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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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89 政務顧問

ルアブロン 中央街区

旧ザロモン子爵家屋敷

第191歩兵大隊長 アイクマイアー少佐


 メーティス殿の報告は、辺境伯爵家が派遣した使者が戻らず、去就を明確にしていない都市がまだ存在する、という事だった。

(特命全権公使を付けて、統治の交代を知らしめようとする理由はそれか・・・)

 気まずそうな顔をしているメーティス殿を見ながら理解した。

「他にも返事がない貴族や街があるのですか?」

 ブリンクマン大佐殿がメーティス殿に尋ねた。

「いえ、この二カ所だけです。使者はケテリに伝えた後、東端に向かう予定になっていました。場所が遠いので時間は掛かると思っていたのですが、余りにも遅すぎます。どこかで足止めされているか、不慮の事態に見舞われたかと思われます」

 メーティス殿の答えにブリンクマン大佐殿とシュラーガー中佐殿は厳しい顔つきのまま腕を組んで黙り込んでしまった。向かい側に座っているアンゲリアス殿も同じだ。

「もしやすると、ザロモン子爵から何らかの働きかけがあったのかもしれません」

 ブリンクマン大佐殿が黙ったまま頷いた。

「・・・いずれにせよ、救出作戦は実行されなくてはなりません、辺境伯爵家側の人選と護衛の規模をお知らせください。こちらも準備を進めます」

「分かりました、決まり次第お知らせします」

 メーティス殿が安堵の混じった表情で答えた。

「では、続いて東街区の正常化作戦についてです」

 渋い表情のままブリンクマン大佐殿が議題を次に進めた。


 ブリンクマン大佐殿に促されて、正常化作戦の指揮官であるコールローザー警察大尉が立ち上がった。

「それでは、ご説明させて頂きます・・・・・・」

 正常化作戦も2段階になっていて、まずは中央街区と東街区を結ぶ橋と東門に検問所を設けて交通を制限する。次に市内に布告を出して統治者が変わった事。住民の登録を行う事。新たな規則を施行する事。違反者は厳罰に処す事。を知らしめる。

「まずは、緩やかに始めます。登録作業は区画や通りごとに実施しますが、急ぎません。その代わりに可能な限り、内容を正確にしたいと思っています。家族構成と性別、氏名、年齢、職業。世帯に番号を割り当てて、家族や師弟は枝番を付けます」

「新しい規則の内容はどのような? 他には何もしないのですか?」

 メーティス殿が驚いて聞き返した。

「新しい規則は極めて単純で分かりやすい内容にします。人を騙すな、傷つけるな、殺すな。人の物を壊すな、盗むな。あとは、登録が無ければ東街区には居住できない。こんなところです」

「登録以外は、現在の領内法令とさほど変わらない内容です。犯罪組織の捜索や追捕は行わないのですか?」

「今のところは、と申し上げておきます。そう言った類いの連中は、人の中に紛れ込むものです。例え街を焼き払ったとしても、人が居る限り完全に駆逐する事はできないと考えます。真っ当な者だけを登録して残れる環境にすれば、厄介者は居づらくなって自分から出て行くでしょう。もちろん市内の見回りや取締りも実施して、犯罪者を発見した場合は厳正に対処します。特に抵抗する者と我々を買収しようとした者は、その場で処刑します」

 コールローザー警察大尉の言葉に室内は静まりかえったが、シュラーガー中佐殿とアンゲリアス殿だけは小さく頷いていた。

「第2段階として、登録が終了した後に抜き打ちで登録調査を実施します。実際の居住者と登録内容が合致していなければ、罰金、追放、場合によっては処刑も含めた刑罰を科します」

 コールローザー警察大尉の説明に、シュラーガー中佐殿とアンゲリアス殿が大きく頷いていた。

「先程仰った規則には、どのように入れるのでしょうか?」

 メーティス殿は新しい規則が気になっているようだった。

「登録が無ければ居住できない。この項目の付則として、登録を怠った場合、故意に登録しなかった場合、登録されていない者を匿った場合、と言う形で付け加え、これに罰則を明記します」

