないといけない。ステッキでは反応しない。罠の魔力は確実にまだある。間違えるとトラップが発動し、指先が下手すりゃ手首が持っていかれる。確率的に高いものはわかりますが確証が得られない。
そもそもこんな御名を汚すようなことを古代人はしない」
「グズグズしないで一番確率の高い奴を早く押せよ。このマヌケッ!!」
女戦士の剣幕に負け、荷物持ちの少年は目をつむり文字盤の文字を押した。するとカチリと宝箱が開く音がした。
「よくやった、M男」
女戦士は少年を押しのけて宝箱の蓋を開けた。
「……これは、なんだ」
マヌケ、とだけ書かれたほとんど黄ばんでいない白い紙だけが箱の底にあった。露骨な同業者つぶしである。
「こんなもののために指を失ったら泣くに泣けない」
少年は革の手袋を外しながら言った。女戦士はその場にどっかりと座り込み胡坐をかいて腰の酒瓶の蓋を開け、酒を飲みだした。
「クソッ。もうこれで十分だ。入り口に戻って合流する」
冒険者パーティーの他のメンバー勇者と魔導士とヒーラーは、皆、白い肌のヴルガータ人で入り口付近の探索と見張りをしていた。役人に踏み込まれた際にたまたまダンジョンの入り口にいただけでと釈明するためで、中にいる二人はダンジョン内で逢瀬(セッ〇ス)を楽しんでいるだけと言い逃れする算段になっている。
酒の匂いが嫌いな少年は女戦士が酒盛りをしているのを少し離れたところで眺めていたがふと、壁のくぼみでちょろちょろと水がしみ出しているのに気が付いた。
「(このくぼみ、だいぶすり減っている。そして明らかに石の材質が他と違う。砂岩ではない。なんだこの赤茶の石は)」
少年がくぼみを観察していると急に前方から殺気を感じた。
「姉さん、あそこっ」
前方に巨大な手負いの双頭のケルベロスが二人の様子を伺っていた。おそらく以前、このダンジョン攻略した冒険者パーティーが大ダメージを与えたが仕留め損なったものであろう。二つある頭の一つは切り落とされたのか顎から上は無く残った頸がだらりと垂れ下がっていた。もう一方の頭も鼻や左耳が欠け、右耳もだいぶ損傷していたが人の拳のような大きさの二つの目と鋭い牙を持った口は殆ど損傷がないようである。
脚も左後ろ脚の足首から先が欠損していたが少し酔っ払った女戦士の元に素早く駆け寄ってきた。そして女戦士が武器を手にするよりも早くケルベロスは飛び掛かって押し倒し、そのまま顔に食らい付こうとしたが
「姉さんから離れろ」
少年が投げた石像の頭が目の付近に当たりケルベロスはひるんだ。そのすきに女戦士はケルベロスの前腕の間から這い出て逃げ出した。少年は小刀を抜いて女戦士にのもと駈け寄ってケルベロスと戦おうとしたが、女戦士はその脇を走り抜けた。
「バカ、早く逃げるぞ」
少年も荷物を捨て女戦士の後を追い逃げ出した。ケルベロスは三本足で走っているが人が走るよりも少し遅い速さなので二人を追いかけたが徐々に距離が離れていったがしつこく追いかけている。
墓石や死者を称える石像のモニュメントがいくつも並んだ墓地に二人は逃げ込んだ。二人とも息が荒くこれ以上、走ることができなかった。二人が大きな古代の神々が酒宴している大きな彫像の後ろに隠れて様子を伺うと逃げてきた通路からケルベロスがやってきて周りを伺った。鼻や耳を損傷しているのかあたりを見回すだけでこちらには気づいていないようである。
彫像に後ろに隠れた二人の目の前には出口に続く通路があった。
「姉さん、どうします?目の前の通路を突っ走れば出口にたどり着けるはずですが、その前に追いつかれる可能性もある。ここはなんとかやりすごしますか」
「あいつは執念深い。いずれここにいることもバレル。エサをやって足止めしよう」
「干し肉なんかで騙されますかね」
女戦士はニヤリとして少年の胸倉をつかんだ。少年は何をされるのか察せぬまま、みぞおちに思いきりパンチを食らった。
「けはっ!?」
腹を抱えてうずくまろうとする少年の首筋を掴み、ケルベロスのいる方へ放り投げ、女戦士は一目散に出口に続く通路に走っていった
「な、なぜねえさん……」
少年は裏切り行為の理由を考えるより近づいてくる目の前の脅威に対処しなければならなかった
