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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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78 実務担当者会議

ルアブロン 中央街区

辺境伯爵家城館 ルアブロン城

第91歩兵師団長代理 ブリンクマン大佐


 城館2階の一室で、我々は大きな机を挟んで向かい合っていた。

「ご助勢を頂いたおかげで、キルケス商会は片付きました」

「穏便に済んでなによりです。またお気遣い頂いた事についてお礼を申し上げます」

「反逆者が貯め込んでいた金ですから、ご自由にお使いください」

 私はメーティス殿と今までの成果について、挨拶を交わしていた。私の両隣にはシュラーガー中佐と、辺境伯爵家から提供された文官の制服を身につけたフィルカザーム大尉が座り、向かい合うメーティス殿の両隣にはリートホルド殿と初見の文官と覚しき若い女性が座っていた。室内には他に書記と思われる文官が2人、離れた所に置かれた机に筆記具と共に就いていた。

「未だカアンからの連絡はありませんが、接収は平穏裏に終わると考えております。そこでカアンの接収が終了した後、先に締結した協定が速やかに履行されるための調整をしたいと思い、この場を設けさせていただきました」

「メーティス殿のご配慮に感謝します」

 メーティス殿に提案されたのは、辺境伯家の内紛も終わりが見え、その後の体制移行に関する実務担当者の会議だった。

「今回は協定の項目に関する今後の方針の確認と、追加で必要な事項の確認と調整ができれば思っております。まず当家とホーフェンベルグ将軍閣下の地位関係の明確化についてであります」

 メーティス殿がやや言いにくそうに言った。

「これは先の協定にありました、相互同等の関係を否定するものではありません。サランタン及びルアブロン東街区を含む、デイルト川東側の統治委託に伴い、配下貴族及び諸勢力に対する外交的な説明に際して、無用な疑惑を抱かれないための措置であります」

 確かに、辺境伯領内には他にも配下貴族がいるし、北と西に隣接する貴族家も存在する。そして遠く離れているが王家もだ。広大な領地を持つ辺境伯爵が、身分定かでない者に領地の半分を預けていると知られては、政治的な介入を招く可能性が高い。

 メーティス殿からの提案は、師団長閣下を辺境伯家の客将という形で迎え入れるという内容だった。

「その件につきましては将軍閣下に窺って返答致します」

 私の回答にメーティス殿は当然のごとく了承した。


 次はデイルト川東側の統治委託についてだった。まずはサランタンとルアブロンの東街区について。

「我が軍としましては、最初に東街区から開始しようと考えております。当該地区における問題は、街区の一部が貧民街となっており、ここを拠点とする犯罪組織が存在している事も把握しております。また住民の衛生的な問題も懸念しておりまして、放置すれば伝染病の温床になり得ると考えております。従ってまずは東街区を完全に統治下に置き、正常化する考えです」

 私の言葉にメーティス殿とリートホルド殿は険しい表情で頷いた。

「また、東方で孤立している辺境伯爵軍の救出も、早急に実施したいと考えております。そこで、東街区の正常化と同時進行になりますが、まず東方に小規模な部隊を送り込んで現地の状況を把握させ、具体的な作戦に必要な兵力及び補給に必要不可欠である道路事情などの調査も行いたいと考えております」

 またも2人が頷いた。

「従いまして、サランタンの統治委託につきましては、しばらくの間猶予を頂きたいのです」

「なるほど、東街区の措置が終わってからというわけですね」

 メーティス殿の言葉に頷いた。

「その通りです。東街区は領都の一部でありますので疎かにはできません。また、サランタンの街も多くの人々が暮らしていますので、混乱は極力避けるべきだと考えます」

 メーティス殿と並んでいるリートホルド殿が腕組みをして、うんうんとしきりに頷いていた。それに気が付いたメーティス殿が、口元を緩ませながら同意した。

「分かりました、サランタンの統治委託については、時期を調整して実施することにしましょう」

 メーティス殿の言葉に感謝を伝えると、さらに言葉が続いた。

「ただ、サランタンの代官がザロモン子爵に近い人物であったため、身柄を拘束して職から外しておりまして、現在は衛士隊長が臨時に職務を代行している状態です。統治委託が完了するまで時間がかかるとなると問題が生じかねないため、委託完了まで暫定の代官を派遣する必要があると考えています」

「こちらの都合で統治に齟齬が生じるのは本意ではありません。当然の措置だと思います」

 私が答えると

「ありがとうございます。それでは暫定の代官を派遣しますが、時期が来てそちらの統治が開始された場合、領内の風習や法令、制度などについて助言を行う者として、その代官をそちらの執政府に編入していただくのはどうかと考えているのですが、いかがでしょうか?」

 私はフィルカザーム大尉と顔を合わせた。

(監視役も兼ねて、だな)

(その通りですが、受けておきましょう)

