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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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82 魔法スキル

ルアブロン 中央街区

旧ザロモン子爵家屋敷

戦闘団B 指揮官 シュラーガー中佐


 私は2人の傭兵団長から契約履行の誓いを受けた後、任務について説明した。内容は屋敷と旧キルケス商会の商館と倉庫の警備である。

「警備は24時間体制・・・いや、昼夜を分かたず行うこととする。特に倉庫は狙われやすいと思われる。倉庫は全部で5棟、うち1棟は奴隷用で場所が離れているということなので、詳しい場所は後で指示する。拠点はこの屋敷か、他の場所が使えるかどうか確認してから決定するので、これも後ほど。それから、辺境伯家で変事が発生した場合は援軍として対処に当たるので、即時反応できるように。明日の朝、全部隊をこの屋敷に集合させて頂きたい」

 私の前に座る2人の傭兵団長は、私の指示を聞き逃すまいと羽ペンを走らせていた。

「私としては、お二人は勤務から外れて交代で指揮を執って頂き、もう1人は変事が発生した際に休憩中の部隊を指揮して頂く考えでいます」

「承知致しました、当直士官ですな」

「その通りです、アルタミエフ殿。各班の指揮官の選任と詳細な勤務体制はお任せします」

「承知致しました。それでは部下をここに集めた後、班編制が決定しましたらご報告にあがります」

「宜しく願います。何か質問は?」

「いえ、ありません」

「では、解散」

 2人は素早く立ち上がると、一礼して出て行った。2人を見送って閉まったドアがすぐにノックされたので応えると、ロイストン殿が入ってきた。

「失礼致します。メーティス殿から連絡係を命じられました。こちらに置いていただけませんでしょうか?」

 私の問いかける視線にロイストン殿は答えた。

「魔法具を持っておりますので、意思の疎通に問題はありません」

 ロイストン殿はそう言って左手の中指にはめている指輪を見せた。

 私以外に言葉が通じる者がいるのは大変助かるし、辺境伯家との伝令がいるのは都合が良い。

「了解した、よろしく頼む」

 私が了解すると、ロイストン殿は笑顔を返してきたが、すぐに表情を曇らせた。


「シュラーガー様、今のお二人とお話をされていらっしゃいましたか?」

「ああ、そうだが、何か問題でもあったかね?」

 突然の質問とその内容に面食らってしまったが、次のロイストン殿の言葉で私は我が身を疑う事になった。

「魔法具をお持ちではありませんが、どちらに着けておいでですか?」

 そう言われて自分の左手を見ると、指輪の魔法具がなかった。


(・・・・・・・・待て、指輪をどうした? ・・・そうだ、昨夜顔を洗うときに外して机の上に置いたはずだ。着けるのを忘れていたのか・・・)

 私は昨夜のことを思い出しながら、軍服のポケットを上から触ってみた。

(やはり無い、入れた記憶も無い。だが、この状態でヴラジェフ殿とアルタミエフ殿と話をして、ノゼックとも話をしたはずだ、魔法具を着けていないのに話せていたのか・・・。なぜだ・・・・あの目眩のような症状、あれか? いや、確証は何もない、だがあの感覚は初めてだった。それに、昨夜夢を見ていたような気がするが、思い出せん・・・)

 ふと気が付くと、ロイストン殿が左手から抜き取った指輪を机の上に置いて私を見ていた。

「私の言葉が分かりますか?」

「ああ、分かる」

「私は今、魔法具を外していますが、シュラーガー様の言葉が分かります」

「そのようだな」

 私とロイストン殿は言葉を続けられなかった。

「魔法を修得された、という事でしょうか」

 そうとしか考えられないが、私自身が確信を持ってそれを受け入れられなかった。


「いや、分からん。しかし話せているのは間違いない、今はその事実だけで充分だ。早速だが仕事を頼みたい」

 私は頭を切り替えてメーティス殿宛に、

 ・ 2個の傭兵団と契約を結び、この屋敷とキルケス商会の商館と倉庫の警備に当てる事にしたので、

  商館と倉庫の警備に当たっている辺境伯家の要員と交代させる事。

 ・ 市内の港周辺で借り受けられる宿泊施設が無いかの確認を願いたい。

以上の伝令を命じた。

 ロイストン殿が出て行くとすぐに自室へ戻り、机の周りを確認してみると、机の下の壁際に魔法具が落ちていた。魔法具を回収して事務室に戻ると、ヒルバー上等兵を呼んで商館に行くので車両の準備と、ノゼックと第2班の指揮官を事務室まで来させるよう命じた。


「参りました、中佐殿!」カツン!

