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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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84 判断

将軍の丘 第91歩兵師団司令部

師団長 ホーフェンベルグ中将


「さて、軍政司令部の開設場所と、師団司令部を移転させるかどうかだが」

 人員補充の方針が決まると、私は議題を切り替えた。

「ブリンクマン大佐殿、借り受けた軍事施設というのは、どの位の広さなのでしょうか?」

 ヴァグナー中佐の質問にブリンクマン大佐が答えた。

「あちらの説明によると2,000名を収容可能だそうです。隊庭と練兵場、事務棟、兵舎、食堂、浴室等、必要な設備は一通り備えています」

「2,000ですか!」

 ヴァグナー中佐が驚いて声を上げたが、私も内心驚いた。

(それほどの施設を建設できるのか、辺境伯爵家は財政に余裕があるようだな・・)

「正規の騎士団2個と、教育部隊としての騎士団、加えて応援部隊も収容できるように作られたそうです。即時使用可能です」

「位置関係はどうなっているのかね?」

 私がブリンクマン大佐に尋ねてみると、大佐は姿勢を正して私に向き直った。

「はい、師団長閣下。ルアブロンから東へ15キロメートルほどです。東へ延びる街道から少し入りますが、道路は良く整備されていてルアブロンとの連絡は良好です」

 ブリンクマン大佐の答えに私は頷き、他の幹部将校達は頷いたり腕を組んだりしてそれぞれ反応していた。

「ですので、兵営を拠点とすれば東街区での作戦にも、東方への救出作戦にも都合が良い立地です」

 私は目の前の机上に広げてある地図に目を落としながら

「ルアブロンとの距離で考えると軍政司令部を置くには丁度良さそうだが、ここと補給処からは距離があるな」

 私の言葉に皆の顔つきは一層厳しくなった。そこへテッタウ少佐が発言を求めた。

「大佐殿、サランタンの近郊に使用されていない砦のようなものがあるのですが、そちらは話がありませんでしたか?」

「ええ、そちらはありませんでした。兵営も同盟締結前の特別措置という形でしたので」

「なるほど・・」

 私は地図を広げて、テッタウ少佐が言った砦跡の位置を確認してみると、サランタンの東南東にその記載があった。

「軍政司令部についての会議の際に、設置場所の候補としてあがったのです。直接統治するサランタンと、街道から近いので南北どちらにも便が良く、ここからもそれほど離れていませんので、警備にも都合が良さそうだと」

「なるほど、確かに・・」

 ブリンクマン大佐が同じく地図を見ながら呟いた。

(補給処、燃料集積場、師団司令部、軍政司令部・・。この4カ所を守る兵力が足りないのだ。燃料集積場は、補給処の警備に当たっている海軍地上部隊が警戒しているが、車両で外周の一部を見て回るのが精一杯で“守っている”とは言い難いのが実情だ。せめて師団司令部と軍政司令部は同じ場所に置きたいところだ)

 しばし沈黙の後、ブリンクマン大佐が口を開いた。

「先程も申し上げたとおり、今後の行動予定としてはルアブロン東街区の対処と、東方で孤立している辺境伯軍の救出作戦が最優先となります、それを考えると、東兵営は拠点として最適なのは間違いありません。兵営内若しくは近隣に補給物資を集積して拠点化するべきだと考えます」

(確かにそうだ。ブリンクマン大佐が地図上に指し示した兵営の位置は理想的だ。兵営の直近を通っている街道も、ルアブロンから兵営を経由して北東へ、つまり辺境伯軍が孤立している東方へ通じる唯一の道なのだ。これ以上の立地は無い、しかも即時使用可能だという。だが問題点もある、補給だ)

「大佐殿、補給は如何しますか」

 テッタウ少佐がずばりど真ん中の質問をぶつけてきた。

「問題はそこです。補給処からここまでは道路が通っていますが、その先がありません」

 ブリンクマン大佐は一旦言葉を切って、再び続けた。

「ですが、ここから南南東への延長線上に兵営は位置します。この直線上に補給路を開設できれば、兵営までの距離を短縮できます」

 ブリンクマン大佐の発言にヴァグナー中佐とテッタウ少佐が顔を見合わせていた。

(たしかに、既存の道路では西回りでルアブロン直近まで南下して、そこから北東へ上がっていく進路になる。ここから直線ならば兵営の北北東近辺に到達できる。おそらく西回りの半分ほどの距離で兵営まで行けるだろう。しかし・・)