 一瞬で意思疎通を終わらせると、メーティス殿に向き直った。

「それは大変助かります、是非ともお願いします」

 私が笑顔で答えると、メーティス殿も笑顔で応えながら、隣にいた女性の文官を紹介してきた。

「承知致しました。それでは、これなる者が当家の文官であるイェレーナ・アルトロックです。歳はまだ若いですが、ここルアブロンの執政府で実務に携わっておりまして、この者をサランタンの暫定代官に任じることとします」

 メーティス殿の紹介が終わると、その文官は立ち上がって自己紹介を始めた。

「オーレンベアク辺境伯爵家家臣、騎士ヴィルヘルト・アルトロックが娘、エレトワ・アルトロックと申します」

 緊張しているのか、我々を怪しんでいるのか分からないが、目付きも表情も硬い印象だった。

 私が立ち上がって自己紹介すると、シュラーガー中佐とフィルカザーム大尉が続いた。皆が座り直すと

「アルトロックには全て説明してあります。あくまで引き継ぎと以後の助言が主ですので、使えるだけ使っていただいて結構です」

 メーティス殿が笑いながら続けたので、我々も微笑みを返しておいたがアルトロック殿は微動だにしなかった。


 その後は、東方に孤立している辺境伯軍の救出についての議題に移った。

 救出部隊に辺境伯軍の一部隊を加えることで、名目上の指揮官を辺境伯家の武官が務め、現地にいる辺境伯軍部隊との軋轢を避けることで一致した。

「実際の作戦行動については一切お任せ致します。また必要であれば、当家の兵を指揮下に入れることも含めておきます」

 戦闘区域に入った後になって指揮権で揉めるのは悪夢でしかない。シュラーガー中佐も黙ったまま安堵していた。

「どうか一兵でも多く領内に連れ帰って頂きたい」

 メーティス殿の後に、リートホルド殿が一言付け加えて頭を下げた。

「承知しました」

「最善を尽くすことをお約束致します」

 深々と頭を下げるリートホルド殿に対して答えた私の後に、シュラーガー中佐が一言付け加えた。


 その他に、執政府(軍政司令部)の用地について確認したところ、東街区の郊外にある騎士団の駐屯地である「東兵営」の使用を認められた。

「正式な同盟締結前ですが、周辺の土地も自由にお使いください。ただ、兵営に集積してある装備品は、騎士団の立て直しに使うので引き上げさせていただきたい」

 メーティス殿の申し入れは了承した。

「ありがとうございます。現在兵営には留守番部隊がおりますが、この命令書を見せれば問題ありません。ブリンクマン殿の指揮下に入るように書いておきました。それと、この城館の隣にザロモン子爵が別邸として使っていた屋敷がありますので、そちらもお使いください」

 メーティス殿は筒状に丸められて封印が施された封書を差し出しながら、一部隊と屋敷をひとつ貸し出すと言ってきた。突然の申し入れに驚いたが、配下貴族の中でも有力な貴族は城館の近くに別邸を持っていて、ルアブロンを訪れた際の宿泊や他家の貴族との交遊に使っているらしい。我が帝都にも同じ目的で、貴族達が屋敷を所有していたのを思い出した。

「ホーフェンベルグ将軍閣下がいらした際に、お使いになられると良いと思います。使用人は残してありまして、事情は説明済みです。何か問題がありましたら、こちらで新たに用意する事もできます」

 どう答えようか考えていると、フィルカザーム大尉が口を開いた。

「メーティス殿、その建物はどこにあるのですか?」

「はい、この城館が建っている丘の東側にあります。城館の敷地とは城壁で仕切られていますが、隣ですので使いやすいかと思います」

「仰るとおりです。大佐殿、お言葉に甘えてはいかがでしょう」

 フィルカザーム大尉はメーティス殿の答えを聞くと、視線を私に切り替えてきた。その眼は、いいことがあった。と言っているように見えたので、私は別邸を借用することにした。

「メーティス殿、ひとつお願いしたいことがあります」

 私の言葉が終わると、フィルカザーム大尉がメーティス殿に向かって口を開いた。

「なにか?」

「すでにお借りしている北の塔なのですが、引続きお借りすることは可能でしょうか?」

「え、ええ、構いませんが、あの塔は戦の時の物見に使うために建てられたのですが、築城以来攻められた事はありませんし、以前雷が落ちた事があってからは無人のままです。それでもよろしければお使いください」

「ありがとうございます。それではお借りします、細かいことはまた後ほどご相談致します」

 メーティス殿はフィルカザーム大尉の申し出を了承してくれた。


 これで会議は終了なり、最後に書記達が記録した議事録を一部受け取った。

「さて、この後はどうされますか、一度司令部に戻りますか?」

 シュラーガー中佐が尋ねてきたので、エカテリーニ殿との約束、領内の配下貴族の反応が出そろうまで、部隊を駐留させる事を話した。アイクマイアー少佐の戦闘団Aは、昨日のうちに引き上げていたので、今はシュラーガー中佐の戦闘団Bだけがルアブロンに駐留していた。

