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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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86/90

86 将校

ルアブロン東方郊外

オーレンベアク辺境伯爵家 東兵営

戦闘団B 指揮官 シュラーガー中佐


 私は予定時間の20分前に東兵営に到着した。装甲車から降りると、ディトマー少尉と第4班指揮官のシュランク少尉、それとガプケ殿が出迎えた。

「中佐殿、異常なしであります」カツン!

「我々も準備万端です」

 ディトマー少尉の報告に続いて、ガプケ殿が満面の笑みで報告した。予め無線で視察団の来訪をディトマー少尉に連絡し、諸々を指示しておいたのだが遺漏なく済んだようだ。ガプケ殿以下第5騎士団には兵営正門の警備を命じていた。

「よろしい。一緒に補給も来るので、受け入れも含めて抜かりなく対応するように。視察団が到着した際にガプケ殿を紹介するので、承知しておいて貰いたい」

「はい、中佐殿!」カツン!!

「承知致しました!」

 私が3名に向かって言うと、彼等は即時反応した。


 しばらくして、車列が近付いて来るのが見えてきた。装甲車を先頭に兵員車が何台か続き、その後ろにはトラックが列を成していた。一緒に正門にいたガプケ殿以下第5騎士団の面々は、両眼を見開いて濛々と砂埃を巻き上げて進んでくる車両群を見つめていた。


「お待ちしておりました、大佐殿」

 小型兵員車から降りたブリンクマン大佐殿を敬礼と共に出迎えた。

「お待たせしましたシュラーガー中佐。ここを拠点として使用する事が決まりました」

 ブリンクマン大佐殿は開口一番にそう言った。

「ここを拠点に東方への救出作戦と東街区の正常化を進めます」

 そう続けたブリンクマン大佐殿の顔は、精気が漲っていると言うよりもはしゃいでいるように見えた。

「了解しました大佐殿」

 私が冷静な口調で返すと、ブリンクマン大佐殿は我に返ったように一瞬の間をおいて佇まい改めた。

 その後はいつもどおりの落ち着いた口調で大まかな計画の説明が成され、同道して来たテッタウ少佐とライネッケ少佐、リュック少佐と挨拶を交わした。

「補給路ですか、確かにあの山を迂回せずに済むのは有り難いですな」

「ええ、用地買収もスムーズにいきますよ」

 テッタウ少佐の返しに私がニヤリとすると、テッタウ少佐も同じ表情で答えた。

 視察団との挨拶が終わると、私は彼等にガプケ殿を紹介した。

「オーレンベアク辺境伯爵家配下、騎士トマシュ・ガプケと申します、どうぞお見知りおきを」

 ガプケ殿が敬礼しながら挨拶をすると、視察団の将校達は直立不動を執って敬礼を返した。ガプケ殿はその風貌から、幾多の戦場を掻い潜ってきたのかが一目瞭然だった。

(しかも、我々の戦争のような離れた場所からの撃ち合いでは無く、剣と剣の接近戦、白兵戦が主だから身に備えた気迫が違う)

 少し離れた所にいる車両の乗員達でさえも注目していて、腕を組んだり車両に寄りかかったりしている者はいなかった。


 帝国軍の勲章に白兵戦闘章と言う勲章がある。一定期間白兵戦に参加したと認められた将兵に授与され、他の勲章と同じく銅章、銀章、金章の三段階あるのだが、白兵戦闘章は格が違う。交差した銃剣を中心に左右に延びた樫の葉がデザインされたそれを見ただけで、大抵の将兵は直立不動を執る。最高位である白兵戦闘章金章は、陸軍元帥若しくは代理者たる陸軍大将以上の将官が授けるよう定められているため、受賞者が下位の階級であっても、上位階級の者が先に敬礼するのが軍内部の慣例になっていた。


 ガプケ殿が白兵戦闘章を授与されている訳はないが、その価値がある兵士である事は兵士であれば判る。そして、そのような兵士に敬意を払えない者が、兵士であると言えるだろうか。

(良いことだ)

 私はこの場にいる全ての将兵が、兵士としての態度を示していることに満足した。

(自分達がこの世界の人々と比べて特段優れている訳では無い、単に便利な道具を持っているだけ、と言う事を思い知るのは良いことだ。己の身の程を知らずに増長するのは猿にも等しい。そのような存在は許容できん・・)