 私が憂慮するところを、テッタウ少佐が追撃の言葉として容赦なく放った。

「地図を見ると兵営の北北東辺りに繋がりますが、そこは森になっています」

「切り開くしかありません。補給路が完成するまでは既存の道路で補給を行います」

 ブリンクマン大佐は即答した。

「投入できる労力は全て補給路の構築に投入します」

 大佐の言葉にテッタウ少佐は息をひとつ吐いた。しばしの沈黙の後

「辺境伯家の安定なくしてこの地域の安定は実現しません、辺境伯家の権威を裏打ちするものは即ち軍事力です。これは我々がいた世界よりもさらに直接的な意味があります。東で危機が発生したにもかかわらず、辺境伯家は北と西に配備している兵力を動かせませんでした。一刻も早く孤立している辺境伯軍を救出し、軍事的な空白を埋めなければ次の災いがやってくるだけです」

 ブリンクマン大佐の言葉に皆は耳を傾けていた。何も言わず、真っ直ぐ大佐を見ていた。

 ブリンクマン大佐の言葉を聞き終えて、私は決断を下す事にした。

「諸君、ブリンクマン大佐の計画を採用する。テッタウ少佐、補給路構築の指揮を君に命じる」

「了解致しました、師団長閣下」

「ヴァグナー中佐、君には軍政司令部の立ち上げ作業を命じる」

「はい、閣下」

「軍政司令部は東兵舎に設置する。テッタウ少佐、ヴァグナー中佐が軍政司令部の作業に従事している間は、君が兵站本部長代理だ」

「了解であります、閣下」

「ブリンクマン大佐、ご苦労だが君は兵営に戻ってシュラーガー中佐と救出作戦と東街区の正常化作戦を詰めてくれ給え、それと現地人部隊の件もだ。ライネッケ少佐は全体の補給計画だ」

「了解致しました、師団長閣下」

 2人が同時に答えた。

「師団長閣下、よろしいでしょうか」

 テッタウ少佐が発言を求めてきたので許可すると

「補給路の構築に鉄道敷設を含んでおきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「鉄道?」

 テッタウ少佐に視線が集まった。

「はい、時間と労力が掛かりすぎますので、あくまで計画のみです。道路と隣接する形で敷設できるかどうか計画だけ進めておきたいのです」

「鉄道を敷設できる当てがあるのかね、ヴァグナー中佐?」

「はい、閣下。実は・・・」

 ヴァグナー中佐によると、燃料集積場の全体が未だに把握し切れていないので、テッタウ少佐の管理部に命じて調査班を出して調べさせていたのだが、退避線から北西に進んだ所で大量の鉄道資材と建設機械を発見したのだそうだ。共和国軍は、列車が放置されていた鉄道の本線から補給処まで支線を敷こうとしていたらしい。

「作業は始まっておりまして、本線から分岐した線路上にレールを敷設する工作車と牽引する小型のディーゼル機関車が放置されていました。その他にもブルドーザーや油圧ショベル、ロードローラー等の建設機械とレールや枕木、バラストと呼ばれる砂利、信号機まであるとの報告です」

 私も含め、皆があっけにとられていた。

「それで、敷設は可能かね?」

「技術者もいますので不可能ではありませんが、測量から始まって基礎固めやレールの敷設にはかなりの時間がかかります。ただ、今回発見したのはディーゼル機関車ですので、レールさえ敷いてしまえばそれ以外の設備は最小限で済みますが・・・」

