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あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~  作者: 古芭白あきら
第2部 そのザマァ、本当に必要ですか?

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第63話 その提案、いよいよイベント開始ですか?

「パ、パーフェクト!」

「ふふん、どんなもんよ」


 審判の宣言にイーリヤが勝ち誇ってガッツポーズした。


「こ、高額商品がまた獲られた……」


 店員達ががっくり項垂れる。その様子をずっと観戦していた周囲の野次馬たちからわっと歓声が上がった。


「すげぇ!」

「これで十連続パーフェクトだぜ」

「この三日間、誰も達成できなかったのに」


 この模擬店で催されているのはストラックシューティングと呼ばれるゲームだ。これは決められた時間内に九つの的を魔力弾で撃ち抜くもの。


 ただでさえ難しいこのゲーム難易度の設定をマックスにして、お客から掛け金を巻き上げている模擬店をイーリヤが目敏く発見した。そこで彼女は持ち前の反則チート能力で成敗したのである。


「ほんにイーリヤは凄いのじゃ」

「へへへ、イーリヤは学園史上きってのスーパー令嬢だもん」


 我が事のように喜ぶキャロルにネーヴェの瞳に優しい光が灯る。そこへ根こそぎ高価な景品を奪い取ってきたイーリヤが合流した。


「お時間を取らせて申し訳ありません」

「いや、妾もじゅうぶん楽しませてもらったのじゃ」

「ホント私も見てて興奮しちゃった」

「ふふふ、まあね、私ってば最強だから」


 悪役令嬢イーリヤ・ニルゲは乙女ゲームの中で最も能力値の高いキャラクターである。しかも、前世が努力の人だったので幼少期から鍛えまくった結果、ゲーム設定を遥かに超える超越悪役令嬢と化していた。


「なーんて、ちょっと調子に乗りすぎかしら」

「いや、ほんに驚いたのじゃ」


 イーリヤは戯けたが、ネーヴェは感心し少し考え込んだ。


「魔力量も桁違いのようじゃ……もしやイーリヤなら妾を止められるやもしれぬ」

「どうかなさいましたか?」

「いや済まぬ。何でもないのじゃ」


 ネーヴェはイーリヤの力を借りられないか一瞬迷ったが、すぐに(かぶり)を振った。


「さすがにこれ以上は世話になれんの」

「何を言ってるの。まだまだこれからよ」


 ネーヴェの言葉の意味をキャロルは勘違いした。が、ネーヴェはあえて間違いを正さず二人に頭を下げた。


「そなたらにはずいぶん世話になってしもうたの」

「ぜんぜん、私も楽しんでるし」

「そうですよネーヴェ様、ご遠慮なさらずに」

「そうそう、まだまだ模擬店はい~っぱいあるんだから」


 留意する二人にネーヴェは首を横に振った。


「いや、そろそろ妾も本来の目的に戻らねばならぬ」

「そう言えば、ネーヴェ様は何か用事があって来たって仰ってましたね」

「うむ、探し物があっての。魔力を追ってここまで来たのじゃ」


 約束の薔薇の魔力を探って学園に入ったところでネーヴェは迷ってしまった。なんせマルトニア学園には魔力量の多い生徒や魔道具の類がたくさんある。とてもではないが精密な探査が不可能だったのだ。


 そのせいで難儀していたところをイーリヤとキャロルにナンパされたというわけである。


「それならもう少しご一緒しましょう」

「そうそう、一つずつ模擬店を回って行けばきっと見つかるって」

「しかしのお、これ以上そなたらに甘えるのは……」

「あら、二人とも何をしておりますの?」


 三人が押し問答をしている横からのほほんとした声が割り込んできた。振り向けば白銀の美少女が三人を見て小首を傾げている。


「イーリヤ達の知り合いかや?」

「ええ、私とキャロルの共通の友人です」


 イーリヤの紹介に、すぐさまウェルシェが綺麗にカーテシーを披露した。イーリヤの隙の無い完璧な立礼とはやや異なり、同じように完璧でありながらウェルシェの礼はどこか人を魅了する可憐さがある。


「グロラッハ侯爵の娘ウェルシェ・グロラッハと申します。どうぞお見知りおきくださいませ」

「ふむ、妾はネーヴェ・ローザリアじゃ」

「ネーヴェ様でございますか?」


 イーリヤ同様ウェルシェも名前に引っかかりを覚えたが、やはり思い出せずに首を捻った。


「どうしたのじゃ?」

「いえ、どこかでお会いしたかと考えておりましたが……思い違いですわね。これほどお美しい方を忘れるはずもありませんもの」


 ネーヴェはイーリヤとタメを張る美女だ。しかも白髪に鉛色の瞳、更に異国の衣装とくれば忘れようもない。ウェルシェは考えるのをやめた。


「そなたも人形のように愛らしいの」

「ふぇッ!?」


 突然ネーヴェがウェルシェに迫り髪を一房手に取った。不意打ちで白皙の美貌がドアップになりウェルシェは素っ頓狂な声を上げた。


「髪も羨むばかりの美しい白銀じゃ。そなたほどの美しい少女を妾は他に知らぬ」

「あぅあぅ」

「イーリヤを見た時も思ったのじゃが、この国はずいぶん美人が多いのお」

「なっなっなっ……」


 褒められるのに慣れているはずのウェルシェがまるで初心な娘のように真っ赤になった。


(なんつー色香なの……あっ、良い匂いまでする……ヤバイ堕ちそう)


 老若男女を魅了するネーヴェの色気にウェルシェはクラッときた。


「そなたもイーリヤやキャロルと同じように仲良くしてくれると嬉しい」

「な、仲良く!?」


 完全に誤解したウェルシェは熱くなった頬を両手で包んで首を振った。


「い、いけませんわ。私にはエーリック様という心に決めたお方が」

「なにバカ言ってるの」

「あいたッ!」


 イーリヤから頭を小突かれウェルシェは頭をさする。


「それで、そのエーリック様はどこへ行ったのよ?」

「むぅ」


 ウェルシェは頬を口を尖らせた。


「エーリック様ならクラスに戻られましたわ。さすがに最後くらいお手伝いをしないとクラスメート達に悪いって仰られまして」


 その口調から不満が滲み出ておりイーリヤはウェルシェの頭をわしゃわしゃ撫でた。


「殿下のそんな律義で真面目なところを好きになったんでしょ」

「それはそうですけどぉ」


 それでも自分を優先して欲しくなるのが恋する乙女心。ウェルシェの可愛いらしい反応にイーリヤは仕方ないなぁと笑った。


「それじゃみんなで行きましょうか」

「行くって……どこへですの?」


 イーリヤに乱された髪を手櫛で直しながらウェルシェが尋ねると、イーリヤはニヤッと笑った。


「もちろん、執事喫茶『プリンス』へよ」

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