「なるほど、確かに詰めを甘くするのは宜しくありませんな」

 シュラーガー中佐が腕を組んで唸った。

「では、私が部隊と共に残留します。城館か借用した屋敷に部隊の一部と連絡係を残して置き、私自身は東兵営の下見をしておきます」

「了解しました、それでいきましょう。私も一度兵営を覗いて、それから師団司令部に戻ります」

「了解しました大佐殿、車はこちらで用意します。フィーラ軍属も同道されますか?」

「そうですね・・、フィルカザーム大尉、サリエ軍属はどうしますか?」

「はい、彼女も一旦司令部に戻って貰って構いません、それより隣のお屋敷を見ておきませんか?」

 我々は何やら上機嫌のフィルカザーム大尉の意見に従うことにした。

「それならば、案内できる者を付けますのでしばしお待ちくだされ」

 聞きつけたリートホルド殿の申し出を有り難く受けることにして、部屋を出た。


 城館を出るとシュラーガー中佐は各指揮官を集合させ、1班を城館、2班を屋敷に配置し、3班と4班には兵営まで帯同するよう下命した。

 その間に私はサレーラ軍属を呼び寄せ、フィルカザーム大尉もサリエ軍属とフィーラ軍属を含めた部下を集めると、部下達には何事か命じて解散させ、サリエ軍属とフィーラ軍属には我々と一緒に移動するよう命じた。


 その後にやって来た案内人の騎士を車両に同乗させて、隣の屋敷へと向かった。城館の城壁に沿って5分ほどで屋敷に着くと、3班と4班を路上で待機させ、2班と共に屋敷の門をくぐった。

 屋敷の正面玄関の前には、使用人頭を先頭に使用人達が左右に並んで出迎えてくれた。

「お待ちしておりました、使用人頭を務めておりますノゼックと申します」

すっかり緊張している使用人頭に用件を伝え、屋敷の中を案内させて一通り見て回った。

 屋敷は東西に長い南向きの二階建てで、石積みの外壁に白漆喰を使った美しい造りになっていた。内装は落ち着きのある色合いに配慮されていて、調度品の造りは手の込んだ物が使われていた。

(隣の主家に気を遣ったのだろう、派手さはないが外も中もしっかりしている)

 控えめな迎賓館、そのようなイメージだった。

(こんな気配りが出来るのに反逆を企てるのか・・・。それも仮面にすぎないのかも知れないが・・・・)

 私がそんな感想を抱いている間、フィルカザーム大尉は屋敷の東側をしきりに気にしていた。案内している使用人頭から離れているときに聞いてみると

「城館の北の塔を利用して、我が軍の通信センターを開設するのはどうかと思いまして。ただ、塔の中は狭いので、駄目なら塔にアンテナを付けて、こちらにケーブルを引けないかと思いまして」

 フィルカザーム大尉の声を潜めた答えに納得した。確かに北の塔はルアブロンで一番高い建物だったので、大型無線機を設置すればかなり広い範囲をカバーできそうだった。

(特に南の海だ。通信大隊と海軍は欲しがるだろう)

 私が通信センターの運用について考えていると、フィルカザーム大尉は笑いながら付け加えた。

「避雷針も必要ですが」

 その一言に笑顔で答えた。

「海軍が海上に部隊展開したときに重要な施設になるでしょう。通信センターを開設した後は、紛れてしまえば良い、と言う事ですか」

 フィルカザーム大尉は和やかに頷いた。

「ここに部隊が駐屯するかどうかはまだ分かりませんが、できれば城館のほうが良さそうです。リュック少佐と海軍とも話し合ってみましょう」

「よろしくお願いします、大佐殿」コツン!

 フィルカザーム大尉は小さく踵を打ち合わせた。 

 屋敷の確認が終わると、使用人頭に対して引続き働きたい者は継続して雇う事を告げると、安堵して頭を下げた。

「ありがとうございます、皆も喜びます」

 使用人頭の言葉の意味が理解できなかったが、シュラーガー中佐が事情を教えてくれて納得した。

(雇った後に官憲に呼び出されたら、家名に影響する訳か)

 念の為、裏切り内通は許さない、誠実に務める事を要求すると言い渡して屋敷を出た。

 中型兵員車に乗り込んですぐ

「ブリンクマン大佐殿、使用人達に敵意を抱いている者はいませんでしたわ」

 フィーラ軍属が小声で報告してきた。

「シュラーガー中佐殿に命じられまして、視ておきました」

「分かりました」

 そう言いながら後ろの装甲無線車を振り返ると、砲塔に立つシュラーガー中佐が右手を上げて敬礼の仕草をしたので、私もそれに同じく応じた。そして、車両の運転兵に出発を命じ、車列を率いて東兵営を目指した。


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