「ふむ、後は荷役に使うプラットホームぐらいかね」

「はい、閣下。ただ、測量してみないとはっきりとは言えませんが、地図で見る限りでは距離的に鉄道を敷く労力と見合うかどうか精査が必要です」

「私としては、期間が長期になると予想しておりますので、鉄道を敷く意味はあると考えております」

 ヴァグナー中佐の後に続いてテッタウ少佐が発言した。

「分かった、鉄道敷設の可能性と資材、労力、時間の予想だけだ。補給道路建設に全力を尽くし給え」

「はい、閣下」

「野戦部隊以外で抽出可能な兵員と機材を最大限使って進めるように。急ぎの仕事だが宜しく頼む」

「了解致しました、師団長閣下!!!!」

 これをもって会議を終了とした。


 会議が終わった後、ブリンクマン大佐を私室に誘った。当番兵が持ってきたコーヒーを前に、小さなテーブルに向かい合って座った。

「とっておきの豆だ、冷めないうちに味わってくれ」

「はい、閣下。頂きます」

 揃ってコーヒーカップを取り、香りと一口の味わいを楽しんだ。

「疲れていないかね」

 しばし沈黙の後、ブリンクマン大佐の様子を伺ってみた。

「大丈夫です、閣下」

「そうか、それにしては急いているように見えたが」

 会議中に感じたことを伝えてみた。

「・・・・・・・」

「何か不安材料があるのかね?」

「・・思っていた以上に辺境伯爵家の統治は不安定であり、今回の件でさらに加速したと考えています」

 沈黙の後、ブリンクマン大佐は口を開いた。私は何も言わず頷いた。

「本来助力を得られるはずだった、有力な家臣を改易した訳だからな。今後は、北と西でも変化があるかもしれない」

「はい。今回の件で辺境伯爵家の威信と軍事力は、大いに低下しました。寄子や配下貴族から離反する者や、敵対勢力と結ぶ者が現れるかもしれません。そうなった場合、辺境伯爵家の統治が崩壊した場合、それを中央政府が知れば辺境伯爵家の改易は免れないかと」

「うむ、そうだな」

「我々がこちらに来てから、全て上手くいっています。作戦“雷”はその最たる例です。我々は望み得る最上を手に入れました。しかし、辺境伯爵家が改易になれば全て白紙です。我々の立場は一気に暗転して、より厳しいものになるでしょう」

 厳しい表情で予言めいた言葉を発するブリンクマン大佐を見て、少なからず驚いた。

「・・・・・」

「何の確証もありませんが、ここで立ち止まったり、歩みを緩めたりするべきではない、そう思えてならないのです」

 ブリンクマン大佐は、目の前のコーヒーカップを捉えたまま黙ってしまった。

「分かった。正常化と救出作戦を進め給え」

「閣下・・」

 顔を上げたブリンクマン大佐の眼を捉えて続けた。

「君は前線指揮官として作戦を統括してきた。開始から終了までの全体を見渡し、辺境伯爵家の要人達とも接触した。それを踏まえた上での判断だ、私は信じるよ」

「ありがとうございます、師団長閣下」

「・・・大佐、今後は隣接する貴族だけでなく、王都と周辺諸国の情報収集も必要だな。君が言ったとおり、辺境伯爵家が弱体化しているこの時にちょっかいを出してくる貴族や国がいるとしたら、王国の統治も揺らいでいる可能性がある」

「っ!・・。ハイン大尉に下命しておきます」

「うむ。それから、君が無理をしてはいかん。必ず休憩を取ることだ、体調管理には万全を期し給え、命令だ」

「了解致しました、師団長閣下!」カツン!

 ブリンクマン大佐は立ち上がると、直立不動を執って踵を打ち合わせた。

 いつもと変わらぬ声と動作に私は安堵した。



 将軍の丘 第91歩兵師団司令部

 兵站本部管理部長 テッタウ少佐


 小型兵員車にヴァグナー中佐とライネッケ少佐が乗り込み、俺の運転で師団司令部を後にした。車が森に入ると、ヴァグナー中佐が話し掛けてきた。

「随分と挑発的だったじゃないか」

「そんなんじゃありませんよ」

 笑いながら中佐の考えを否定した。

「ただ、試しはしましたがね」

「同じだろう」

 ヴァグナー中佐が笑いながら言った。

「やけにごり押し気味でしたから、何かあると思いましてね」

「確かに、いつになく強気というか、そんな言い方だったな」

「ええ、結局押し通しましたから、何か理由はあるんでしょうな」

「次の災いって言ってたな。辺境伯家が弱っているのは分かるが」

「それだと思います。もしかしたら、それが深刻なんじゃありませんか?」

「貴族が下手を打てば・・・改易か。おい、そうなったらコトだぞ」

「全部煙みたいに消えちまいますね」

「我々の皇帝陛下は無能な貴族に容赦しなかったが、ここの王様はどうなんだろうな?」

 後部座席で俺達の会話を聞いていたライネッケ少佐が頭を振った。

「ここまで来て、それはマズいぞ」

「師団長閣下が言ったとおり、急ぎの仕事ですよ」

「帰ったらすぐ始めよう」

 ヴァグナー中佐の言葉にライネッケ少佐と2人で頷いた。


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