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あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~  作者: 古芭白あきら
第1部 その婚約、本当に必要ですか?

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第64話 その攻略対象、ついに動いたんですか?

「ああ、もうッ!」


 女子更衣室でシャワーを浴びながら、ウェルシェは髪をガシャガシャかき乱した。


「どうして私はあんな事を……」


 エーリックに対しての迂闊な行動にウェルシェは後悔の嵐だ。どうにも試合に負けてから調子が狂いっぱなしである。


「なにをやってるのよ私は!」


 エーリックの顔が脳裏に浮かぶたびに恥ずかしさで悶えてしまう。


「うううっ、エーリック様に合わせる顔が無いわ!」


 彼女の雪のように真っ白な肌が赤く染まっているのは、果たしてお湯を浴びているせいだけだろうか?


「お優しいエーリック様でも、さすがにお怒りになられたわよね?」


 さっきの仕打ちはさすがに理不尽であったと、ウェルシェは顔を(しか)めた。


「きっと嫌われちゃったわ」


 なぜかエーリックに嫌われると思っただけで、胸がきゅぅっと締めつけられるように痛みが走る。


「私……どうしちゃったんだろ?」


 金色の雲のようなふわりとした髪、晴れた空のように澄んだ青い瞳、いつも柔らかい笑顔を浮かべる端正な顔立ちの柔和な美少年。


 確かにウェルシェの好みドンピシャの容姿ではある。


 だが、ウェルシェは理と利の前には感情を殺せる類の人種だ。エーリックもただ婚約の条件が良いから選んだに過ぎない。


 好かれる方が良いが、嫌われたとて政略結婚であるから問題は無いはずなのだ。何をどう考えても、自分の中で(うごめ)く感情の正体が分からない。


「あ~もう、やめやめ! 過ぎた事なんて考えるだけムダよ、ムダ!」


 蛇口を捻ってお湯を止めると、バンッと乱暴に扉を開けた。ウェルシェの身体はびしょびしょで、髪や身体からぼたぼたと水滴が落ちて脱衣所の床を濡らした。


 ウェルシェは起伏に富んだ見事な裸体を惜しげもなく晒す。出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる同性でも見惚れるプロポーション。銀の髪がきらめき、肌は抜けるように白い。しとどに濡れた裸身はいやらしさより神秘的な雰囲気を醸し出している。


 美の女神が沐浴を終えたところといった趣きだ。


 やわ肌を傷つけないふわふわのタオルで髪と体を拭き上げ、ウェルシェは籠に用意されていた着替えに手を伸ばす。制服のブラウスに袖を通せば、汗を流しさっぱりした身体に新しく卸したそれの感触はとても心地良いものであった。


 しかし、ウェルシェの心はもやもやが晴れない。


「そんなに醜態を晒したのが(こた)えたのかしら?」


 それはある……だが、それだけでは自分の動揺にどうにも説明がつかない。


(それとも相手がエーリック様だから……)


 金髪の美少年(エーリック)の優しい笑顔が脳裏によぎると、ウェルシェの胸が一気にざわついた。


「違う、違う!」


 何が違うのか、誰に言い訳をしているのか……ウェルシェは迷いを払うようにかぶりを振った。


 それから、洗面台の大きな鏡で自分の身だしなみを整え、両手を台について自分の顔を覗き込む。そこに映る新緑を思わせる翠緑(エメラルドグリーン)の瞳をウェルシェはキッと睨みつけた。


「切り替えなさい、ウェルシェ・グロラッハ!」


 ウェルシェには本命の氷柱融解盤戯アイシクルメルティングが控えているし、それ以上にケヴィンと決着をつけなければならない。


(いつまでも失敗を引きずるなんて私らしくないわ)


 ウェルシェは鏡の自分に言い聞かせて気持ちを切り替える。


「大丈夫よ、氷柱融解盤戯アイシクルメルティングで私が負けるはずないし、なんなら負けても最悪ケヴィン様の件が片付きさえすればいいんだし……エーリック様の事だって、後で謝罪をすればきっと許してもらえるわ」


 ――私なら全てうまくやれるわ。


 そう自己暗示をかけて頷く。


 最後に自分の身だしなみをチェックしてからウェルシェは更衣室を後にした。


 部屋の外には不測の事態に備え、レーキとジョウジが待機していた。二人はウェルシェの護衛であり、女子更衣室の前で待ってもらっていたのである。


「お待たせ……」


 だが、令嬢がシャワーを浴びている更衣室の前に男性二人で待たせたのは不審者っぽい。ちょっと可哀想だったかな、と罪悪感を覚えて声をかけたのだが、彼らの表情がどうにも暗い。


「……って、何かあったの?」


 まさか、既に変質者に間違えられたのか?


「実は……」


 それはちょっと悪い事をしたかなと思ったのだが、ジョウジが周囲を気にしながら近づきウェルシェにそっと耳打ちした。


 ジョウジが告げた内容はウェルシェが待ち望んでいた事であった。


「ケヴィンが動きました」

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