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第6話 その入学、本当に大丈夫だったんですか?

「なんなのよ、あの男どもは!?」


 いつもは人を食ったような態度で余裕綽々(しゃくしゃく)のウェルシェが、らしくなくウガァーッと喚き散らした。彼女の叫びにカミラはそっとため息を吐く。


「私は面白おかしく学園生活を送りたいだけなのに!」


 ウェルシェがマルトニア学園に通うようになって三ヶ月が過ぎた。


 学園生活はそれなりに順調、学業や行事関係にはなんら問題はない。気の合う友人もできた。全ては順風満帆……のはずだったのだが、一つだけウェルシェに誤算があった。


「だいたい、私には婚約者がいるのよ!」


 エーリックの危惧していた事が生じたのだ。と言っても別にウェルシェが他の男に惚れたわけではない。周りの男どもがウェルシェに粉をかけ(アプローチし)て来たのだ。


「入学式でのお嬢様の噂は私の耳にも届いておりますよ」


 暴れるウェルシェを横目に、お茶を完璧に注ぎながらカミラは呆れた。


「全校生徒、全職員のハートを奪ったそうじゃありませんか」


 入学早々、ウェルシェは学園の話題を一人でかっ攫った。

 一年に儚げな妖精のごとき絶世の美少女が入ってきたと……


 優しげでふんわりした雰囲気(ねこかぶり)のせいでウェルシェの人気は爆上がり。今も男女を問わず高騰を続けている。


「お嬢様はやり過ぎたんです」

「それでも婚約者のいる私に粉をかけ(アプローチし)てくるなんて思わないじゃない」

「お嬢様はもっとご自分の魅力を理解してください」

「ちゃんと理解しているわよ。他の令嬢より家柄も魔力も高く優秀で可愛いでしょ?」


 人差し指を両頬に当ててウェルシェがポーズを取る。今の言動を他の者が聞けば、自己評価の高い女だと思われるに違いない。


 だが、カミラの意見は真逆だった。

 あまりに自己評価が低過ぎる、と……


「いいですか、お嬢様はダントツに家柄が良く、ぶっちぎりに優秀で、誰もが羨望の眼差しを向ける絶世の美少女なんですよ」

「それは言い過ぎよ」


 まさか、とウェルシェはケタケタ笑って取り合わない。そんな主人にカミラは何度でもため息を()くのだ。


「それに私の婚約者はエーリック様よ」


 それを知ってウェルシェに言い寄ってくるのは王家を蔑ろにする行為だ。とても正気ではないとウェルシェは思う。


「お嬢様はぶっちぎりの優秀な成績で特別クラスに編入されております。ですが、殿下は王子でありながら落ちこぼれクラスです」


 だが、カミラは意見を異にしていた。


「釣り合いの取れないぽやっとした王子相手なら、お嬢様を掠奪できると思われたのでしょう」

「私の婚約者に失礼ね!」


 ウェルシェは自分の婚約者をディスられて机をバンバン叩いて猛抗議。


「いまいち頼りなくって王子のオーラまったく無い男爵令息と言われても納得しそうな方だなんて」

「いえ、私はそこまで申してはおりませんが」

「要領が悪くて、優柔不断で、私の前でカッコつけようとしても決まらない情け無いとこばっかだけど、エーリック様はこの国の王子。あれでも王子様なのよ!」

「お嬢様が一番ディスってませんか?」

「とにかく私はエーリック様と結婚するの!」


 ウェルシェはぐっと握った拳を天に突き出す。


「グロラッハ家の利益の為に!」


 どこまでも恋愛に残念な自分の主人にため息が漏れた。


「まあ、そんなお嬢様のゲス可愛いところも私は好きですよ」

「酷ッ!?」


 侍女にあるまじき発言にウェルシェは頬を膨らませた。


(そんな可愛い姿を見せるから男を惑わせるのですけど……)


 美貌の中に少女のような愛らしさを内包している自分の魅力が男たちを悩殺しているのだとウェルシェはまったく気がついていない。


 そんな主人の意外な鈍感さにカミラは再びため息を吐き出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] これは……自覚してないってのは一番タチ悪いねぇ。 これじゃ自分に降り掛からんとしている男難な災厄さえも察知できないんじゃないか。
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