ep3.咎
私はひたすら謝罪と言い訳と恨み節を呟いていた。
結局何故ああなったのかは分からないけど、私が彼、もしくは彼女を殺したのだと確信した。
そう思ってしまったから、もう謝ることしか出来なかった。
辺りが暗くなってきた。
しかしそのまま蹲っている事は許されなかった。
もしかしたらここまでに仏さんを埋めようとしていれば、許されたのかもしれない。
視界の端にオレンジの光が揺らぐのを見る。
気づけば私は炎に囲まれていた。
森が燃えていたのだ。
ほとんど音もなく。
火元は松明だったのだろう。
主を殺された恨みか、はたまた拘束から解き放たれた開放感か。火は炎となり、炎はあっという間に私を取り囲み、そして呑み込まんとしていた。
それとももっと簡単で論理的な説明がある。
私が水球を出したせいで周りの植物が乾燥し、そこに火種が落ちたせいで燃え広がったのだ。
つまるところ因果応報である。
そう考えた私はこのように思っていた。
もういっそこの炎に焼き尽くされてしまおうか。
それが私の贖罪なんじゃないか。
それにこの地獄が悪い夢なのだとしたら、もしかしたら目覚めたら私は日常に戻れるのかも。
その間にも炎はより勢いを増し、業火となっていた。
黒い煙を吹き上げ膨れ上がっている。
私が通り抜けてきた薮は既に業火の一部だ。
もはや昼なのか夜なのかも分からないその光景を前に、無いはずの心臓は早鐘を打ち、無いはずの肌はジリジリと炙られ、無いはずの瞼はその光を直視するなと訴えかけてくる。
それでも私は、業火に呑み込まれるその瞬間までその場から動かないつもりだった。
煙が目に染みる。熱された気体とエアロゾルは私の表面をジワジワと刺激していく。
その痛みは次第に増していき
────ッ゛
炎の穂先が私を内から撫でた。
これまでに経験したことの無い体の内側が焼ける感覚。
耐えられる気がしなかった。
しかし既に逃げ道は無い。
私は覚悟を決め、比較的火が回ってないであろう火元の反対側目掛けて走った。
既に視界は煙に覆われ、目を瞑った方がマシな状態だった。
そして、炎の壁に突っ込んだ。
熱い!痛い!痛い!熱い!冷たい!冷たい!熱い!痛い!
あまりの痛みに転げる。
全身が炙られる。
叫ぶ。這いずる。
永遠にも思える時間が過ぎた。炎は形を変える度に私の体の中を暴力的に通り抜け、その度に私の芯を、魂を、脳髄を灼熱で貫き通していた。
痛みに耐えきれず全身をひたすら動かす。
そうしているうちに私は気を失った。
あ゛!
須臾にして私は激痛に叩き起され、またわけも分からずのたうち回り、そして意識を失った。
これを何十回繰り返しただろうか。
私はのたうち、イモムシのように這いずりながらこの状況を脱出しようとしていた。
何度も転げ、何度も叫び。
そうして、
ここは少し火の勢いが弱い気がする。
そんな場所を見つけた
私は生まれた余裕をフルで使い、痛みから逃れる術を探した。
その結果、この訳の分からない状況で唯一、確かと思えた奇跡にまた縋り着いた。
───冷えて。
ただそう念じた、心の底から助かりたかった。
そうすると、
パキッ!
目の前で地面が凍りついた。と、同時に私の周囲だけ炎が一瞬消え去った。
私は無我夢中で凍りついた地面に体を擦り付け、結露し始めた石を飲み、冷えた砂で顔を洗った。
ここは最初に水球が落ちた場所だろう。
4畳半程の氷の上が私の居場所であった。
そして、業火の目でもあった。
私は私の居場所でただ泣いていた。
自分が情けなくて、自分の罪が許せなくて、理不尽に耐えきれなくて。
炎はここまで迫って来ない。熱も感じない。
私はただただ泣き続けた。
そうしてそのまま泥のように眠った。