「お呼びでございますか、旦那様」

「二人ともご苦労、休んでよし」

 私はまずノゼックを見た。

「ノゼック、ここに60人を滞在させることになるかもしれない。面倒みられるか?」

 目を見開いたノゼックがか細い声で答えた。

「旦那様、お部屋は空きがありますが、食事を賄う人手が足りません」

「やはりそうか。では、人手があれば可能か?」

「はい。料理人と下働きを増やす必要があるかと思います。詳しい人数は厨房頭と相談しなくてはいけませんが」

「分かった。使用人達の親族で仕事を探している者がいたら雇って良い」

「は、はい、畏まりました」

「ただし、身柄の保証と管理は君が責任を持て、いいな」

 ジロリ。視線で釘を刺すとノゼックは深々と頭を下げた。

「雇う者は生活が苦しい者を優先して選ぶように」

 ノゼックは上げかけた頭を再び下げた。

「フレーリヒ少尉」

 カツン!

 続いて第2班の指揮官に視線を移すと、少尉は間髪入れず反応した。

「私は所用で外出する、有事の際は無線で報告しろ。無線が通じないときは南に向かって信号弾を撃て、黄色と赤色だ。それから、先程現地人の傭兵部隊を雇用した。明日からこの屋敷の警備に就くので、引継ぎの手はずを整えておくように。明日引継ぎが終わったら、君の部隊は1班と交代で城館の警備に就いてもらう。詳細は第1班のドレクスラー中尉と決定しろ」

「了解しました、中佐殿。しかし、自分は現地語を話せません」

 私はポケットから魔法具を取り出して、少尉に渡した。

「これを預けるので使い給え、現地語が話せるようになる魔法の道具だ」

「は、これが魔法具でありますか。使い方はどのように・・」

 フレーリヒ少尉は受け取った指輪を、言われたとおり左手中指に嵌めた。

「使い方は、現地語を話せる様になることを念じる、それだけだ。ドレクスラー中尉にも教えておいてくれ。それと辺境伯爵家の騎士が1人、連絡将校として配属されることになった、今は席を外しているので戻ったら後で挨拶をしておくように」

「了解致しました! 中佐殿!」

「よろしい。私は昼食までには戻る、解散してよし」

 フレーリヒ少尉は、焦点が合っていなさそうな瞳のまま部屋を出て行った。


 装甲無線車で屋敷を出ると商館を目指した。

(こういった行政的な事務処理は得意ではないのだが・・。誰か適任者と交代して東方への救出作戦に取り掛かりたい)

 現状に対する若干の不満を覚えつつ、商館に到着した。警備についている衛兵の敬礼を受けて中に入った。2階に上がると事務室からマーデンクロットが出てくるところだった。

「お出でくださり恐縮でございます、シュラーガー様」

「うむ、商会員の様子はどうだ?」

「はい、みな業務に励んでおります。引続き雇って頂いた事に感謝しておりました」

「そうか、それならばよかった。もし、人手が足りなければ商会員の親族から雇っても良い。その時は君が身元の保証と管理に責任を持て」

「承知致しましました。改めて商会員に対するお心遣いに深く感謝致します。決してお心に背かぬよう務めさせて頂きます」

「期待している」

 マーデンクロットは深々と頭を下げた。

(先程のノゼックの反応を見て同じく言ってみたが、この世界では職を得るというのは難しいようだな。失業率が高いと言う事か・・、それにしては浮浪者の姿は見えなかったが・・・。いずれにせよ、使える人材を集める手段としては、手っ取り早くてよさそうだ)

