ep6.第二村人?
声が聞こえた。
確実に。
───。(だれ?)
また聞こえた。
子供のような、老人のような。
無邪気さを覚える声である。
私は返事をした。
「──────。───、──────。」
そうだった、自分じゃ理解出来ないんだった。
何分ひとりきりだったもので声を出すことも無く、完全に忘れていた。
しかし相手はそれを聞き取れたようで。
────。────────。(しゃべれるの。まがいものなのに。)
確かにそう答えた。失礼な話である。
そもそも名を名乗れってンだ。
「────。──────
目の前に声の主が出てきた。
正しく目の前に。
────。──────。(ワタシはワタシ。アナタとはちがうワタシ)
ソレは光の玉のようでも、鳥のようでも、草のようでも、虫のようでもあり、そのどれでもなかった。
ここに来たばかりの私のように、輪郭がぼんやりとしていて、不定形の光そのもののようで、しかし幾重にも層が分かれているようで。高精度の望遠鏡で木星を見たような、そんな見た目であった。
存在しているのかすら、目の数cm前にいるのに判別がつかない。
──。─────?(あれ。きこえていない?)
慌てて返事をする。
「────。」
─────。───。(めのまえでやかましい。ひじょうしき)
どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。
なんなら非常識とまで言われてしまった。名を名乗られた以上非常識ポイントは私の方が高い。ここはせめて下手に刺激せず事情を説明して────。
────。───────。(なるほど。つよくかんがえて。)
強く考える?どういう事だろう?
これ以上あんな訳の分からない存在を刺激するのは不味い。
とにかく念じる!
聞こえろ!聞こえろ!聞こえろ!
───聞こえろ!
魔法(仮)と似た感覚と共に、音では無い声が放たれるのを感じる。
─────。(もうちょっとよわくしろ)
どうやら向こうにも聞こえたようだ。
そんな強くしろ弱くしろと言われても……
───あ〜テステース。
今度は良い気がする。
─────?(あてすてす?)
伝わって無さそうだが文句は言われなかったので無問題。
私は向こうに質問をしてみる。
───気がついたらここにいて、こんな体になっていまして。しかもここに来るまでの記憶も無くて。
───ここはどこで、アナタは何なのですか?
木星は少し考えこんでいるようだ。何となく見ているとそんな気がした。
─────、─────────。(ここはやまともり、わたしはやま)
今度は聞き取れるのに意味が分からない。
ああ、もう本当に面倒くさい。
私は頭を抱えた。この謎木星はさっきから何を言ってるんだ。視界いっぱいに見える木星が煩わしくて目を閉じてしまう。
───言ってる意味がよく分からないのですが……。
すると、目の前の木星が遠くに離れていき。
───███
聞き取れない言葉で何かを唱えた。
私は目を開けそれを見ると、次第に木星の輪郭がハッキリしていくのに気づいた。
あまりにも不思議なその景色を私はジッと見つめてしまう。
折り重なった球が変形し突き出し、その形を変えていくのを見た。
そうして訳の分からない光景が続いたあと、最後に、全身を緑や茶の羽で包まれた毛玉が残った。
そいつは口を開き、確かに言った。
「オマエは森の者を怒らせた。」