ケルベロスはゆっくりと倒れ込んでいる少年の方に近づき、少年は追い払うかのように右の手の平を向けて腕を振ることしかできなかった。絶体絶命のそのとき少年の頭の中に語り掛ける声がした
「(我は堕天使。われの力を授けよう虐げられしものよ、その力を持て復讐せよ)」
そう俺様がこの少年に囁き、力を与えたのだ
突如、少年の手の平から眩い青白い光が放たれ一瞬でケルベロスの体はドロドロに溶けてしまい骨と床に広がる茶褐色のねばねばした液体だけが残った。そしてケルベロスの溶けた体の腹のあたりに鶏の卵ほどの大きさの見事な金剛石の付いた黄金の玉があった。古代エトルリア人は宝石などを奉納する際に長命なケルベロスに飲み込ませることがあるという。
ダンジョンの入り口では少年以外の冒険者メンバーが休憩をしていた。ダンジョンにいる魔物はたいていダンジョンから出られないように呪術がかけられているのでケルベロスが出てくる危険性はない。
彼らは荷物持ちの少年の死を嘆いていた。ろくに食わせなくてもよく働き、罠の解除や鍵の解錠まで出来る荷物持ちがいなくなってしまうのはパーティーにとって大きな損失である。
人気のあるS級冒険者パーティーなら募集をかけなくてもタダ働きでもいいからと荷物持ち希望者が殺到する。しかし彼らのようなFランク冒険者パーティーだとギルドに高額な紹介手数料を払わないと次の荷物持ちが集められない。
少年をダンジョンに置き去りにした女戦士アグネス・ブレイドはギルドに提出するトラキア人の荷物運び「エムオウ・クルツ」の死亡報告書を作成していた。
「名前:エムオウ・クルツ 出生地不明のクルト系トラキア人 生年月日:不明、推定15歳 特記事項:ダンジョン内にて死去。死体無し。孤児院出身、親族無きゆえ葬式も無用」
パーティーのリーダーである勇者シャオロン・レオーネは金髪のヴルガータ人の17歳の少年でダンジョン探索はビジネスと割り切っている。すぐさま荷物運びを失った今後のパーティーの在り方を考えていた。
「Fランクに降格以降、うちは慢性的な赤字だからダンジョン探索業を畳んで商隊の護衛など依頼請負業に鞍替えするため無能君を追放をする予定だったが、その必要が無くなったわけか。」
これからは自分たちで荷物を持たなければと考えているところに、荷物持ちの少年エムオウがダンジョンの入り口から出てきた。
「おまえ、よく、生きて出てこられたな。」
勇者シャオロンは感心したように見た目は大きな外傷の無いエムオウを見つめて言った。女戦士ブレイドは何事もなかったように死亡報告書をしまった。
「ケルベロスに襲われた際に、何かの魔法能力に覚醒したようです。おかげで倒すことができてこれをゲットした」
エムオウは勇者シャオロンに鶏の卵サイズの金剛石のついた黄金の玉を手渡した。勇者はひとしきり眺めた後。少年に返した。
「ケルベロス如きに、このサイズの金剛石か。大きすぎてさばくのが難しい。……これは、荷物持ちが持っていろ。それより覚醒しておまえはどういう魔法が使える」
「戻ってくる前にいろいろ試しましたがランダムで攻撃魔法ができるようです」
「なら、あそこにダンジョンの入り口を隠していたはずの岩がある。あれに向かって何かやってみろ」
エムオウは以前に見様見まねで習得した初級攻撃魔法を唱えた
「ファイヤーボール」
エムオウの手から青白い光球が放たれ、縄がいくつも巻かれた数十人くらいで動かしただろう大岩に向かってゆっくり飛んでいった。光球が大岩に吸い込まれるように消えるとエムオウ以外は大笑いしたが、次の瞬間、岩に無数のひびが入り小さな石屑となってバラバラに崩れた。そうして出来た石屑の山もだんだん石の粒が小さくなっていき最終的には大きな砂山ができた。
シャオロンは驚いて言った
「形あるものをすべて破壊するダーククラッシャーだ。ケルベロスを倒したのもこれか」
「これとは違うものです、どうもまだ自分でも何を出せるのか制御できないのです」
「これがあればダンジョン攻略がだいぶ楽になる。これからもよろしくな」
シャオロンは手を差し伸べたが、エムオウは首を振った
「まだ魔力が残っています。握手はしないほうがいいと思います」
そしてエムオウは開き直ったかのように腕組みをして立っているブレイドのもとに行った
「姉さん。クルト人の血の絆は何よりも硬いはずです。姉さんはこれからも僕の姉さんです」