 軍に限らずいかなる訓練を施したとしても、一個人の性格や価値観はそう簡単には変えられない。自分達が持っている技術が優れている、それだけで優越感に浸り、現地の人々を見下す将兵は必ずいるだろう。そのような考えが蔓延ってはならないし、改めさせなくてはならない。視察団の将校達が模範を示した事で、その為の初手は成功したと言えるだろう。

(彼等なら大丈夫だと思っていた)

 敬礼を終えた将校達と握手を交わすガプケ殿を見ながら、

(これからは、彼等と肩を並べる事になるのだからな)

 私は現地人の編入によって生じるであろう事象について不安を覚えていたのだが、目の前の情景によって幾分払拭された気がした。


 その後は私とブリンクマン大佐殿は事務棟へ、補給関係の将兵は兵営の全体と補給施設と補給路開設場所に関する視察に別れた。

「先程は失礼しました」

 机を挟んで顔を合せると、ブリンクマン大佐殿が口を開いた。

「いえ、何の問題もありません。会議が紛糾しましたか?」

 私が略帽を脱いで机上に置くと、ブリンクマン大佐殿も略帽を脱いだ。

「紛糾というものではありません。慎重になっている、と言う程度です」

 私は唇を結びながら頷いた。

「辺境伯爵家で、何か変わったことはありませんでしたか?」

「いえ、何も。何か問題でも?」

 私が尋ねると、ブリンクマン大佐殿が室内を見回した後に低い声で話し始めたのは、辺境伯爵家の統治が想像していたよりも脆弱であり、それ故に今までの成果を失う可能性を危惧している、と言う事だった。

 我々が居た世界と比べて、この世界の統治は権威に寄るところが大きい。この世界での権威とは、目に見える力、すなわち軍事力とそれを支える財力という事になる。

王家の権威が及びにくい辺境では、その傾向はより強まるだろう。

(つまり辺境伯爵家だけでなく、この世界の政治体制は一旦バランスが崩れると非常に脆いと言う事だ。今回の辺境伯爵家の場合は、東征の失敗により軍事力を失い、有力家臣である親族につけ込まれた為に改易した事によって、これ以上ないくらい弱体化してしまった。この状況を他の配下貴族や隣接する他家の貴族、中央の王家がどう捉えて、どう動くのかを考えてみると大佐の危惧も当然だ。だが、ザロモン子爵家の騎士団を無傷で支配下においたし、カアンの街を速やかに接収できれば幾分持ち直した事になりそうだな。・・他の配下貴族からの返答が遅いのは、そこを見極めているからか?)

 私は腕組みをして考え込んでしまった。

「辺境伯爵家から配下貴族の動向について、連絡はありましたか?」

「いえ、まだ何も」

私の返答にブリンクマン大佐殿は沈黙した。

「郵便事情もあるとは思いますが、辺境伯爵家がザロモン子爵領を接収して支配を確立できるかどうか、様子を窺っているのではないでしょうか?」

「なるほど、そういう事か・・」

 私の言葉にブリンクマン大佐殿が目を細めて呟いた。このままでは配下貴族、つまり家臣が主家の隙を窺っている状態が続いてしまうことになり、統治が安定しているとは言い難い。

「辺境伯爵家を立て直すには、救出作戦の成功が必要不可欠という事ですね、シュラーガー中佐」

「はい、大佐殿」

 ブリンクマン大佐殿の言葉に私は頷いた。


 私はブリンクマン大佐殿が机上に広げた地図と書類を前に、最新の情報と合せて現在の情勢を整理するところから始めた。

 野戦航空中隊による航空偵察は継続して行われていて、辺境伯爵家から統治委託を受けた地域(領域と呼称される事になった)の地形地物に関しては、上空からと言う制約はあるものの情報収集が進んでいた。

 その最新情報によると、この東兵営から辺境伯爵家の支配が及んでいるとされる領地の東端までは、南北を山脈に挟まれた渓谷のような地形が続いている。幅は広いところで約10キロメートル、東端までの距離は約80キロメートルある。東端には防塞が築かれていて、部隊が駐屯して守備に就いている。東兵営前から延びる街道が東端まで繋がっていて、その中間に中規模の街がひとつ、東端の防塞近くに小規模の街がひとつ、その他には街道に沿って、あるいはやや離れた場所に大小の集落が30余り確認できている。集落の周囲には耕作地や牧場があり、中間にある街の周辺には鉱山らしき施設も複数確認されていた。

