表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

第6回 下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞&冬の童話祭2025

紙飛行機にのせて、君に届け。

作者: 佐藤そら

「せーのっ!」


 僕らは、隣同士の部屋のベランダから、青空に向かって紙飛行機を飛ばした。


 風にのり、紙飛行機は空高く上昇した。




 僕らは、同じマンションの住人だ。

 僕は人見知りで、なかなか話しかけられなかったけど、彼女は人懐っこくて、いつも笑顔で、お喋りで、こんな僕にも気さくに話しかけてくれた。

 おかげで、仲良くなるのに時間はかからなかった。

 いつしか僕らは、ベランダで仕切り板越しに毎日話すようになった。


 学校での出来事、先生の愚痴、今日見た夢の話。

 大した話はしてないはずなのに、不思議なもので話は尽きなかった。


 気付けば、僕は君に好意を寄せるようになっていた。

 だからと言って、何を伝えるわけでもなく、日常は過ぎていく。


 君は僕の気持ちを知ってか知らずか、なかなか心がつかめない。

 君の心の内側に触れようとすると、どこかはぐらかされる。



 でも、ある日。


「今度さ、一緒に遊園地行こうよ!」


 彼女からまさかの誘いがあった。

 僕は舞い上がった。

 想いは通じ合っていたのではないか? と期待せずにはいられなかった。




「次、あれに乗ろう!」


 彼女が指さした先には、観覧車があった。

 ゴンドラの中では、彼女との距離がとても近くに感じた。

 今の僕らの間には隔たりがない。


 彼女は静かに外の景色を見つめていた。

 お喋りな彼女が、口をつぐんでいる。

 沈黙と共に、観覧車は頂上へと向かっていった。


 頂上に着く頃、君は口を開いた。


「わたしね、もうすぐ引越すんだ」


 彼女の視線は、外を向いたままだった。


 唐突な告白に、僕は言葉が出てこなかった。


「どこに引越すの?」


 僕の口からやっと出た言葉は、それだけだった。


「遠いところ……」


 本当は話したいこと、伝えたいこと、聞きたいこと、沢山あった。

 でも、何も言えなかった。


 無情にも観覧車は一周した。




 引越しの日は、あっという間にやって来た。


「前を向いて進んでね」


 そういうと、君は笑顔で僕に手を振った。



 その言葉の意味を知ったのは、それから半年ほど経ってからのことだ。

 君は遠いところへ旅立ってしまった。


 僕は泣いた。

 あの時、想いを伝えておくべきだったのではないかと思った。

 明日があるとは限らないのだから。




 そんな僕も大人になった。

 折り紙に文を綴る。そして、紙飛行機を折った。



 ×  ×  ×



 拝啓 大好きだった君へ


 僕、結婚するんだ。


 今日で君を卒業する。君の言葉通り、前を向いて進むよ。



 ×  ×  ×



 僕はベランダから青空に紙飛行機を飛ばした。


 この想いよ、君に届け。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