ep4.花
何日も経った気がする。
私は目を開き、そのまま自分の手を見つめた。
手を見つめたのだ。
あの地獄の炎の中、体の内と外の境界を痛みによって刻みつけられた結果、私は自分の形を体に教え込まれたのだ。
手の甲の辺りから下には大きく火傷の跡が広がっている。
私は、ここに来て始めて認識する私をただただ感じていた。まだ体の芯がチリチリと疼く。
寒っ。
そうだった、冷却を願い、私の周りは氷が張るほど冷えているのだ。
上体を起こし、周りの安全を認識した私は氷のベッドから、足を踏み出した。
周囲は更地であった。
木は形を残さない程に燃え、残すは炭の塊だけであった。地面は真っ黒になり、森の一部に異様な光景を残していた。
ここが山の中腹かつ、霧の夜だったのが幸いしたのだろう。
幸い山火事は見える景色全てを燃やし尽くす事は無く鎮火していたようだ。
私は、死体があったであろう場所まで歩いていった。
あの人はどんな人だったのだろうか。
装備は見るからに原始的だったが、どうしてこんなところまで来たのだろう。
周りは夜なのに灯りすら見えなかったから、相当遠くに拠点はあるんじゃないのか。
疑問は幾らでも湧く。
つけていた装備は全部燃えてしまったのだろうか。
せめてお墓だけでも作らないと、あまりにも申し訳ない。
色々なことを考えながら焼け跡を歩き回った。
何箇所か地面を掘り返したら、小動物のものらしき骨に紛れて一際大きな真っ白い塊が見つかった。
おそらくこれがそうなのだろう。
私は不謹慎にも綺麗だと思ってしまった。
ミイラ化したご遺体を見てあれだけ気分が悪くなったのに失礼なものだ。
ただ、炭の中から出てきた白は本当に美しいものであった。
鏃らしき黒い石や、二対の翠色の石も転がっていた。
この人は私には想像もつかない人生を送ってきたのだろう。
せめてもの贖罪と、私は土を掘り、骨を納め、石を積んだ。
この世界にもお墓の文化はあるのだろうが、私には知りようもないので記憶にある中で再現出来る限りやったつもりだ。
墓標の石には目覚めた時に転がってた白い石を使った。何故だか分からないけど顔の横に転がっていたのだ。
そうして一通りお墓を作った後、墓前で手を合わせた。
「─────、────。───────。」
相変わらず自分で言った言葉が認識出来なかったが、届いていると嬉しい。
そんな事を思いながら手を合わせていると、その隙間から光が出た。白に少し薄紫の混ざった、ちょうど私の手の様な光が。
その光に目が眩み、瞼を瞑る。
ふと祖父が死んだ時の事を思い出した。
誰かは分からないがみんな泣いていて、私も悲しくて。
その頃は死ぬということが分からなかったけど。
それでももう会えないと分かると涙が溢れて。
女の人が来た。女の人は泣いている私をあやす為に折り紙をした。
その人も泣いていた。
その人と一緒に私はユリの折り紙を作ったのだ。
この人にもそんな人が居たのだろうか。
目を開くと、目の前には白いラッパのような形をした花が咲いていた。
今度は何も奪わずに、人に与えることが出来た。
私のこの力は命を奪ってしまったけど、それでもこんなに綺麗なものの為に使えるならいい気がした。
────。