 東端の先、正確には北東方に東方と呼ばれる未開の地が広がっていて、東端まで繋がっていた整備された街道は途切れ、人が通った跡が筋のように確認できるだけらしい。その東方地域での航空偵察により、辺境伯爵家の東征軍の拠点では無いかと思われる、砦のような場所が3カ所特定されていた。

 その他の東方地域の情報として、地上では多数の生物が活発に活動していて、拠点に到達するまでに接触は避けられそうに無いらしい。

「地上では・・?」

 ブリンクマン大佐殿が言った報告の内容に、引っかかるところがあった。

「ええ、上空にも生物がいるそうです。その・・、竜のような生物が・・」

 私は頭を抱えたくなってしまった。

「頻度は多くありませんが、遠方を飛んでいる姿を確認しているそうです。航空隊は不測の事態を避けるため、発見次第離脱しているので正確な情報はありません」

「それが正解ですな、火でも吐かれて撃墜されたら取り返しが付きません」

「はい。そのため東方地域における航空偵察は、限定的になっています」

 私は頷くと大きく息を吐いた。

「現地の情報がもっと必要です、辺境伯爵家からオブザーバーを出して貰いましょう。それから領域の人口や徴税に関する資料があれば、補給に役立つと思います。救出部隊は変則編成にならざるを得ませんので、辺境伯爵家とアイクマイアー少佐も交えて打ち合わせる必要があります」

「分かりました、私から司令部と辺境伯爵家に要請しましょう」

「よろしくお願いします。それから東街区の正常化はどうされますか?」

 私がもう一つの作戦について尋ねると

「そちらはコールローザー大尉に下命してありまして、すでにフィルカザーム大尉と打ち合わせているはずです」

「なるほど、その組み合わせなら心配要りませんな」

 私はフィルカザーム大尉の仕事ぶりを思い出していた。

「ええ。正常化と言っても、犯罪組織を完全に駆逐するのは難しいと思っています。私としては統治者が変わった事と、その方針を知らしめる事ができればいいと考えていますが、コールローザー大尉は犯罪組織の存在が許せないようで、徹底的にやるようです」

「さもありなん、ですな」

 私とブリンクマン大佐殿は苦笑いを交えたのだった。


 その後、無線で師団司令部と屋敷に連絡を取って調整した結果、師団司令部からアイクマイアー少佐とコールローザー警察大尉、フィルカザーム大尉が、辺境伯爵家からはメーティス殿が来ることになり、明日午前10時に屋敷に集まることに決まった。

 それを受けて、ブリンクマン大佐殿と私も屋敷に移動することになった。

 その前に明日予定されている、奴隷達を東兵営に移送させる作業を部下に引き継がなくてはならない。その事をブリンクマン大佐殿に説明した後、ディトマー少尉を呼んで受け入れ準備を確認すると、ガプケ殿の協力を得て完了しているとの答えだった。

「よろしい、少尉。移送の指揮をフレーリヒ少尉に執らせるので、受け入れの指揮は君に任せる。すでに話したとおり、シュランク少尉と協力してやってくれ」

 東兵営に移送した奴隷達は、入浴と着替えと食事を与えた後は兵舎に収容して何日間か休ませ、その間に運用について決定する予定だった。

「はい、中佐殿!」カツン!

 私は答礼しながら、この若い少尉を見た。

 ディトマー少尉とシュランク少尉は、大隊が新編成された際に補充として配属されてきた将校達の中の一人だった。まだ若く実戦経験は無いが、見所があるのは承知しているし、足りないところは大隊の下士官達が補う事になっている。

(装甲兵将校として実戦部隊に配属されたと思ったら、民政のような仕事だからな。気の毒とは思うがやむを得ん・・・)


 ディトマー少尉が退出した後、私はブリンクマン大佐殿に向き直った。

「奴隷の扱いについてですが、兵営内の作業を割り振る予定です。それとは別に戦闘に従事できる者を集めて、使ってみようと思っています」

「雇用した傭兵団に組み込むのですか?」

「あれは既に部隊として完結しているので、いきなり編入しても良い結果は望めません。戦闘職に従事していた者、騎士、従士、傭兵だった者の中から志願者を募って、独立部隊として運用しながら世界の習慣や戦術を学んでみたいのです」

「分かりました、運用の一切について許可します。が、報告書の提出が条件です」

「了解しました、大佐殿」

 私は敬礼と共に一段と将校らしくなったブリンクマン大佐殿に頼もしさを感じていた。


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