 コールローザー警察大尉の説明に、辺境伯爵家側の3人が頷いた。

「実施にあたって無用な諍いを避けるため、しばらくの間は辺境伯爵家からの増援を頂きたいと言う事と、我々は言葉が通じませんので、会話が可能になる魔法具なる物の支給をお願いしたいのです」

 コールローザー警察大尉が言葉を切ると、アンゲリアス殿とロイストン殿が視線を交わした後、アンゲリアス殿が答えた。

「その件は承知しました、衛士隊から人数を出しましょう。魔法具についても問題ありません」

 アンゲリアス殿の最後の方の言葉に我々が反応すると、メーティス殿が鞄から小さな革袋を幾つか取り出し、一つの口を開いて中から指輪を取り出した。

「言語の魔法を掛けてあります。辺境伯爵家の宝物庫にあった、使えそうな魔法具を全部持ってきました。30個ほどありますのでお使いください」

 ブリンクマン大佐殿が立ち上がって礼を言っていた。実際これほど有り難い援助はないだろう。

 この後は、メーティス殿とシュラーガー中佐殿以下救出作戦に従事する者達と、アンゲリアス殿とコールローザー警察大尉他の正常化作戦に従事する者達に別れて協議することになった。


 シュラーガー中佐殿はメーティス殿から提供された資料の中から地図を出して、ブリンクマン大佐殿から中佐殿専用にと手渡された軍用地図と見比べていた。当然、メーティス殿が脇から覗き込んでいて、とても驚いていた。

 シュラーガー中佐殿はそんなメーティス殿の様子を気にする風でも無く、東兵営から東端までの距離と街道の道幅と路面の状況を気にしていた。

「先程のメーティス殿のお話ですと、このケテリと言う街を掌握する事が、第1目標になる訳ですな」

 シュラーガー中佐殿は地図上の一点、東端までの行程のほぼ中間地点に記された街の上に人差し指を置いた。

「え、ええ。そのとおりです」

「見ての通り、ここは東端までの補給路、その中継地点として絶対に確保しなければなりません。代官が反逆の意思を表した際は、迅速に実力を行使して粉砕します」

「はい」

 気迫のこもったシュラーガー中佐殿の言葉に、メーティス殿は返事をするのが精一杯のようだった。

「とすると、先遣隊は考えていたよりも、戦力を持たせないといかんな。そもそも戦闘団も増強しなければ・・・」

 シュラーガー中佐殿は腕を組んで何やら考え込んでいた。

 救出作戦はシュラーガー中佐殿の戦闘団が担当し、俺の戦闘団は師団司令部の丘で予備として、守備と待機になる予定になっていた。

 俺とシュラーガー中佐殿の戦闘団は、1個増強大隊ぐらいの兵力しかない。その兵力で80キロ先の東端まで補給路を確保し、さらにその先へと進出して孤立している友軍を救出するのが作戦の骨子だ。それでも、その80キロが味方の勢力圏であれば、道路が使えるかどうかを気にするだけでよかったのだが、今は状況が変わって敵対勢力の勢力圏である可能性が高くなっていた。

(しかも途中にある主要な街が敵対している可能性が高いときた、それなら制圧したとしても、守備隊を残さないと安心できそうにない。ブリンクマン大佐殿が辺境伯爵家の統治を疑ったのは正解だったんだな)

 シュラーガー中佐殿は腕組みを解いて、メーティス殿と何やら話し合っていた。それが終わると、中佐殿に呼ばれた。

「聞いての通り私の戦闘団を増強する必要がある。予備部隊他の部隊を指揮下に入れるよう師団司令部に要請するつもりだ」

「はい中佐殿。私の部隊から歩兵中隊を抜いてくださってもかまいません」

「ありがとう少佐。それは最後の手段にするつもりだ」

 微笑むシュラーガー中佐殿に俺も微笑みを返しておいた。

 一方のメーティス殿は、アンゲリアス殿に声を掛けなにやら相談事をしていた。おそらく辺境伯爵家から派遣できる兵数をひねり出しているのだろう。

(兵を増やせば補給に負担が掛かるからな。あっちを立てればこっちが立たずだ・・・、うちの補給大隊も大忙しだろう)