 マーデンクロットの反応を見ながら、そんな事を考えた。その後は商会長室と金庫室の修理された扉を確認した後、マーデンクロットの事務室で色々と話合いをした。私からは屋敷への食材その他必需品の補充と在庫の管理についてと、傭兵の給与額の相場などを尋ねた。マーデンクロットからは、今まで取引きがあった商会への対応についての伺いなどであった。

「食料等の必需品は在庫を維持して貰いたい。贅沢な装飾品や家具などは必要ないので、他の商会を紹介するなどして相手に不利益にならないように取り計らってくれ。精算だけはきっちり済ませておくように」

「承知致しましました、そのように致します。そういえば、お知らせしていない財産がございました」

「なんだね?」

「商会が保有している船が二隻ございます」

「船、商船か」

「はい、昨日南大陸から仕入れを終えた船が一隻戻ってきました。もう一隻もまもなく戻ってきます。とりあえず荷下ろしを済ませた後は、船長以下の乗組員には待っているように伝えてあります」

「それでいい。運行はしばらく停止するが、その間の給金は支払う」

「乗組員は船長を除いて、奴隷身分でございます」

「・・では、船長には給金を支払い、それとは別に全員に一時的な褒賞を出しておけ、金額は・・」

「銀貨3枚あれば、しばらくは上等な食事ができます」

「任せる」

 私はマーデンクロットと話ながら、アルタミエフが海軍軍人であったことを思い出していた。

「周囲の反応はどうだ、何か変わったことは?」

「今のところ被害はありませんが、目つきの悪い連中がここと倉庫の周りを徘徊していると、商会員から知らせがありました。警備の隙を窺っているのではないかと」

「そうか・・」

(そう言えば、犯罪組織と繋がっていると言っていたな)

 マーデンクロットが不安そうにしていたので、商館と倉庫の警備のために傭兵を雇ったことを伝え、警備要員の宿泊と食事について確認すると

「承知致しましました。商館の裏に独り者の商会員を住まわせていた別館がありまして、住んでいた者は逃げてしまいましたので部屋は空いています。賄いもできますので問題ありません」

 マーデンクロットは心底安堵したようだった。

「では、そこを使わせよう。そう言えばここの三階にも部屋があったな」

「三階は前の商会長がお住まいになっていました。鍵が掛かっているのでそのままにしてあります」

「腕の良い鍵屋がいるといいのだが」

 マーデンクロットがなんとも言えない笑顔で応えた。

「三階は後回しにするとしよう。奴隷の管理はどうなっている?」

「はい、奴隷商人が費用を出し合って運営している管理組合がありまして、商会の管理舎に入っている奴隷の管理を依頼できる仕組みになっています。現在依頼しているのは最低ランクの管理ですが・・」

「最低、か」

「はい。ですので、時折様子を見に行って体調など問題ないか確認しています。こちらの帳簿に全て記録してあります、ご覧になりますか?」

「見せて貰おう」

 マーデンクロットが差し出した帳簿を受け取り、机の上でページをめくると、個人ごとのページになっていて奴隷の類別、年齢、性別、出自、職業、特技、状態のランクと最終確認日が書き込まれていた。最後まで目を通すと、静かに帳簿を閉じた。

「元騎士、従士、剣士、冒険者、傭兵・・。戦える者が多いな」

「はい。奴隷の買い付けは前の旦那様がご自分で扱っておりました」

「ふん、得意客の要望に応えていた訳か。あとは、商人、職人、貴族の婦女子か・・この辺は特技や出自で高く売れるからかね?」

「はい、特技が無くとも男は年齢が若ければ力仕事に使えます、女は容姿が優れていれば色々と使い途がありますので、高い値が付きやすくなります」

「だろうな。この帳簿に載っている奴隷に会うことはできるかね」

「はい、もちろんでございます」

「案内してくれ」

「はい、承知致しました」

 私は装甲無線車に戻ると、運転兵を残してヒルバー上等兵を同行させてマーデンクロットの案内で商館を後にした。



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