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あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~  作者: 古芭白あきら
第2部 そのザマァ、本当に必要ですか?

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第59話 その鉄拳侍女、本当に道場破りですか?

 ――執事喫茶『プリンス』


 今日も今日とて店内は老若娘娘ろうにゃくにゃんにゃんで満員御礼。


「お帰りなさいませ、お嬢様!」

「行ってらっしゃいませ、お嬢様。お帰りをお待ちしてまーす」


 老いも若きも女性達は自分に向けられるイケメンの笑みの為に、せっせと売上に貢献していた。執事喫茶『プリンス』、お陰様を持ちまして文化祭二日目も大盛況です。商売繁盛で笹もってこーい!


「お前の為にもっとメェさん描いてやるよ」

「アーン、じゃあもう一杯追加しちゃう♡」


 執事服のイケメンが甘い言葉で迫れば女性客の財布の紐は立ちどころに緩くなる。


「はーい、羊ラテ入りましたー」

「ハイ、ヨロコンデー!」

「お前のイイトコ見てみたい♪」

「じゃあ、羊毛もふもふマシュマロも頼んじゃう♡」

「はーい、モフマロ追加ー」

「ハイ、ヨロコンデー!」


 女性客に貢がせる様相はもはや喫茶店と言うよりホストクラブだ。公序良俗に反しているように思えるが、学園の文化祭でどうして許されているのか不思議である。


「たのもー!」


 そんな執事喫茶(ホストクラブ)の喧騒を破って現れたのは一人の道場破り(クレーマー)。名をウェルシェ・グロラッハという。


「また来たか!」


 奥からアイリスが血相を変えて飛び出してきた。昨日みたいに商売を邪魔されてはたまらない。アイリスはウガァッと噛みついたが、打って変わってウェルシェは涼しい顔だ。


「そこは『どーれ』ではありませんの?」

「あんたは道場破りか!」


 噛みつくアイリスにもウェルシェは余裕の顔でフッと笑った。


「そうですわね、確かに今しがた破ってきたところですわ」

「ホントに道場破りだった!?」


 怯える客や従業員を守るようにアイリスは両手を広げて、ウェルシェの前に立ちはだかる。


「だけどここはやらせないわ」

「ご安心ください。私も昨日の軽率な振る舞いを反省しましたわ」


 ごめんなさいと素直に謝られてはアイリスとしても強くは出られず、渋々ながら聖女様としてはもういいわよと許さざるを得ない。


「それで今日は何の用よ」

「それはもちろんエーリック様をお迎えにあがったのですわ」

「だからダメだって言ってんでしょ!」


 ぜんっぜん反省してないじゃない!と咆えるアイリスにもウェルシェはいつもの胡散臭いニコニコ顔。


「いえいえ、ちゃあんと反省しておりますわ」

「どこがよ!」

「エーリック様を連れ出すのをアイリス様が拒否なさるのは、要は人手の問題なのでございましょう?」

「それはそうだけど……」

「私、エーリック様の代わりをお連れしましたの」

「またニート侍みたいなのを連れて来たんじゃないでしょうね?」


 アイリスは疑りの眼差しをウェルシェに向けた。なんせウェルシェには前科がある。


「言っとくけど、この店はイケメン執事で成り立ってるの。誰でも良いってわけじゃないんだからね」

「まさかまさか。きちんとエーリック様に見合う代役をご用意しましたわ」

「ヒロインの私に不良物件を押し付けようとしたくせに」


 以前ウェルシェは良いお見合い話だと、ニート令息やらバツ2のおじいちゃんやらの釣書をアイリスに持ってきた事がある。


「お任せくださいませ。今度はアイリス様の要望にバッチリお応えしますわ」


 ウェルシェがパンパンと手を叩くと扉が開きカミラがじゃらじゃらと鎖を手にして入店してきた。


「何よ、うちが欲しいのはメイドじゃなくて――ッ!?」


 カミラはおもむろに鎖をクイッと引っ張る。すると遅れてドナドナされて入ってきた浅黒い肌のエキゾチックイケメンにアイリスは目を丸くした。


「トレヴィル様ぁ!?」

「や…やあ…」


 いつもの精彩を欠く疲れた表情でトレヴィルが無理にニコっと笑う。


「これならエーリック様を連れて行っても問題ありませんわよね?」

「ど、どういう事? だって、私も誘ったけどトレヴィル様は仲間と模擬店を出すからって断られて……」

「ムフッ、そこは誠意を持ってきちんと交渉(おねがい)をしましたわ。そしたらみなさん心良くトレヴィル殿下を送り出してくださいましたの」

強制説得(きょうはく)を交渉と言い張りやがりますか、このお嬢様は……」


 ドヤ顔のウェルシェの後ろでカミラはため息を漏らした。


「まさか、さっき言ってた道場破りって!」


 ふふんっと胸を張ってウェルシェが立てた親指をクイッと地に向けた。


殺死腕(コロシアム)に参戦して全員KOしましたわ……カミラさんが」


 妖精のように可憐なウェルシェが不敵な黒い笑いを浮かべ、その背後には無表情で鎖を持つカミラとその鎖に繋がれ死んだ魚のような目をしているトレヴィル。


 いったい何が起きたらこんなカオスな状況になるのか……アイリスの額からタラリと一滴の汗が流れ落ちた。

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― 新着の感想 ―
うーむ。 一方的な蹂躙は観客としてはちと面白みに欠ける……そんな戦いだったと見た。
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