 今回は出番が無さそうな俺としては、戦闘団の所属部隊の把握と訓練計画の策定が主な仕事になりそうだった。

「アイクマイアー少佐、あとひとつ気になっていることがあるんだ」

 自分の指揮下になる部隊のことを考えていると、シュラーガー中佐殿が思い出したように話を振ってきた。

「何でしょうか?」

「実は・・・」




ルアブロン 中央街区

旧ザロモン子爵家屋敷

第91歩兵師団長代理 ブリンクマン大佐


 会議の参加者達が作戦ごとに別れた後、残ったのは私と辺境伯爵家の政務顧問ウェルフネウス殿だった。

 ウェルフネウス殿は広げられたままの地図に見入っていた顔をあげた。

「失礼じゃが、これはどうやって作られたのか、教えて頂けまいか」

「ええ、それはその、この地図は軍事機密に指定されておりまして、私の一存では詳しくお話する事はできないのです」

「んん、軍務に係わる秘密という事ですな。当然の事じゃな、とんだ失礼を致した。いや、まるで空から見渡したかのような出来栄えなので、つい口に出てしもうた」

「どうぞお気になさらず、ハハハ・・・」

(まるで作り方を知っているかのようだ。余所から来た我々が自分達より精度の高い地図を持っていれば当然だが・・・)

 そう思いながら、向かい側で視線を地図に戻したウェルフネウス殿を視界の隅に入れた。

(政務顧問だと言うが、事務を扱っている文官ではなさそうだ。知的な雰囲気はあるのでご意見番のような地位なのかな?)

 そんな事を考えていると、机上に鞄と共に置かれた魔道具が入った革袋が目に入った。それを引き寄せて中を改めると、指輪やペンダントの魔法具が詰まっていた。

「魔法具のご援助に感謝します。言葉の問題は一番支障になっておりましたので、非常に助かります」

 ウェルフネウス殿に礼を言うと、微笑みながら答えた。

「いやいや、我が当主を救って頂いた事に比べれば、大した事はありませんわい。そのうえお手を煩わせる事ばかりで、お恥ずかしいばかりじゃ」

「こちらこそ、過大なお願いを受け入れて頂いていますので」

(それなりにお歳を召しているようだが、随分と古風な言葉遣いをされるのだな・・・)

 などと思っていると、などと思っていると、ウェルフネウス殿が声を落として続けた。

「それよりも、先程は失礼致した。何分にも、あのクリストナーと同じ異邦人と聞いていたのでな、つい好奇心が先走ってしまったわい」

「・・・いえ、我々の将軍閣下から許可が下りれば、お教えできるかもしれませんので、その時に・・・」

 我々の素性は隠しようがなかったので、異邦人という言葉で相手が納得するなら使い、納得しなければ軍事機密で押し通す事にしてあった。戦車やトラックで走り回っておいて誤魔化せる訳がないし、かと言って説明するのも煩わしい。

「おお、それは楽しみじゃな。ところで、あちらの武官の方は魔法を使われるようだが、貴軍にも魔法使いがいらっしゃるのじゃろうか?」

 ウェルフネウス殿は右手で控えめにシュラーガー中佐を指し示しながら、さらに声を落として言った。

「・・・・・・いま、なんと仰いましたか?」

「ほれ、あの、うちのアンゲリアスによく似た御仁じゃ。魔法具無しで[言語]の魔法を使っておられるのだが。こうしてみると、他の方々も魔力をお持ちであるな、[会話]の魔法ぐらいは使えるのではないのかのう?」

(ん?・・・、シュラーガー中佐が魔法を使える、いや使っている、と言う事なのか?)

「貴官はご存じなかったのかな。いやこれは余計な事を言ってしまったかのう」

 極上の微笑みを浮かべているウェルフネウス殿に視線を合わせたまま、私は思考が停止してしまった。


 私とウェルフネウス殿を余所に話合いは進み、正常化作戦はおおよその参加兵力と配置が決まった。一方の救出作戦は、作戦の進捗計画は定まったが先遣隊の規模を見直す必要が生じたため、補給体制も含めて修正する事になった。

 私は救出に参加する辺境伯爵家からの兵力の調整と、それに基づく補給計画の策定を急ぐ事を申し合わせて会議を締めた。


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